04年08月に読んだ本。   ←04年07月分へ 04年09月分へ→ ↑Indexへ ↓高永麻弥へのメール
●「ソウルドロップの幽体研究」上遠野浩平[祥伝社NON NOVEL]838円(04/08/31) →【bk1】【Amazon】

<生命と同等の価値のあるものを盗む> 怪盗・ペーパーカットからの奇妙な予告状が届いた場所では、どうでもよさそうなものが一つ盗まれ、そしてひとつの生命が失われるという。そのペイパーカットの予告状が、早世した歌手・みなもと雫の追悼コンサートが行われる巨大ホールに届いた。サーカム保険の調査員・伊佐と千条は調査のために会場に赴いたが…
私に上遠野浩平は特別な存在の作家さんなのですが、この作品はもうひとつ響いてくるものがありませんでした。上遠野浩平作品というよりは、上遠野浩平風作品という感じで… 中途半端というか、コアとなるものが見えてこなかったというか…
それでも探偵の二人組は結構ツボなので、シリーズの続きが出たら読みたいです。
冒頭の霧間誠一のエピグラフから「この世界もつながっているのかなあ」と思いながら読んだのですが、つながっているというよりは同じ時空間にある様子。時代的には、数年先?かな…
微妙にネタバレ→ロボット探偵はかなりツボにハマりました。斉藤岬さんのイラストも素敵で。
ペーパーカットは作中の描写からして虚空牙のようですが、エコーズ以外にもこの時代に違ったタイプの虚空牙が送り込まれていたんですね。こういうタイプの虚空牙もいるのかと考えた時に、ブギーポップも虚空牙?と一瞬思ってしまいましたが、とらえどころのなさに似通った部分はあっても、ブギーポップの行動の方向性がペーパーカットとはかなり違いますから、そんなわけないんですよね… ブギーポップは観察するのではなく戦っているのですから。
ただ、ソウルドロップがみせたMPLS的な能力からして、MPLSの存在に虚空牙からのなんらかの影響があったりするんだろうか、とか妄想してたりします。


●「続・垂里冴子のお見合いと推理」山口雅也[講談社文庫]571円(04/08/27) →【bk1】【Amazon】

おっとりとした美人でありながら、なぜか見合いのたびに奇妙な事件が起こってしまうために、そのたびに破談になってしまう縁遠い名探偵・垂里冴子の活躍を描いたユーモアミステリ「垂里冴子のお見合いと推理」の続編。今回も4つの話が収録されています。
気楽に楽しめる小説でありながら、ミステリとしての質の高さを保っているのはさすが。軽くてコクがあるミステリを読みたい人にオススメです。


●「亡国のイージス 上/下」福井晴敏[講談社文庫]695/695円(04/08/26) →【bk1】上/下 【Amazon】上/下

米軍が開発した恐るべき兵器を北朝鮮の工作員が強奪した。そのテロリズムと自衛隊の最新システム護衛艦《いそかぜ》と結びついたとき、日本にもたらされた悪夢は…
1999年に発売されて評判を呼んだ作品。2005年に映画公開も決まっています。文庫本化もかなり前にされていたのですが、あまりの本の太さと「軍事モノ」というあまり得意でないジャンルのためになんとなく手を出し損ねていました。
実際に読んでみると、文庫本で上下あわせて1000ページを越える作品なのに、物語のパワーにぐいぐいと引っ張られるので、長さを感じません。ミリタリー関係の知識が浅い私でもひっかかることなく楽しめ、特に下巻に入ってからは一気読みでした。
軍隊は国を守るために存在するもの。しかし、守るに値する国とは一体何か。嫌なものをみなかったことにして、その場しのぎの対応をするばかりで、責任を果たさず「平和」を享受しているだけの日本人。私もそんな生ぬるい日本人のひとりですから、この物語に突きつけられた鋭い問いが痛かったです。
親子の情の濃さ、絆の太さに涙。自らの信じるもののために命をかける男たちの物語が熱かったです。
キャラも魅力的で、愛を知らない不器用な人間兵器青年萌えな人や、人情篤い中年男の奮戦萌えな人、そしてなにより熱すぎる友情が好きな人にとってはたまらない作品ではないでしょうか。


●「方舟は冬の国へ」西澤保彦[カッパ・ノベルス]900円(04/08/21) →【bk1】【Amazon】

失業中の和人の元に奇妙な仕事が舞い込んできた。監視カメラと盗聴器がしかけられた別荘で、その館の主になりきってひと夏を過ごしてほしい、と。和人は初対面の女性と、少女と3人で理想的な「家族」を監視付で演じることになるが…
ミステリ部分は少々弱いものの、ほろ苦くて切なくていいお話でした。
もし彼らが落ち合って一緒に逃げたとしても、相手にしているシステムが強大なだけに、幸せになれるんだろうか?と思ってしまいます。それがあるからこそのラストが切ないのですが。


●「作家小説」有栖川有栖[幻冬舎文庫]533円(04/08/17) →【bk1】【Amazon】

タイトルどおり「小説作家」が主人公のオムニバス小説。8つの短篇が収録されています。
ピリリとスパイスがきいていて、おもしろかったです。ブラックジョーク的なものもあれば、ミステリー的なもの、ホラーめいた話、ファンタジックな話とバラエティに富んでいました。
話として気に入ったのは「書かないでくれます?」「夢物語」ですが、頭に残るのは現在の出版業界の問題点について言及した「奇骨先生」。2001年に書かれてから3年、本をとりまく状況はよくならず、緩慢な衰退の道を歩み続けているわけで。崩壊はおそらく避けられないし、今の歪んだ状況のまま続くのはよくないとはわかっていますが、私の好きな作家のうち、今のシステムが崩壊しても本を出し続けることができるほど売れている人たちがどれだけいるかを考えると… その時が来るのが少しでも先になってほしいなあ、と思ったりするんですよねぇ。


●「復活の地II」小川一水[ハヤカワ文庫]720円(04/08/13) →【bk1】【Amazon】

「崩壊した国家の再生を描く壮大なる群像劇」「復活の地」二作目。
レンカ帝国の首都を襲った未曾有の震災。50万人に及ぶ死者を出し、事態は一時終息を迎えた。復興院の総裁に就任したセイオは疲弊したレンカ帝国の将来を見据えた帝都再生計画を立てるが、強引な政策のために政府・官僚だけでなく、一般市民たちからも反感を買ってしまう。そんな中、植民地であるジャルータ王国で反乱が起こってしまうが…
この2巻は読んでて正直しんどかったです。作品がつまらないからではなくて、痛ましい事件のニュースを聞いていられなくて、ついチャンネルを変えてしまいたくなる気持ちに近いかも。
志が高く、私心のない有能な人が尽力しても、理解がえられず、事態はまったく進まないどころか、悪化するばかり。己の保身しか考えられない官僚や、混迷した事態を自らの政争に利用する政治家、そしてなによりプライドばかりが高く視野の狭い帝国民たち…
セイオがどんどん追い詰められていきますが、そのセイオにも問題はあるわけで。迅速な対応が必要とはいえ、説明して理解を求める時間を惜しんで強引に物事を進めすぎるし、大局を見据えすぎているために足元のことにおそろかになってしまうし。そういうセイオの悪い部分はわかっていても、彼の尽力が空回りしてしまうところ、読んでて徒労感をおぼえてしまいます。
もう一方の主役のスミル。1巻では(彼女の置かれた立場を考えると仕方ないとはいえ)スミルの無自覚なところに苛立ちを覚えましたが、2巻では様々な経験を通して自分なりに考えてゆくすべをみつけたようで、それが完結編での彼女の行動に反映されるのを期待しています。
そしてラストに明かされた、地震を起こしたもの。…今のこの状態で、さらにアレが起こるなんて、レンカ帝国は生き延びることができるんですかねぇ…
次で完結。小川さんがどんなレンカ星の未来を描いてくれるのか、それを読めるのを楽しみにしています。


●「譚詩曲の流れゆく 歓楽の都」駒崎優[角川ビーンズ文庫]457円(04/08/07) →【bk1】【Amazon】

「手折られた青い百合 歓楽の都」に続く、シリーズ二作目。
19世紀末ロンドン。その一画にある自治区・レーンは"歓楽の都"。そこでは美貌だけではなく教養もある「宝石」と呼ばれる少年・少女たちが春をひさいでいた。レーンのトップクラスの宝石の一人の少年・ショウは、教授の殺人計画を耳にしてしまったために、命からがら逃げてきた学生のダドリーを拾ってしまい、彼をかくまうことに。そして、武器の持ち込みができないはずのレーンで、射殺された死体が見つかったが…
いい感じにまったりしてきました。
帯をみる限りではボーイズラブぽいですが、そちらの濃度はさほど高くありませんのでそっちに期待すると肩透かしかも。家族以上、恋人未満のようなゆったりとした関係なので。
前作の感想で駒崎さんの描くボーイズラブ的な話は、私には萌えられないなあと書きました。今作が私におもしろく感じられたのは、私は駒崎さんの描く作品では恋愛という不安定な関係よりも、仲間としての絆や家族的な愛情のような安定性のある関係の方が好みだから…なのかもしれません。
ミステリ部分も派手な仕掛けはないものの、バランスのとれた展開でいい感じでした。


●「空の鐘の響く惑星で 4」渡瀬草一郎[電撃文庫]570円(04/08/06) →【bk1】【Amazon】

SF要素のある、歴史群像的なファンタジーシリーズ「空ノ鐘の響く惑星で」の最新作。
第二王子・レジークの謀略により、暗殺者の汚名を着せられ、命を狙われた第四王子フェリオ。なんとか王都を脱出したフェリオは、レジークの暴挙を止めるべく、同盟者を集め王都に攻めあがったが、彼の前に軍師として類まれな才能を持つクラウスが立ちはだかった…
今回で話は一区切り。正直、あっけないなあ…という印象が。もっとも深い傷を残さずに内戦が終結したのはいいことではありますが、政略方面の描写や個々の戦闘描写に比べると、合戦シーンの描写に物足りないものがありました。(「パラサイトムーン」シリーズの戦闘シーンの描写は結構好きです。)
個人的には、リセリナがやってきた「向こうの世界」のしくみ、そちらとこちら側の世界の微妙な関係を匂わせる、「世界の謎」に関わる描写にわくわくしました。どんな展開になるのか楽しみです。
ネタバレ感想→ヌルい決着のつけ方だなあとは思いつつも、クラウス兄ちゃんには幸せになってもらいたかったので、よかったなあ、と。


●「EDGE4〜檻のない虜囚〜」とみなが貴和[講談社ホワイトハート]600円(04/08/04) →【bk1】【Amazon】

現代の「東京」という歪んだ都市に発生する犯罪と、それを解決する天才プロファイラーを描いた「EDGE」シリーズ、待望の新刊。3年4か月ぶりです。もう、どれだけ待ち焦がれたことか…
宗一郎を東京に置いて、ひとり帰郷した錬摩。安らかな日常が流れてゆく中、錬摩は心に開いた穴を埋めるように、東京の下町で起きた犬の連続虐待事件のプロファイリングを依頼もないのに行い始めた。
一方宗一郎は、とある事件がきっかけで知り合った女性と何度も会ううちに、持て余していた自分の中の錬摩に対する思いが何であるかを自覚して…

事件自体は小粒でしたが、一見平和に見える家庭の微妙な歪み、それが街自身が持つ歪みで増幅され、その歪みの蓄積が「事件」につながる、その過程。匂いや手触りまで感じるようなその描写力は相変わらずです。
「犯人」の心理描写が、今回も見事でした。堪能しました。
日常と隣あわせの狂気、それに踏み込んでしまった人、踏みこみそうになっているのを必死に留まっている人、そういう人たちの心理描写を書かせたらピカイチな作家さんですので、ミステリ好きを自認している方にはぜひ読んでほしいシリーズです。ミステリ部分は独立しているので、今作だけを読んでも大丈夫ですが、シリーズを最初から順番に読んだ方がおもしろいと思います。

 「EDGE〜エッジ〜」:【Amazon】 / 【感想】
 「EDGE2 〜三月の誘拐者〜」:【Amazon】 / 【感想】
 「EDGE3 〜毒の夏〜」:【Amazon】 / 【感想】

このシリーズのもう一つのお楽しみの、切ない恋愛模様。ぎりぎりまで抑え続けていた枷が、今回弾けとびました。ビデネスホテルでのやりとりのシーンは、「いけ、宗一郎!!」と握りこぶりをつくりながら読んでたんですが、ああ… あまりに複雑な事情がありすぎて「幸せになれる道はあるのか?」と思えてしまうこのカプですが、シリーズ最終作となる次作ではなんとかなってほしいなあ…
(恋愛ものとしてのツボは前作「EDGE3 〜毒の夏〜」の感想で熱く語っていますので、興味があればそちらを読んでください。)
で、前作で匂わされていた、錬摩の父親がついに本格的に登場!!
次作が今から待ち遠しいです。なるべく早く読めるといいのですが。


●「斬魔大聖デモンベイン 機神胎動」古橋秀之[角川スニーカー文庫]620円(04/08/03) →【bk1】【Amazon】

最近PS2に移植された、PCゲーム「デモンベイン」の、古橋さんの手によるオリジナル番外編です。
魔道と巨大ロボットとが灼熱の炎で溶け合った作品。私は元のゲームはやっていませんが、おもしろく読めました。特にデモンベインの起動シーンから後の展開が非常に燃えます。
論理によって動く"魔法"を科学の力で解析し、プログラム化し、エミュレートすることで機械的に" 魔法"を発動する。しかも舞台が19世紀末で現代のようなコンピュータがまだないために、呪文を翻訳したデータがパンチカードで打ち込まれるんですが、その「パンチカード」がすごくツボでした。カタカタ動く機械や、パチパチ入れられてゆくスイッチが好きなので。
古橋作品とは思えないほど読みやすく、メジャーな空気の漂う作品に仕上がっています。「サムライ・レンズマン」の時にも思ったのですが、元が他の人の作品だと思考ベースにそちらの影響が強くでるからなのかもしれません。それでも古橋作品の匂いもしっかり保っているあたりがさすがですが。
私にとって古橋さんは熱心に追いかけている作家さんの一人ですから、元ネタを古橋さんがどういう風にアレンジして、どういうアイデアを付け加えたのか、それを知りたいのですが、今回のように原作が知らない作品だとわからないのでもどかしく思ってしまいます。その差異の部分を知るためにも、元のゲームをやってみようかなあと思います。非常に評判のいいゲームのようですし。


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