序
地上には人族の他に、妖精族と魔族が居た。妖精族はその人には無い力を利用し、人族と魔族の両方を支配していた。妖精族と魔族はその祖を同じくするが、容貌は全く異なる。 この町は十五年前から首都となっている。砂漠の中のオアシスに住む妖精族と、奴隷として働く人族とが共に暮らしていた。 奴隷としての仕事は決して楽なものではなかった。しかし、人族は自分の仕える妖精族に文句を言うことも刃向かうこともできなかった。それほど力の差は歴然としていたのだ。 十五年前、この町の領主であるイレイヤ公が、領土をこれまで広げてきた結果として、自分の土地と、そして征服していった土地を併せてイレイヤ公自身の国とした。イレイヤ公はヴォルテスと名を変えてこの国を治める。 この国の名はカザート。首都である町の名も同じである。この都に、ある一人の青年が迷い込む。疲れ果てた青年を見つけたのは、牧草地で羊の番をしていた人族の少女であった。 少女は大人たちを呼びに行く。そして、大人たちは青年を車に乗せ、離れの小屋まで運んだ。 |