03年07月に読んだ本。   ←03年06月分へ 03年08月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「流血女神伝 女神の花嫁(中編)」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]514円(03/07/25) →【bk1】【Amazon】

架空歴史活劇寄りの異世界ファンタジーシリーズ「流血女神伝」の最強の謎めいた美女・ラクリゼ主人公の外伝「流血女神伝 女神の花嫁」の二冊目です。外伝といいつつ、本編に深くかかわる話。
表紙をみて何事かと思いましたよ。以下ネタバレ感想。→まさかラクリゼとサルベーンがあんなに深く激しく愛し合っていたとは…… それが、本編での二人の対面シーンの冷ややかさになってしまうまでに、一体なにがあったんでしょうか。
サルベーンってかなりヘタレ?と思っていましたが、やはり腹黒ヘタレ王でした。須賀さんの作品の腹黒キャラといえば、なんといっても「ブルー・ブラッド」のユージィン様ですが、サルベーンはそこまで割り切れないからこそ、神様を求めちゃうんでしょうね…
次の話では、あれだけ愛していたサルベーンにラクリゼが愛想を尽かしてしまうエピソードになるんでしょうか。ラクリゼが女神と契約したことで、サルベーンはラクリゼの中に見える女神様だけ見るようになって、「彼が愛しているのは自分ではない」と気づくとか。
次はいよいよギウタ攻防戦、チビカリエの登場です。楽しみ。

「流血女神伝」の世界では、科学技術の発達による合理的精神の芽生えがある一方で、残酷で気まぐれな神様が本当に存在している世界。「人」は「神」に恋焦がれる一方で、「人」は「神」に与えられた運命に必死であがいている、そういう物語です。ジェットコースターのように激しく展開する物語に一喜一憂するだけでなく、見事に作りこまれた「世界観」に酔うこともできる、一級のエンターティメントです。オススメシリーズ。読むのなら、「流血女神伝 帝国の娘」から。


●「安心できない七つ道具? フルメタル・パニック!」賀東招二[富士見ファンタジア]520円(03/07/25) →【bk1】【Amazon】

学園ラブコメ・アクション巨大ロボット軍隊SFモノ「フルメタル・パニック!」番外編短編集の七作目です。
今回もノリがよく、ラブ度も高くて楽しかったです。林水会長の知られざる素顔(?)の断片をいくつも知ることができてよかったです。書き下ろしのパワフルなオヤジたちが暴れる話もよかったなあ。
本編の方もそろそろ終わりが見えてきましたが、このままのテンションで最後までいってほしいものです。


●「第六大陸」小川一水[ハヤカワ文庫]680円(03/07/22) →【bk1】【Amazon】

2025年。砂漠、南極、ヒマラヤ…極地での建設作業を得意とする御島羽総合建設に、月に50人が滞在できる施設を作るという、とてつもない計画が持ち込まれた。予算は1500億円、工期は10年。御島羽総合建設の機動建設部の青峰は、依頼主・エデン社の会長・桃園寺閃之助の孫娘・妙とともに、調査として月にある中国の基地に赴く。そこでみた月の過酷な環境を乗り越え、不可能でないプランを作り出した彼らは、「第六大陸」プロジェクトを開始、フロンティアに挑むが…
宇宙開発小説というよりは、宇宙土木工事小説。評判に違わず、おもしろかったです。ただ、できるから、知りたいから、飛びたいから全身全霊を傾けて前に進む技術者の情熱に燃え燃えでした。「プロジェクトX」好きな人には特にオススメ。
帯には「次世代型作家のリアル・フィクション」と書かれていますが、科学がよき方向にうまく適応された未来の姿が、眩しかったです。「月に居住施設の建設」もあわせて、こういう形の「夢」を語ることができるのは小説だからこそ、なのでしょう。読んでる間中、素敵な夢を共有することができました。
8月に2巻がでるとのこと、楽しみです。


●「愛する源氏物語」俵万智[文芸春秋]1476円(03/07/21) →【bk1】【Amazon】

「源氏物語」の現代語訳を読んでいるときに、和歌の部分になると、つい読み飛ばしてしまう… 私もそのタイプでした。でも、平安時代において和歌は気持ちを交わすための大事なツール。和歌を読み飛ばしていては細かいニュアンスを味わえない… 当時、実用品だった和歌が作中でどのように使われていたかを読み解き、31文字という枠に押し込めることで自由に表現できた、深い思いを、歌人の俵万智さんが解説して現代語に訳しています。
「源氏物語」にまつわるエッセイはいつくも読んでいますが、今回は歌人ならでの視点での読み解きがおもしろかったです。和歌も現代語となることで、ストレートに響いてきますし。
ただし、夕霧と薫がかなりひどい言われ様ですので、二人のファンだけは読まない方がいいかも。


●「ワークディズ」榎田尤利[大洋図書Shy novels]860円(03/07/18) →【bk1】【Amazon】

リーマン・ボーイズラブもの・吾妻&伊万里シリーズ「ソリッド・ラブ」「レイニー・シーズン」「オール・スマイル」の番外編。今回は、かわいそうな当て馬だった脇キャラ・王子沢くんのお話。
一見・クールなメガネくんだが実は寂しがりやの榊は、現地の工場との契約をとるためにバンコクに出張していた。そこでひとなつっこい男・王子沢に出会う。榊に惹かれた王子沢は、自分が榊のライバル会社の社員であることを隠して、榊に近づくのだったが…
前の感想に書いたけれども、王子沢くんは私がかつて萌え萌えだった攻様を彷彿させるキャラなので(愛想も要領も頭も顔もいいんだけども、どこか寂しがりやところが)、王子沢くんにもやっと春がきた〜〜と嬉しかったです。
作者が結構うまい人で、バンコクの熱気感じられる描写に、旅行気分になりました。
紆余曲折あったけれどもハッピーエンドなホモ話って、読んでて本当に癒されます。


●「マルクドゥック・スクランブル The Second Compression―燃焼」冲方丁[ハヤカワ文庫JA]680円(03/07/17) →【bk1】【Amazon】

「マルクドゥック・スクランブル」三部作の二作目。
娼婦の少女・バロットは、自分を飼っていた男・シェルに焼き殺されそうになって瀕死状態だったところを事件屋のドクターに助けられ、マルドゥックス・スクランブル−09を適応されて、電子攪拌の能力を得て生まれ変わった。バロットは同じくスクランブル-09である、万能兵器である金色の鼠・ウフコックの協力を得て、自分の存在意義を探すために、自分を殺そうとしたシェルの犯罪を追うことになるが…
前作はもうひとつのめりこめなかったんですが、今回はもうひとつ理解できてなかった世界が私の目の前にぱーっと鮮やかに映るようになり、おもしろく読めました。楽園システムの話とかもおもしろかったです。
それにしても、ウフコックに執着するボイルドの気持ちがツボでした。二人の出会いの頃の描写とか。
自分の意志が強くなってきたバロットもいい感じになってきましたし。
前半のハードな戦闘描写もよかったですが、後半のカジノを舞台にした駆け引きが、コン・ゲームものの小説好きにはたまらん感じでした。
最終巻はもうすぐ発売とのことで、どんな結末になるのか楽しみであります。ボイルドにも何か救いがあればいいんですが。


●「田舎の事件」倉阪鬼一郎[幻冬舎文庫]533円(03/07/08) →【bk1】【Amazon】

狭い世界での自尊心ゆえに巻き起こる、「田舎の事件」を描いた短編集。「傑作ギャグミステリ」とあらすじには書かれています。シニカルな裏ミステリで、大笑いというよりはニヤリという感じの一冊でした。


●「発掘捏造」毎日新聞旧石器遺跡取材班[新潮文庫]476円(03/07/06) →【bk1】【Amazon】

2000年11月5日の毎日新聞にスクープされた「旧石器発掘ねつ造」事件。そのスクープまでの経緯、なぜ「ゴッド・ハンド」と呼ばれた一人の男は捏造を続けていたのか、その背景についての追跡取材などをまとめたノンフィクション。2001年6月にハードカバーででた作品の文庫本化です。
私はこのスクープの当時、考古学に興味がなかったから「うわー」と好奇心でニュースを見る程度でした。それがある時、毎日新聞のWeb上での検証・旧石器発掘ねつ造の特集をみて、もっと詳しいことが知りたくなりました。当時はこの「発掘捏造」がハードカバーしかなくて、結局読むのを断念したんですが、文庫本になってやっと読むことができました。
読む前は、スクープをモノにする経緯にワクワクするような本だろうと思っていましたが、予想外だったのは読んでいたときの私の感情。ただひたすら悲しかったです。
人は心の弱い生き物です。だからこそ社会はその「弱い心」に負けないように、もし負けたとしてもすぐに発覚するような抑止力となるシステムを作っているのだ…というのは「悪徳商法マニアックス」の掲示板の常連さんである「ものつくり屋」さん(ひそかに大ファンです)がよく行うお話ですが、今回の事件はその人間の弱さ…嘘をつき続けてしまう弱さだけでなく、その嘘を見抜けなかった弱さがなんだか悲しくて。
取材の過程を読んでいくと、なぜあれだけ不自然な状況なのに、なぜ周りの人たちは疑わなかったのだろう?と不思議に思ってしまいますが、心の中で「これはおかしいんじゃ?」と思っていても、それを口に出せない雰囲気だったのかなあ。それとも自分が口に出すことで、全部台無しになってしまうことが怖かったのかなあ。「人」で信じてしまって、それ以上批判的に見ることはできなかったのかなあ…
氾濫する情報とどう付き合っていくかが、今の私にとって大きなテーマなんですが、今回この本を読みながら色々と考えこんでしまいました。自分は「自分の信じたいこと」については検討が甘くなっていないか? 「信じたくないもの」の検証にバイアスがかかっていないか? 見たくないものに目を瞑っていないか? ほめられたいからといって「嘘」をついていないか? …全部にYesとはとてもじゃないけれどもいえませんが、自分の弱さを自覚して、少しでもコントロールできるようになれたらいいなあ。
この本で書かれた以降のできごとをまとめた「旧石器発掘捏造のすべて」も2003年11月に新潮文庫で文庫化されるそうなので、そちらも読みたいと思っています。


●「針は何処に 黄金の拍車」駒崎優[講談社X文庫ホワイトハート]520円(03/07/04) →【bk1】【Amazon】

「黄金の拍車」シリーズ最新刊。
自分の屋敷に帰る途中、リチャードは暴漢に襲われていた騎士を助け、一晩泊めた。騎士は翌朝、お礼に高価な指輪を残して去っていった。そしてその日、トビーの行方が知れないことを聞いたリチャード。どうやらあの騎士はトビーの行方不明の鍵をなんやら握っているようで…
今回、書店で最初にみかけた感想は「…薄い」だったんですが、話が短いからこそ、事件の展開がテンポよくておもしろかったです。今回は愛しのファーザー・ジョナサンも活躍していたし、新キャラもよかったし、満足でした。
このシリーズは、中世イギリスの田舎を舞台にした、ふたりの成年騎士(前シリーズでは騎士見習い)の日常の冒険談。剣はでてきてもちょろっと、魔法はまったくない世界のお話ですが、まったりと息抜き読書にオススメのシリーズです。


●「マリア様がみてる 涼風さつさつ」今野緒雪[集英社コバルト文庫]476円(03/07/01) →【bk1】【Amazon】

カトリック系お嬢様学校を舞台にした、ほんわかしたソフト百合なお話の「マリア様がみてる」最新刊。
夏休みが終わって、いよいよ学園祭シーズン。リリアン女学園の山百合会のメンバーが男子校・花寺学院の学園祭の手伝いにでかける話と、祐巳ちゃんの押しかけ妹候補(?)の話。
前作は番外編ぽい話の作り方で物足りなかったですが、今回は個人的には大満足でした。ただ、「この作品に男は出さないで!!」という方には不満だったかも。
祥子さまと祐巳ちゃんは今回もらぶらぶでしたが、あそこまでらぶらぶだと祐巳ちゃんはなかなかに妹できそうにないんですが、どうするんでしょうか… かといって瞳子ちゃんはちょっと… それ以上に黄薔薇の方が問題かも。かといって、「労働力ゲット!!」みたいに夢のない決められ方しても悲しいし。
あと、今回の柏木さんは、「あんた、本当にホモなんですか」とつい問い詰めたくなりました。祐巳ちゃんになれなれしすぎです。
今回の話、祐麒がちゃんと「男の子」してて、かっこいいし、かわいいし、もうどうしようかと。このシリーズの熱心な読者には嫌がられそうですが、個人的には花寺学院を舞台にした番外編が猛烈に読みたいです。もちろん、祐麒総受で。個人的には柏木×祐麒←小林がいいなあ…


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