00年4月に読んだ本。   ←00年3月分へ 00年5月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「魔術士オーフェンはぐれ旅 我が絶望つつめ緑」秋田禎信[富士見ファンタジア文庫]480円(00/4/29)

「魔術士オーフェンはぐれ旅」シリーズ最新作。
シリーズもとりあえずひと段落ということで、クライマックス。かなりハデな展開になるんですが、実は前作までの展開の記憶がおぼろげなんで、意味がよくわからない部分が…シリーズものの宿命ではありますが。
とにかく、今回の話はコルゴン。イラストがいいですねー。コルゴン×キリランシェロっていいかもっ!!
ただ今回、最初の登場シーンでのコルゴンの詠唱はなかなかカッコよかったのに、中盤に「我は放つ光の白刃」ってコルゴンが…え、これってオーフェンの唱え方では? 最初と整合性がとれないんですけど、うっかりミスなのかな。でも人によって呪文の唱え方が違うというのはかなり重要なファクターなので、きっちりしてほしかったです。
無謀編は完結したそうですが、だとしたらもうプレオーフェンも読めないの?それが残念。
《追加》
コルゴンの詠唱についてですが、最初のはダミアンのじゃないか、という指摘を掲示板でうけました。これについてですが、彼がオーフェンを助けたときに「呪文を唱えずに」傷を治している様がでてきてるので、他の場合も呪文を唱えていない可能性の方が高いのはないかと思うのと、マジクがその男にオーフェンと同じようなものを見出している(コルゴンはオーフェンの兄弟子ですから)ところから私はコルゴンだと推測したんですが…決定打はないですよねぇ。
コルゴンがオーフェンと同じ方式で唱えているとして、オーフェンがコルゴンの影響を受けたのか、それともチャイルドマン先生の方式をそのまま受け継いだのかのどちらかじゃないかと。(先生の詠唱方式は今までにでてきてたか、ちょっと調べてみないとわかんないですねぇ…誰がご存知の方がいたら教えてください。)


●「寒椿の少女」紗々亜璃須[講談社X文庫ホワイトハート]530円(00/4/27)

第6回ホワイトハート大賞《優秀賞》受賞作の「水仙の清姫」と同じ世界を舞台にした物語です。時間的には前作よりも十何年ちょっと前になるのですが。
中華風ファンタジー。60を過ぎた男のところに嫁ぐハメになった暁春。意に添わない縁談にも平然としている暁春であったが、ある日森で小鳥に化けた道姑を助けた彼女は、新しい縁談を探してもらうことになったが…
匂いが濃くないので読みやすいのは確かですが、少々物足りないかも。ヒロインが生意気なのがなあ。優しいところもあるのはわかるんですが、それが魅力に結びついてないかも。
ラストのオチも、ちょっと都合がよすぎるような。まあ、少女向けの御伽噺だからいいんでしょうけど。
基本的には悪くはない作品なんだけれども、この作品独自のウリというのがもうひとつ見えてこないのがなあ。


●「経済のニュースが面白いほどわかる本 日本経済編」細野真宏[中経出版]1400円(00/4/26)

前から本屋でみかけて気になっていたけど、思いきって購入していました。
人気予備校講師が書いた本。現在の経済のしくみを、マンガやわかりやすい例えを使って、小学生でもわかるように書いています。いやー、ほんとわかりやすい。個人的には感覚的に理解しづらかった、マネー経済(株やドル/円などのやりとりなど実態が伴なわないお金のやりとり)について丁寧に書いてくれてるのがありがたかったです。バブルになったしくみや、それがなぜ崩壊してどういう影響がでたのかなども詳しく説明されてますが、やはりこういうのを読んでもなぜ「土地/株の値段は上がり続ける」という神話を多くの人が信じていたのか、理解できないですね…いや、人は楽してお金儲けをしたいものだし、自分の信じたいことだけを信じるものなんでしょう。そして、いざという事態になっても、自分だけはババを引かないという思いこみがあるのかも。
今、「ITもどき」株が暴落していますが、ちょっと調べるとITでもなんでもない怪しげな企業にそんな高値をつけていたのか…と思うようなところばかりでしたから。中には半年の売上がたった!!33万円のところも!!その会社の株、額面5万円が最盛期には1千万円を超えてたんですよ…
それにしても実物経済とマネー経済の割合が1対9くらいだと聞いて、こんなあやふやなもののお金の流通が経済を支配していることに、なんとなく落ち着きが悪いものを感じるのは、私だけでしょうか。
さて、このシリーズ「世界経済編」も予定されているそうですが、楽しみです。
この本に載ってる程度の経済に関する知識は持っておくべきかも。目次をぱらぱらとみて、興味を持ったら読んでみてください。


●「とおの眠りのみなめさめ」紫宮葵[講談社X文庫ホワイトハート]530円(00/4/26)

第7回ホワイトハート大賞受賞作。
呪いのせいで、男の子が育たないという言い伝えを持つ藤波家のひとり息子の薫流は、平安時代のような女房装束の女が宴に誘うという、毎夜奇妙な夢をみるが…
帯に「幻想耽美文学」と書いてますが、夢とうつつの境をさまようような物語にしあがっています。少々ホモくさい。
悪くはないですがもうひとつ突破する力はないというか。とりあえず次の作品もでたら買ってみようかな。


●「流血女神伝 砂の覇王2」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]476円(00/4/25)

「流血女神伝 砂の覇王」の続編。異世界ファンタジーものです。
王子の身代わりの次は奴隷。今度は砂漠の国のハーレムを舞台にした女同士の戦いです。二転三転する状況でもカリエは前向きに頑張ってるから読後感はいいですね。それにしてもまた今回もとんでもない終わり方…カリエの純潔が心配です。次は秋ですか。発売を心待ちしてます。
宗教や文化、民族などの細かい設定の書きこみ方や、新たに出てきた謎、名前だけ思わせぶりにでてくるキャラ…ってことはこのシリーズってかなり長くなる感じがしますね。単に長いだけではなく、深くもなりそうなので先が楽しみですが。
ドーンとグラーシカのコンビは結構いい感じかも。でも個人的にはドーンとロイの昏い鎖で繋がれた絆の方がツボ。
バルアンの豪快さをあらわすエピソードがもうすこしあればよかったかな? コルドがいい味出してますが、イラストがなかったのは残念。(ラフイラストはイラストレーターの船戸明里さん作成の「女神伝」ファンサイトCOCOA Cupでみることができますが)コルドは「いけしゃあしゃあ」系のキャラで、エイゼンよりももっと割り切ってる感じが素敵。好みのタイプだなあ。
217ページのエドとカリエのイラストがとてもよかったです。この二人にはうまくいってほしいけど、どっかにぶいからなあ、先は大変そうだよね。
このシリーズ、結構オススメですが読むのでしたら必ず「流血女神伝 帝国の娘」から。現在のところシリーズはまだ4冊目です。


●「センチュリオン奇襲作戦」陰山琢磨[ソノラマ文庫NEXT]533円(00/4/23)

あらすじがおもしろそうなんで買ってみました。帯には「近未来クライムストーリー」と書いてありますが、どっちかというと軍事オタクな話でしたなあ。
舞台は近未来の日本。シンガポールの兵器会社が、「二足歩行人型兵器」の開発をリストラのため中止する。しかし担当者はひそかにその兵器を他のメーカーに売り渡すために、実戦で試してみようとする。その前に、きちんとできてなかった操作系のGUI周りの設計を、日本のゲーム会社に「ゲーム」と偽って発注する。日本では、アニメの影響で二足歩行ロボットのゲームなのが活発で、操作ノウハウが蓄積されていたのだった…
シチュエーションはなかなかおもしろいんですが、エンターティメントとしては、過剰な部分が邪魔をして素直に楽しめないんですよね。一部のマニアだけではなく、一般読者も相手にするのであれば、軍事的なマニアックな部分を「リアリティ」を出すための最低限度にとどめておいた方がよかったかも。マニアじゃない人にはわかんない単語だらけで。キャラの配置やエピソードの見せ方も、イマイチ。
この話は、おそらく「二足歩行する人型兵器」をただリアルに描きたかったんでしょう。それは成功しているんじゃないかと思いますが、軍事マニアの人は別の意見になるのかも。
人型兵器萌えな人にはオススメ。ちなみに大きさは人よりすこし大きいくらいで、中に人は搭乗せず、遠隔操作タイプです。人工知能の搭載などはありません。


●「トップラン 第1話 ここが最前線」清涼院流水[幻冬舎文庫]457円(00/4/20)

「コズミック」や「カーニバル」などで悪名(?)高い、清涼院流水の文庫本書き下ろし新シリーズ。「カーニバル」も「ユウ」も買ってはいるけど積読になってしまったせいもあって、この作家さんに特に執着はないんですが………表紙が「サイコ」でお馴染みの田島昭宇さんで、これがまた線が繊細で美しくて、色使いもいいんですよっ。絵に魅せられて買ってしまいました。
それにしてもこれ、ある意味、すごい作品かも。プリントアウトされたワープロ文書をスキャナで高画質で取り込んで、そのままBMPでWORDに貼り付けたファイルのような。…圧縮すると100分の1以下になります。
話のアウトラインは、大学生の恋子が、貴船天使という見知らぬ男から「鑑定テストを受けないか」と持ちかけられる。33問に答えるだけで100万円をもらえるほか、テストの結果でつけられる「値段」だけお金が支払われる…というあまりにも怪しすぎるおいしい話を恋子はいぶかしく思いながらも引き受けることに…という内容。
星新一だったら同じ内容のものを5ページのショートショートにできるんじゃないかなあ。
それに現代のできごとをそのまま料理もせずに並べられても…同時代性をウリにするにも、固有名詞を列挙されてるだけじゃねぇ。それともそれが今後の展開に深く関わるとでもいうんでしょうか? その可能性は薄いような気がしますが。
清涼院流水は、内容の割にページ数が多い作家さんではありますが、それでもここまで薄いのは初めて。これに比べたら同じ作者の「コズミック」や「カーニバル・イヴ」の方が(あれでも)10倍くらい濃いです。
これから2か月おきに6回連続でシリーズが刊行されるそうですが、最後までやっぱりこの密度でしょうか? 続きは…田島昭宇さんのイラストがよければまた買ってしまうかもしれない。


●「架空幻想都市 上」めるへんめーかー編[ログアウト冒険文庫]520円(00/4/19)

これまた借り物。パソコン通信(たぶんNIFTY)で企画され、雑誌「ログアウト」で連載された企画モノ。1994年に出版されています。
収録された作家と作品名は、
 (1)街が来る日 斎藤肇
 (2)いにしえの種族 妹尾ゆふ子
 (3)街降る季節 岬兄悟
 (4)倫敦(ロンドン),1888 小野不由美
 (5)忘れられし町の物語 神代創
 (6)欅荘の怪事件 太田忠司
 (7)代理原稿 菅浩江
 (8)見えない街へ 矢崎麗夜
 (9)エクソシスオペ 久美沙織
共通テーマとしては、幻のようなもうひとつの「街」と刃物じじい、…他にもあるのかな?
正統派ファンタジーもあれば、なぜかミステリ、エロにいったりする作品も。
結構楽しめました。個人的に面白かったのは、2と4。2は正統派ファンタジー、4は夢うつつな切り裂きジャックの話です。
7の「イタいファンレター」の文面にもかなりウケてしまいましたが。ああいう自分の都合のいいこと しか考えてないような身勝手なファンレターって実際に届いているんだろうなあ。
このシリーズの「下」の方も読んでみたいけど、手に入るものなんだろうか…


●「悪霊なんかこわくない」小野不由美[講談社X文庫ティーンズハート]380円(00/4/18)

これまた貸していただいた本です。1989年に出た、小野さんの三作目の作品。タイトルに「悪霊」と入っていますが、ナルがでてくる「ゴーストハント」シリーズではなんの関係もありません。
杳は田舎に嫁入りした姉からの「助けて」という手紙に気になって訪ねたところ、夜中に部屋の周りを何かがうろつきまわる音を聞いてしまった。悪霊に悩まされている姉を助けるために、義弟の蓮と共に過去のことを調べるが…という感じのホラー。
ティストはそのまんま「悪霊シリーズ」という感じ。最初の何かが部屋の周りをうろついて…の描写にはぞっとしました。じんわりと寒さがくる感じ。
文章も少女小説としては一般にも読みやすい方だと思うし、「バースディ・イブ〜」の方は内容的にちょっと…ですが、こっちはそこそこのレベルに到達してますし、「悪霊」シリーズが今でも店頭に並んでいることを考えるとこれも再販してもいいんじゃないかと思うんだけどなあ。
蓮のような、ちょっと斜に構えたキャラは好きなタイプです。夏野くんとかの系列かな。


●「バースディ・イブは眠れない」小野不由美[講談社X文庫ティーンズハート]360円(00/4/18)

「十二国記」シリーズや「屍鬼」でお馴染みの小野さんのデビュー作です。1988年出版。今から手に入れるのはまず無理なんだけども、ご好意で貸してもらいました。
いかにも「少女小説」という感じの表紙です。あらすじの出だしが「花の17歳! 花の女子高3年!」ではじまってて一瞬めまいがしましたが、本文は大丈夫でした。さすが小野さん、デビュー作から文章がしっかりしてますね。
話は、平凡な女の子が劇団の衣装の手伝いをはじめて、メンバーに溶け込んだ頃、誕生日プレゼントにもらったペンダントのせいで怖そうな人に追い回されて…という感じの話です。ストーリー展開の先は簡単に読めちゃいますが、シーンの見せ方やキャラの動かし方が悪くないので読むのは全然苦痛じゃないです。特に際立った話ではないけど、筋は悪くなさそうな印象を与えますね。
洋さんには延王の片鱗がうかがえますね。


●「美濃牛」殊能将之[講談社ノベルズ]1300円(00/4/17)

「ハサミ男」が評判だった作者の第二作。
岐阜の山奥の暮枝村。そこに万病を治すという泉の取材のために訪れた雑誌記者を待っていたのは、わらべ歌どうりに行われる連続殺人だった…という「いかにも」なミステリ仕立て。
起こる事件はよくある展開ですが、完結編が独創的で見事。すごくおもしろかったです。
多数でてくるキャラがどれも立ってて、それぞれのエピソードの絡み方もうまい。事件が起こるまでが少々長いですが、それらもきちんと伏線として生かされていますし、コミカルな展開が楽しい。
ミステリのお約束に対するシニカルな視点にもニヤリとさせられました。
それにしても、人工的にアレを作ろうとするあたりが、一番怖かったかな。
ミステリファンなら読むべし。この作者、二冊続けてアタリがでるなんて、今後もかなり期待できそうですね。


●「作家の値うち」福田和也[飛鳥新書]1300円(00/4/14)

今話題の本。文芸評論家の福田氏が、日本の現役作家100人の574点もの主要作品を100点満点で評価をつけてます。特徴的なのは、純文学だけではなくエンターティメント作家も取り上げていること。ただそのエンターティメント作家はすでに評価の定まったメジャーな作家ばかりで、若くてイキのいい作家が欠けているのが残念かな。
正直いうと、この本はこれから読む本をチェックするための「ブックガイド」としては、私の場合は役に立ちそうにないです。今回の批評からすると福田氏の評価と私のツボは微妙にズレてるのと、批評が短すぎるので興味を持つまでには至らないというか。
でも読んだことのある本への評価は短いながらもするどく、ニヤリとしてしまうことも何度か。
批評本の常か、誉めている部分よりも貶してるところの方がおもしろかったり。
それにしても、こうやってバッサバッサと切り捨てていくのはなかなかに愉快ですが、こんな本を出して文壇から報復を受けたりしないんだろうか……それでも小説が質を高めてゆくためには正面きった慣れあいではない「批評」が必要だという信念にもとに、この本を書いた心意気はみごとです。
一冊の本として楽しめました。ここで評価されてる作家さんの1/4を知っていれば、値段分は十分に楽しめると思います。私の場合はエンターティメントは「誰これ?」がひとりだけ、文学の方は半分くらいでした。
買う前には、自分の愛してやまない作家さんがどう評価されているかみてからにしておいた方がいいかも。人によっては結構辛らつなこともかかれてますので。


●「垂里冴子のお見合いと推理」山口雅也[講談社ノベルズ]740円(00/4/12)

「生ける屍の死」とか「キッド・ピストルズ」とか「日本殺人事件」とかヘンだけどバリバリ本格なミステリを書いてる山口雅也の、ちょっと肩の力を抜いたユーモアミステリ短編集。以前ハードカバーで出てた作品のノベルズ化。
冴子は30を少し超えた年齢だが、なぜか縁がない。何度もお見合いをするが、そのたびごとに事件に巻き込まれて……
「お見合い」というシチュエーションのおもしろさに、キャラものとしての楽しみ、その上ミステリとしてはなかなか技の効いた本格派で。楽しく、さらりと読ませていただきました。かなりマニアックな作品を書いてきてた人だけど、こういうのもちゃんと書けるんだなあ。さすが。
気楽に読めるミステリを求めてる方はどうぞ。


●「UNKNOWN」古処誠二[講談社ノベルズ]740円(00/4/12)

第14回メフィスト賞受賞作。メフィスト賞といえばちょっとアレな作品が多いですが、今回は「熱く端正な本格ミステリ」ということで読んでみることに。
自衛隊のレーダー基地の部隊長の部屋で、電話に盗聴機が仕掛けられていることが発覚した。誰も入ることのできないはずの部屋に、いつ誰がどうやってしかけたのか? 防衛部調査班の朝香二尉が秘密の調査に乗り出すが…
これはなかなか。自衛隊基地の生活がしっかりと描かれていて、「特殊職場モノ」としても十分におもしろいです。ミステリとしてももちろん合格。
それにしても、自衛隊というのはなかなか大変な仕事ですよね。憲法との兼ね合いもあって、自衛隊の存在そのものに否定的な方もかなり多くて、認められていないのに「一体誰のために」戦わなければいけないのか、その意義を見出すことが難しくて。
私自身は完全肯定でも否定でもないけれども、自衛隊の装備や訓練が「生かされる」ような事態になる日はこないでほしいと思います。平和が一番だよ、やっぱり。
朝香二尉のシリーズものとして続いてほしいな、これ。


●「仮面の島 建築探偵桜井京介の事件簿」篠田真由美[講談社ノベルズ]900円(00/4/11)

「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズ、久しぶりの長編。今回は水の都・ヴェネチアを舞台に、孤島に暮らす大富豪の未亡人と、ゆかりの名画についての物語です。
ミステリとしては、起こった事件の表面上のことはミステリ慣れした読者なら7割くらいはすぐにわかると思うんですが、今回の眼目は「How」ではなくて「Why」にあるのではないかと。
京介と真犯人の最後の対峙のシーンには息を呑みました。真犯人が復讐に入った元々の動機がアレで、今回の事件に直接結びつく動機がアレというあたりに、篠田さんらしい美学を感じます。
それにしても、「神の如き探偵」ではあっても神ならぬ身、そして神を持たない京介が背負わざるをえないものがどれだけ重いのか。彼が抱えている闇が明かされるのはそれほど先ではないのでしょうか。
なんと今回の話では蒼が二十歳、そして京介も30歳。時の流れを実感しますねぇ。
このシリーズ、最近文庫本化が進んでますが、最初の方はまあ普通のミステリという感じです。でも4作目の「灰色の砦」は秀作、五作目の「原罪の庭」は傑作です。まだここまでは文庫本化は進んでませんが、せめて「原罪の庭」だけでも読んでほしいです。


●「レディ・ガンナーの冒険」茅田砂胡[角川スニーカー文庫]571円(00/4/7)

あの「デルフィニア戦記」の茅田さんの新作ということで期待していました。イラストは「オーフェン」でお馴染みの草河遊也さんと大メジャーを起用、スニーカーも本気でホームラン狙ってるなあって感じですね。
西部ぽい舞台で、パワフルなお嬢様が突っ走るお話。隣国の幼馴染みが意に添わない結婚を迫られてるということで、助け出すために旅立ったキャサリン。途中で雇った用心棒たちはどこか一風変わった性格の持ち主で、動物に変身できる異類人種だった。
キャラクターの動かし方やテンポのいい掛け合いは手慣れたものだし、話もライトノベルズとして飽きさせないだけの展開をします。これが無名の作家さんなら「拾い物をした」と思えるんですが、茅田さんだから期待しすぎちゃったところがあるかも。まあ、「デルフィニア戦記」も一巻あたりはそんなに面白いものではなかったし、次に期待しましょう。
ヘンリーがいい味だしてました。


●「猫の地球儀その2 幽の章」秋山瑞人[電撃文庫]530円(00/4/6)

「猫の地球儀 焔の章」の続編。裏技を使って、早々にゲット!!さっそくイッキ読みです。
かつてそこを支配した「天使」たちがいなくなり、知能の発達した猫たちだけが取り残された、地球の周りをぐるぐる回ってる宇宙ステーション、トルク。地球へ行くことを夢に見て、その準備をひとり着々と進める幽(かすか)。その前に、「スパイラルダイブ」のチャンピオンである焔(ほむら)との因縁の決着をつけなければいけなかったが…
「猫の地球儀」シリーズはひとまずこの二冊で完結しました。
読み終わった今、幽がみたはずの青さに魂が抜かれたような感じ。…切ないなあ。
今回は「幽の章」ということで、幽の生い立ちや彼からの視点での物語を。あまりに異能であるために、孤独に生きていくしかなかった幽。そんな彼が切実に求めたのは友人−理解者であったのに、自分をわかってもらいたかった焔とは闘うことを選ぶしか道がなくて。そういう焔と幽の関係性というのは、私のツボにはまります。前作を読んだときには焔×幽だと思ったけど、今回を読んで幽×焔でもいいなあと………どっちにしても猫だけど。それが惜しすぎる…
まっとうな意味でも惜しい作品。生き急いだ感じがします。話を圧縮しすぎ。前作が一冊かけてプロローグな雰囲気だったから、もっとゆったりと話が進むかと思ったのに、後半のこの急展開。その加速度についていきにくい。秋山瑞人の構成力の弱さがはっきりとでてしまったかなあ。すごくいい作品なんけども、あと一歩のところで誰もが認めるような「名作」になりそこねてしまったような。
ロボットの描写やスピード感のある戦闘シーン、そして泣かせるシーンも、「さすが秋山瑞人」と思わせるうまさとなっています。それだけでも読む価値は十分にあるし。
表紙だけをみるとほのぼのファンタジーのようにみえますが、中身はライトノベルズとは思えないような濃い作品です。ひとりでも多くの人に読んでもらえたら。そして、いずれこの世界の次の作品もみてみたいな。その前に「E.G.コンバット final」ですね。ヒミツの企画も楽しみ。
それとこの作品を読んで秋山瑞人に興味を持った方は、「E.G.コンバット」読んでくださいね。挿し絵に負けずに。「鉄コミュニケイション」の方も、マンガのノベライズか…とは思わずに!! 原作マンガの50倍くらいは小説の方がいいです。とにかく秋山瑞人は今、脂がのってる作家さんなんで、リアルタイムでチェックする価値あり。ぜひぜひ読んでみてください。
さて、ここからはネタバレ感想。→楽の夢も叶えてあげてほしかった。シャボン玉のシーンがあまりに素敵だったので、164ページにはマジでビビリました。嘘でしょっ!!って。「魔法の粉」を渡す震電のエピソードに涙。
そしてラストの海のブルー。あのあたりの文章が見事。そして焔の見た「合図」も美しかったですね。
でもなんだかやるせなさが漂う作品でした。どんなに美しい夢であっても、人を踏みにじってしまう。夢とは勝手なものだという痛い事実をみせられて、それでも……という感じで幽には進んでほしかったかな。この展開では、夢が残した傷痕からも、焔からも逃げて…というように思えなくもないから。
エピローグ、泣かされました…
とにかく、秋山瑞人の文章は、私の脳を直撃します。めちゃめちゃ好き。


●「若草一家でいこう!」友谷蒼[角川文庫ティーンズルビー]419円(00/4/5)

あちこちのサイトでとりあげられてるので。イラストが「流血女神伝」の船戸明里さんだし。
若草家の四姉妹は実は、故郷を失って地球に流れ着いた異星人の生き残り。外見は区別がつかないけど、人間とは思えないほどのパワーを持っている。三女の結里はある日子供を助けるために力を発揮してしまったところを同級生の嵯峨くんに見られてしまう。焦った結里に嵯峨くんは交際を申込むが…
久々に少女小説を読んだ、って感じ。特に大きな事件は起らないけど、全体的にほのぼのしてますな。たまにはこういう小説を読むのもいいかもしれない。
これのマンガ版を挿し絵の船戸さんが描いてるそうなので、そっちもチェックしてみようかな。


●「陰月の冠者 封殺鬼20」霜島ケイ[小学館キャンバス文庫]524円(00/4/4)

「追儺幻抄 封殺鬼19」以来、ほぼ1年ぶりの新作。…時間があいたせいか、話忘れちゃって現状がイマイチわかってません…
現代を舞台にした陰陽師モノ。千年の時を越えて生きている二人の鬼の話です。
今回も天狗さんたちが暗躍。ターゲットは神島で、達彦さんがえらい目にあってます。普段、しれっとした人だけに、思いつめると怖いものがありますな。最後の弓生と達彦の会話にはなかなか凄みがありました。
一見、人がよさそうにみえてかなりイイ性格をしてそうなお天気おにいさんも今後が期待できるキャラですねぇ。
とりあえず、続きがはやくでることを祈ってます。
イラスト、西さんのままでよかったですねぇ。西さん、小説イラストの仕事を減らす方向でいってるから、このシリーズもどうなることかと思ったんですが。いきなり次で変わってたら嫌かも。


●「魔術貴族 ラスプーチンの石」荻野目悠樹[集英社スーパーファンタジー文庫]552円(00/4/3)

「魔術貴族」シリーズ第3弾。20世紀初頭のヨーロッパを舞台に、魔術師で貴族であるグレサンデルとロシアの怪僧・ラスプーチンの戦いを描いた作品。
全体のノリは軽いわりに、話自体はよく調べてしっかり作ってるのはわかるんですが…それがおもしろさともうひとつ結びつかないんですよね。
特に今回の話は「魔術」があまりに万能すぎちゃって、「工夫」によって不利な状況を突破するとか、そういう面でのおもしろさに欠けるところがあります。
この人の作品であれば、「暗殺者(アサシン)」シリーズとか「六人の兇王子」シリーズとか、主人公が「これでもかっ!!」というくらい酷い目にあって、それをぎりぎりで突破していくところがおもしろかったからなあ…
ライトノベルズとしては、重苦しく痛い話より、サクサク読める方がいいってことなんでしょうか。サクサク読めるのもそれはそれでひとつの価値ではありますが、私がこの作者に求めてる方向性とちょっと違うんですよね。


●「超クソゲー2」笹本進一/多根清/阿部広樹[太田出版]1300円(00/4/1)

あの「超クソゲー」から2年、待望の続編です。
ゲーマーの間では、デキがアレだったり、グラフィックがどうしようもなくヘボかったり、作った人の精神状態を疑うほどどこかズレてたり、そういうどうしようもないゲームのことを「クソゲー」と呼び習わしてるんですが、プレステーション・サターン・ドリームキャストなどの「クソゲー」を多数レビューした作品。一体どう「つまらない」のか、どう「ズレた」作品になってるのかの切り口や語り口が最高におもしろい。元のゲームなんか知らなくても、いや知らないからこそ笑えます。
笑いながらも、創作することの難しさというのを考えてしまいました。誰だってクソゲーにしようと思って作成したわけじゃないんだろうなあ。でもどこかで間違いが起こって、修正がきかなくなって、暴走して。…それでもゲームは発売しなきゃいけないから、大人の事情というのは大変です。それはゲームに限ったことではないんですよね。


HOMEへ