ルカ達五人は処刑の準備が整うまでの間、事務所に閉じ込められた。
「どうする」
サルムが言った。
外には妖精族[エルフ]の護衛官が居て見張りをしている。
「このままじゃ俺達は皆殺される」
「パロスにそこまでする権限があるのか?」
「妖精族がどんな決まりを作ってるのかなんて知らねえ。でも妖精族は人族を殺すことを何とも思っちゃいねえし、他の妖精族もいちいち人族を助けに来やしねえ。これだけは確かさ」
サルムが言う。
他の三人は話す気力もないようで、壁際に集まってうな垂れていた。
「パロス総督」
「中の奴隷どもは大人しくしておるか?」
「ええ。今の所、逃げる素振りはありません」
「そうか」
事務所の扉が開く。
「残念だな、ルカ。ソルバーユは今留守だそうだ。帰ってくるのは早くて二日後だそうだ」
パロスが笑いながら言う。
何がおかしいんだ。
「このままじゃあんたも同罪だぞ? ここの責任者はあんたなんだからな」
「同罪? 違うな。お前達は死刑だが、わしはここを辞めて元の仕事に戻るだけだ」
パロスは仕事に誇りを持っていないのだ。話にならない。
「お前達の最期を見届ける者を選べ。一人三人までだ。処刑場に呼んでやる」
パロスの言葉に、先ほどまで壁際で俯いていただけだった三人が、口々に名前を発し始めた。一度に言われて聞き取れなかったのか、パロスは外に居た護衛官を呼び、それぞれの希望を書き留めさせた。
「お前は」
サルムを見てパロスが言う。
「妻と、娘を」
パロスの後ろで護衛官が石版に書く。
サルムの目は、最期を見てもらうことだけに希望を乗せて家族の名前を叫ぶ三人とは違った。
「お前は」
今度はルカに向かって言った。
「誰でもいいのか?」
「ソルバーユは無理だぞ。処刑は今日中にやるからな」
また笑う。
ルカの味方が居ないと思って笑っているのだろう。
「じゃあ、イーメルを」
「何?」
パロスが明らかに驚いた表情で言った。
「それは王女の名前ではないか。同じ名の奴隷が居るのか?」
「王女で間違いない。呼べないのか? あんた偉いんだろ?」
「もちろん呼べる。呼べるが、王女が来ないと言ったらどうするつもりだ。それよりも、お前が一緒に暮らしている人族とかの方が良いんじゃないか?」
「彼はまだ子どもだ。人が殺される所なんて見せたくない」
ルカの言葉に、家族の名を言った男達はまた俯いた。
「まあ、王女は忙しいだろうし、一番最初に呼びに行ってくれよ。王女が来ると言ってるのに呼びに行くのが遅れたせいで処刑に間に合わなかった、ってんじゃ、さすがにあんたも責任を取らなきゃならなくなるだろうしな」
「うぬぬ。よし分かった。そこのお前、王女に使いを。一人はここで見張りだ。残りは手分けをして人を集めて来い」
パロスが付近に居る護衛官に向かって指示を出した。
事務所に居たパロスと護衛官が外へ出る。
「王女がお前に会いに来るってのか?」
壁際に居た男が言った。
「ああ、来るさ。なんたって、お姫さんは俺に借りがある」
ルカが答えると、聞いた男も含めサルムまで変な顔をした。
日が山に隠れてまだ薄明るい時間に、ルカ達は事務所から出された。縄で縛ったままだから、処刑の準備が滞り無く終わったということなのだろう。
馬屋から出て少し行った小さな牧草地に、今までは無かった木で作った柵が巡らされていて、真ん中に台が置かれていた。そこにルカ達五人が上らされて、後ろにそれぞれ別の妖精族が立った。
真後ろだから見えないが、おそらく彼らが死刑執行人だろう。
少ししてから、正面から十人前後の人族が小走りに駆けてきた。処刑される男達が呼んだ家族だ。
処刑台の手前で、妖精族が槍を使って家族を遮った。
ルカも会った事がある顔も混ざっている。サルムの妻と娘も来ていた。通行を妨げている槍の隙間から手を伸ばし、夫に声をかける女も居れば、祈っている女も居る。泣きそうな子どもも居れば、まだ何が起こるのか理解できないと思われる小さな子どもも居た。
処刑台の前に、パロスが歩み出た。
「おい」
ルカが言う。
パロスが振り返った。
「お姫さんは、イーメルはどうした。来ていないようだが」
「さあな。使いは出したが、どうなったかまではわしは知らぬ。あまりに失礼な要求だったから、使いの者が王女に捕まったのかも知れんな」
唇の端を上げて、パロスが言った。
どうなったのか知らないというのは本当だろう。実際に、使いに出された妖精族がまだ帰ってきていない。
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