03年05月に読んだ本。 ←03年04月分へ 03年06月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「残光のアティス アグラファ5」三浦真奈美[中央公論新社C★NOVELS]900円(03/05/29) →【bk1】
「アグラファ」シリーズ5作目です。魔法なしの架空歴史ものです。
ミオとアインが、将として軍を率いた初めての海戦は、互いにとって不本意な結果をもたらしました。今回も正面の敵との戦い自体よりは、互いの後方の味方との戦いの方がメインとなっています。
また、アイン・ミオそれぞれにとって、一番信じられる片腕ともいえる存在に見え隠れする影。そのわずかな暗闇が物語にうまく緊張を与えているのではないでしょうか。
それにしても、ミオにしてもアインにしても、こんな祖国では「国のために」命をかけることもやってられないだろうし、今後はどういう方向に行くんでしょうか。
●「西の善き魔女 外伝3 真昼の星迷走」荻原規子[中央公論新社C★NOVELS]900円(03/05/28) →【bk1】
「西の善き魔女」シリーズの外伝3作目。このシリーズ、ノベルズでスタートしましたが、最近ハードカバーで再刊行されました。そのハー度カバーに書き下ろし新作部分があったとは聞いていたんですが、ハードカバーはなかなか手が出しにくくて。今回は、その新作部分の外伝3作目のノベルズ化です。
外伝と銘打たれていますが、実質は本編の続き。三人目の女王しての試練を受けるフィリエル。その試練とは、吟遊詩人・バードとの奇妙な旅を続けることだった…
本編完結から4年経っているために、細かい部分を忘れていて戸惑いましたが読んでいくうちに徐々に思い出しました。あの4年にとても驚いた、最後で示された「世界の秘密」の上につむがれる物語、おもしろかったです。個人的に好きなモチーフ神殺しものとしてもよかったです。
それにしても、一人で悩んでぐるぐるして落ち込んでいるルーンのかわいいこと!! レアンドラじゃなくても食べちゃいたい気持ちになりますねぇ。
そのレアンドラの男前っぷりも素敵でした。彼女にもいい人が見つかればいいんだけども。
●「吹け、南の風 3.開戦への序曲」秋山完[ソノラマ文庫]800円(03/05/23) →【bk1】
「懐かしき未来」の新シリーズ「吹け、南の風」、1年ぶりの新作にして、完結編です。
「ペリペティアの福音」の数年後、あの《連邦》第三息女・ジルーネと、トランクィル廃帝政治体との間に起こる「無邪気な戦争」の序章ともいえる、「ザントヴィーケ事件」の話。
前二作がゆったりとした展開でいつまで話が続くのかなあと思っていたら、これで完結、怒涛の展開になりました。まあ、今回は全二作に比べると本の厚さが全然違いますが。そういえば、「ペリベティアの福音」のときもこんな感じだったなあ。
ただでさえ設定がややこしい話で、前作から時間がたっていて話を忘れかけていたこともあって、最初は読みづらかったです。でも、コムカタの回想シーンから後、話に引きずりこまれるようになりました。
「片手は自分のために、片手は船のために」
このセリフを具現したような、一連のシーンには泣けました。カッコいいジジィ、最高です。
経済の「道具」としての戦争を無邪気に行うジルーネの悪魔ぶりも、あそこまで徹底していると、いっそ素敵です。それにしても、あそこまで大胆なことをするとは…
「ペリペティアの福音」のフレンが意外な姿(?)で登場、でした。そっか、あれから色々とあったんですね。でもフレンは彼女らしく、力強く生きているようでなによりです。
本格的な「無邪気な戦争」の話もいずれは描いてくれるんでしょうか。
●「歌の翼に ピアノ教室は謎だらけ」菅浩江[祥伝社]857円(03/05/22) →【bk1】
有名音大のピアノ科を主席卒業してながら、事情があって地方都市の楽器店の二階の音楽教室でピアノの教師をしている杉原亮子。おっとりとしたお嬢さんに見られる亮子が、身の回りのちょっと不思議な謎を解決する、9つの物語。癒し系・連作短編ミステリ。
いい本を読んだなあ、という気持ちになりました。幸せそうに見える亮子にしても癒しがたい傷を抱えていて、他の人たちもうまくいかない現実との折り合いをなんとか付けている状態で。それでも人を思いやるささやかな気持ちと、自分の心の持ち方で世界は少しずつ、優しく変わってゆく。
ラストのエピソードは涙腺にきました。
優しい気持ちになりたい人に、オススメの本です。
●「寺山修司名言集 身を捨つるほどの祖国はありや」寺山修司[PARCO出版]1500円(03/05/21) →【bk1】
寺山修司の没後20年に、俳句・短歌・詩・エッセイ・戯曲などの数多くの寺山作品から、切り取った言葉の万華鏡です。
私が寺山修司を知ったのは16年前、すでに彼は故人でした。私は寺山は短歌に惹かれて、その後エッセイもかなりの数を読みましたが、時代のズレがもうひとつピンとこないところがありました。戯曲は素養がないために、何がなんだか全然わからなくて。
ずっぽりハマっていたのは高校の頃でしたが、そのあとも彼の短歌集をたまに開いては拾い読みしていたりします。
寺山修司の言葉はどこから切り取っても独特のきらめきがありますが、寺山作品のほぼすべてに目を通した上で編まれただけあって、テーマ選択や配置の仕方によって、万華鏡のような美しさを堪能することができました。
どろりとした重いもの、静かな絶望、激しい怒り、その中にはっとするほど鮮やかでリリカルな気持ちがあったり。
本のたたずまいも素敵。この本は本棚の手に取りやすいところにおいて、これから先たまに開いては読む本になるんだろうなあ、と思います。
●「A君(17)の戦争5 すすむべきみち」豪屋大介[富士見ファンダア文庫]620円(03/05/20) →【bk1】
「A君(17)の戦争」シリーズ5冊目。
いかにも苛められっ子の冴えない少年が、なぜかアニメ的な異世界に「魔王」として召還された。彼の役割は、人間に攻められ、滅亡しかけた魔界を救うことだった…
軟弱ヲタクの皮を被った架空戦記な作品。ついに自らの意思で選択をし、剛志は覚悟を決めました。避けることのできない、戦いへの。
ヲタクネタは私の波長があわないせいか滑った感じがしたのですが、でも、戦闘シーンや、政治の選択肢の一つとしての戦争の駆け引き、その部分が抜群におもしろかったです。
「現実」ネタへの言及もしくは説教部分は、こっちとしては「物語」を楽しんでいるのにああいうやり方は興醒めになります。オブラードに包んで物語の中に溶け込ませるならまだしも、ちょっと分かりやすすぎるから、余計。でも、この部分もおそらくは中学生・高校生あたりの読者を想定しているから、「わかりやすさ」を作者は心がけていたのかもしれないなあ、と思います。
新キャラの押しかけ女房(?)・フィラの男前な性格はなかなか素敵でした。
前巻からつながりのある、この世界の「システム」の謎にかかわる話も仄めかされてるし、早く続きが読みたいです。
続きの6巻は近日刊行とのこと、楽しみにしています。
…読んでてふと思ったんですが、→まさかウルリス攻略に、ズゥによるバイオハザードを利用したりしないでしょうね… そんな極悪非道な戦術はまさかさすがにとらないとは思いますが。←
●「被害者は誰?」貫井徳郎[講談社ノベルス]820円(03/05/16) →【bk1】
収録作品のタイトル「被害者は誰?」「目撃者は誰?」「探偵は誰?」「名探偵は誰?」でわかるように、「パズル」に徹した連作ミステリ短編集です。美形で頭脳明晰なミステリ作家・吉祥院慶彦による、安楽椅子探偵もの。
軽やかに楽しめるミステリでした。この作者のデビュー作「慟哭」はミステリ的なしかけが見事なだけでなく、物語としての味わいも深い作品でした。でも小説として重い作品であれば、ミステリ部分が余計なオモチャのように見えるところがあるから難しいです。その点、今回は名探偵の「いかにも」な設定やネーミングからもわかるように「ミステリとして」読者を驚かそうと割り切ってある作品で、気楽に楽しむことができました。
●「angels−天使たちの長い夜」篠田真由美[講談社ノベルス]840円(03/05/11) →【bk1】
夏休みの登校日の夕暮れ、人気のない校内で見知らぬ男の刺殺死体が発見された。電子錠で外部との通路が閉ざされた学校で、残っていた高校生たちは自分たちだけで事件の犯人を明らかにすることに決め、謎の解明のために一晩校内で過ごすことになった。一件平和な日々を送っているように見えながら、心のどこかに穴があったり闇を抱えていたりする少年・少女たちがたどりついた答えは…
「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズにつながりのある作品ではありますが、今回はレギュラーメンバーから唯一登場する「蒼」は物語の語り手でも探偵でもありません。この作品では、蒼は(この作品中では「蒼」ではありませんが)傷つきやすい年頃の少年少女のひとりにすぎないのです。
ここ数年の篠田さんの長編はもうひとつピンとこないものが多かったのですが、今回の話はとてもよかったです。初期の新本格派諸氏のデビュー作を彷彿させるような、若さゆえの潔癖さと矜持と危うさが、ガラスのようなきらめきを放っている物語。ほろ苦い青春ミステリに仕上がっていました。
今回の話の語り手であるカゲリはおぼろげに記憶にあるなあ、と思い返してみたら「センチメンタル・ブルー 蒼の四つの冒険」に出てきたようです。読み返してみたくなったんだけれども、2年前の本だからもうどこにいったのかわかりません… もう一度買いなおさなきゃダメかも。
●「陰陽ノ京 巻の四」渡瀬草一郎[電撃文庫]550円(03/05/11) →【bk1】
「陰陽ノ京」シリーズ4冊目。一作目は第7回電撃ゲーム大賞金賞受賞作。このシリーズはタイトルどおり、平安時代を舞台にした陰陽師モノですが、主役は安部晴明ではなく、彼の幼馴染にして弟子の慶滋保胤。彼は陰陽師に連なる家に生まれながらも、文官となった変わり者で、糸目で人がよくて、鬼にさえ情けをかけてしまう優しい人。
今回は番外編的な中篇で、清良と彼ゆかりの少女・蓮の切なくて美しい、恋物語。前作で少しだけ出演して、「いいキャラだなあ」と思っていたミツヨシ(ワイルド系)や兼良(クール系)が期待以上に魅力的。対照的なふたりのやりとりは読んでて楽しかったです。
番外編的な話ではありますが、物語のコアとなる「伯家」の謎についての一端が判明。もっと色々と裏がありそうなのが心配ではありますが…
もうひとつ、保胤の識神の「訃柚」のお話。美しいイラストが素敵でした。
このシリーズは一冊ずつ独立した話ですので、この巻から読んでも大丈夫。この話の晴明はタヌキっぽい中年オヤジで人物は魅力的ですが、晴明は美形じゃないと嫌な人にはオススメできません。
●「猫はいつでも甘やかされる」榎田尤利[大洋図書]860円(03/05/09) →【bk1】
アメリカから逃げるように日本にやってきたシュウは、東京下町の商業高校で英会話を教えることになった。そこでシュウは、茶道を教える特別講師の春彦とであった。最初は春彦を苦手に思っていたシュウだったが、あるきっかけかで春彦の長屋にシュウが引っ越してきて…
「放蕩長屋の猫」の続編。今回は前作の脇キャラで人気のあった春彦がメインの、東京下町をしたゆったりとした恋物語。癒し系ボーイズラブでした。
前作は攻がダメ男の上に、受に長年恋してきた幼馴染がとにかくいい男!!(それが今作の攻の春彦ですが)だったせいで、「なんでお前はこんなダメ男じゃなきゃダメなんだ〜!!」とストレスになりましたが、今回は攻が包容力があり、受は素直になれない金髪の子猫ちゃん(でも24)ということもあって、攻は受を甘やかして大切にしてくれて読んでて癒されました。いろんなことがうまくいかなくて、自分のことが好きになれなかった受が、攻との恋で少しずつ変わってゆく。回復の物語です。榎田さんは筆力のある作家さんなので安心して読めるし、女の子キャラも魅力的で(沙織さんがとても素敵です)、ええ話読んだなあ、という気分になりました。
「魚住くんシリーズ」ほどは登場キャラの抱える葛藤がキツくないので、「癒されたいなあ」と思っているホモ小説好きな人にオススメな作品です。
他にもこういう、安定して読める癒し系ホモ小説に心当たりのある方はぜひ教えてほしいです。なんかとても今、癒されたい気分なので…
●「女子大生会計士の事件簿」山田真哉[英治出版]950円(03/05/01) →【bk1】
●「女子大生会計士の事件簿2」山田真哉[英治出版]950円(03/05/02) →【bk1】
現役美人女子大生であり、敏腕公認会計士の萌実を主人公にした、会計監査にまつわる事件を集めた短編集です。旅行先の本屋でみかけたのですが、ぱらぱらと読んでみると結構面白そうなので購入。「特殊職場モノ」のミステリが好きなのと、「エンロン事件」以来会計監査のことについて知りたいという気持ちがあったので。エンロン事件について詳細に書かれた本も読んでみたんですが、会計の基礎知識がないためにからくりがもうひとつ飲み込めなかったのです。
派手な事件が起こるわけではないですが、微妙に不可解な状況を、ちょっとしたきっかけや帳簿などから原因を浮かび上がらせる展開がおもしろかったです。
ただセリフがほとんどで、地の文はト書きのようなフォローの仕方ですので「小説」としてはどうしても薄く感じられる部分があったり、キャラの設定がアレなところはあるものの、キャラ同士のやりとりはテンポがいいし、個人的には読んでて楽しかったです。
会計には興味があるけれどもあまり知識がなく、軽い読み物に抵抗がない方にはオススメな作品です。
●「と学会年鑑 BLUE」と学会[太田出版]1300円(03/05/01) →【bk1】
あの「と学会」のおなじみシリーズ。「トンデモ本」とは「著者の意図したものとは異なる視点から読んで楽しめるもの」で、UFOや予言、陰謀説を信じる本、その他色々なものが対象となっています。それらの「トンデモ」をウォッチして楽しむ人たちの集まりが「と学会」で、今回は会合での発表を原稿にまとめているので、どちらかというと小ネタの集まりという感じです。
「と学会」の本は初期は読んでたけれども、ここしばらくご無沙汰でした。今回は「年鑑」ということもあって、気楽に笑って楽しむことができました。「奇跡の詩人」とか、会合時には笑えても出版時には笑えない状況になっていたものもありますが…
一番ウケたのは、「和紙に古色をつけるために使われた溶液」の話でした。
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