01年9月に読んだ本。 ←01年08月分へ 01年10月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「ひとでなしとの恋愛」菅野彰[キャラ文庫]543円(01/09/30) →【bk1】
ボーイズラブです。「野蛮人との恋愛」の続編ですが、今回のメインカップルは前作のサブキャラで、前作カップルもちょろっとだけ出演しています。
若い外科医の守は見た目もいいけれども性格が幸いしてか恋愛はいつも長続きしない。ある日、彼は、病院にやってきた大学の剣道部の後輩の結川と再開する。なげやりな生き方をしていた結川をなりゆきから放っておけずに一緒に暮らすようになるが…
菅野さんの作品は、愛し方・愛され方を知らない不器用な「大きくなった子供」が、それを受けとめてくれる人によって癒されてゆく…という話が多いんですが、今回は珍しく(?)攻・受共に不器用な子供でして。少しは光明が見えるものの、先は難しいよねぇ、このカップルでは。なかなかに切ない話でした。
●「真・女神転生 廃墟の中のジン」吉村夜[富士見ミステリー文庫]580円(01/09/28) →【bk1】
今年、PSでのリバイバル版もでた「真・女神転生」のノベライズ。ただしゲームそのものやサイドストーリーではなく、同じ世界での別のキャラのお話です。
文明が崩壊して悪魔が跋扈する世界。ひとりの老戦士・ライシンが人狩りに捕まり殺される運命にあった4人の少年・少女たちを助けた。彼らはライシンの元、生きて行く術を学び、コンピュータを利用した悪魔召還の手ほどきも受けるようになった。外にも身よりのない子供たちが集まってきて肩寄せ合って生きてきたが…
ノベライズしたのは「魔魚戦記」や「星に願いを」というバカ設定ほのぼのSFを書いてる方ですが(児童文学も書いてるそうですがそれは未読です)、ハードなお話も大丈夫。
ささやかな子供たちだけの楽園を守るために必死で生きて行く少年の姿が健気でツボです。最後とか、なかなか泣かせます。
私はメガテンシリーズで最後までクリアしたのはファミコン版の2と真1なんですが、それがもう10年くらい前の話になるんですね…懐かしいなあ。特にファミコン版の2はハマって3度くらいクリアしました。薄暗い、独特の空気がたまらなくて。悪魔合体に夢中になって、攻略本をボロボロにしたものです。
作者がメガテンのマニアで、あの世界をちゃんと描けているのでメガテンファンにはオススメ。元のゲームを知らなくても、読むのに不都合はないかと思います。
●「海馬が耳から駆けてゆく3」菅野彰[新書館]1400円(01/09/27) →【bk1】
ボーイズラブ作家・菅野彰のエッセイ集「海馬が耳から駆けてゆく」もこれで3冊目。小説の方はコミカルなんだけどもなかなかに切なくて泣ける話を書く作家さんなんですが、エッセイの方は「うわー、あの作品書いた人ってこういう人だったのっ!!」というちょっとズレた爆笑エッセイとなっています。今回も読みつつ、怪しげな笑いが溢れてくるのが押さえきれなかったり。それしても交際許可届ってなんじゃそりゃっ!! マジでそういうのがある世界があったのね… 子供の頃、1999年の時の自分の年を計算したことは私もありました。あの頃は、20台も終盤の年齢なんて「人生終わってる」感じがしちゃってて、世界が終わるならそれでいいかも…と思ったこともあったり。今からすると30なんて人生まだまだ!!って感じなんですが。でもその頃でもマンガに萌えてたりジャニーズのコンサートに行ってるなんて思いもよらなかっただろうなあ…>子供の頃の自分
群よう子をもっとWEB日記に近い感覚にしたようなエッセイなんですが、興味のある方は1冊目が文庫本化しているのでそれでもチェックしてみてください。小説はホモですがエッセイはホモじゃないので安心。(小説でもホモじゃないのもありますが…)
●「ウィーン薔薇の騎士物語5 幸福の未亡人」高野史緒[中央公論社C★NOVELS]900円(01/09/27) →【bk1】
「ウィーン薔薇の騎士物語」シリーズ完結編。
世紀末のウィーンを舞台に、ジルバーマン楽団のバイオリニスト・フランツとその仲間たち…薔薇の騎士四重奏団の物語。今回は大使館でのパーティーを舞台に、不器用な恋人達をくっつけようと奮闘するクリスタと彼女に振りまわされるフランツのお話。雰囲気は一作目に近い、ドタバタコメディです。愉快でした。
物語中の時間ですでに1年が過ぎたわけですが、フランツも大人になってきたねぇ。
享楽的な都・ウィーンを舞台にした陽気な話ではあるものの、この後のヨーロッパの辿る運命を考えると、なんとも…
●「夏の夜会」西澤保彦[カッパノベルス]800円(01/09/26) →【bk1】
新作読みきりミステリー。久しぶりに友達の結婚式に出席するために故郷に帰った中年の男。結婚式の二次会で小学校の同級生たちと飲みに行き、昔の大嫌いだった女の先生の話題で盛り上がった。夏休みの終わりに学校を辞めた先生は、実は殺されていた…ということをひとりが言い出し、それから埋もれてきた記憶が連鎖的に蘇って…
朝型に見る夢は妙にリアルで、起きた瞬間はどっちが現実だか一瞬混乱してしまう。その瞬間には、夢の中のできごとの方が自分には「本当」だったりすることもあるわけで。
外で起こってる出来事を目や耳や皮膚などの感覚器官が刺激として捉えたものを脳内が処理することで得られる「現実」と、頭の中だけで起こった「妄想」の違いとは一体なんなのだろう。その区別をつけることは、本当にできるのだろうか。
その記憶が系統だっていて前後の連鎖が存在していることや、自分以外の人たちの記憶との整合性を持って「現実」であったことを確認するしかないのだろうか。
この物語では、昔のあいまいな記憶から語られる「真実」がどれだけ信用のできないものかが描かれています。なぜ間違った記憶が残ってしまったのか、一体なにか真実なのか…がわかっていく過程がミステリーのセオリーとなっているあたりが西澤保彦らしいというか。
どんでん返しになりつつ、螺旋階段を降りてゆくような感じがなかなかにおもしろい。
私も、小学校の低学年の頃の記憶は断片的にしか残ってないんですが、なんかの拍子でばーっと噴出したら…恥ずかしいだろうなあ。今から思うと、すごくおバカな生き物だったので。まだ記憶の表層に残っている話はきっとマシな部類で、記憶の底に沈めてるものはきっと…こ、怖すぎ。箱が飽きませんように。
●「累卵の朱 万象史記」大澤良貴[白泉社My文庫]600円(01/09/25) →【bk1】
三国志を彷彿させるような戦乱時代に、中華風スーパーナチュラル要素(霊導士、傀儡など)を加えた舞台で、綾波な少年が復讐を誓ってオーベルシュタインになる…というようなスケールの大きなお話、です。
中華風架空戦記というのはよくありますが、作者が三国志フリーク(「三国志新聞」というムックを出版)だけでなく軍事方面は明るそうなために、国や軍のシステムに踏み込んだ部分の描き方がなかなかおもしろかったです。残虐な暴君でありながら危険な魅力に満ちた黒瞳というキャラもすごくいい。
今回はクライマックス(?)になる第三部の合戦と、そして主人公・永冬(銀髪メガネのクール)の不遇な少年時代のお話が収録されています。ただ今回では話にカタがつかなく、ちょうどいいところで終わってるのが残念。続き、読みたいです。
筆は押さえ気味なので、歴史モノ文体が苦手な人でもわりと大丈夫かと。
ただ問題は…このレーベルのコンセプトからするとターゲットとする層にはウケなさそうなのと、本のデザイン(イラストではない)が悪く、読書意欲を減退させるものがありまして…なによりこの本のおもしろさがわかる層が手に取る機会どころか目にする機会すらなさそうな。C★NOVELSあたりならよかったかもしれないのに。
これで白泉社My文庫の創刊三冊を全部読みましたが、どれもおもしろかったです。ただ、レーベルとして目指すものとか、新鮮味がもうひとつ感じられないのがネックかなあ。特に「累卵の朱」は続きが読みたいので、レーベルとしても頑張ってもらわなくては。
●「暗黒童話」乙一[集英社]905円(01/09/22)
乙一の待望の初長編。今回はミステリーよりのホラーです。
事故で左目を失ったショックから、それまでの記憶をすべて無くしてしまった少女・菜深。記憶を無くす前とは性格も雰囲気もかわったせいで、友達や親としっくりいかなくなった菜深を不憫に思った祖父が眼球移植手術をセッティングしてくれた。菜深は左目も見えるようになったが、ときおり何かをきっかけに別の情景が左目だけ見えるようになってしまう。それが左目の持ち主だった少年の記憶のようであることを知った菜深は、彼の死の真相を暴くために彼の故郷を訪れたが…
フリークスに対する愛着とかなんか乱歩を思わせるものがあります。でも乱歩の世界が絢爛だったのに対して、乙一のは静謐。この人もどろっとしたものを胸の中に抱えているけれども、ヘドロの中から染み出してくるものはとても澄んでいて。その上澄みだけをとりだすと、不純物の少ないきれいな水になってるのかも。「失踪HOLIDAY」や「きみにしか聞こえない CALLING YOU」のような切ない作品も底に残酷な現実が横たわっているからこそ輝いてるという感じがします。なるほど、こういうのが源なのか。今回の話もかなり残酷な描写がありながらも、それゆえに美しさを感じてしまいます。また「なんだかうまくいかない」思春期の苦しさもうまく描いているなあ。結構切ない部分もあります。
前述したように乱歩とか、あと京極夏彦だと「匣」が一番好きな人にはかなりオススメ。
●「イノセント・サマー 骨董屋店長事件簿」若杉桂[白泉社My文庫]600円(01/09/20) →【bk1】
「フェイク!」に続いて2冊目の白泉社My文庫。最初はどうしようかと思ったけども、この作者の別名義が私の結構好きなボーイズ作家さんだと分かったので。あ、この話自体はボーイズではないです。
両親が出張で海外にいるせいで、一人暮らしをしている大学生の伊吹。彼は祖母の残した骨董店とアパートの管理をしていたが、その骨董店の雇われオーナーが皮肉屋で厭世的な狩野。何事にも執着しない狩野であったが、西洋アンティークには造詣が深かった。ある日、伊吹は知り合いの編集者から人気ミステリー作家・野々宮麻子の捜索を頼まれる。彼女は断筆宣言をして姿を消したのだった… 彼女の手がかりが見つからないまま日々は過ぎていったが、ある日彼女の部屋で死体がみつかり…
なかなか。悪くない作品です。ミステリとしては、「How」への答えは早い段階で読者にはわかると思うのですが、この本ではそれよりは「why」の部分が結構いい感じでして。私好みの動機でした。探偵は桜井京介とか火村教授とかそういうタイプ。ワトソンくんは子犬タイプの明るい男の子です。
●「テロリズムとは何か」佐渡龍己[文春新書]690円(01/09/19) →【bk1】
今回のアメリカでの同時多発テロに関連して、「なぜ彼らはあんなことをしたんだろう?」とどうしてもわからなかったから、読んでみました。防衛大学出身で、リスクマネージメントが専門の作者の手による解説本。テロの起源と発展の過程、そして現在はどういう状況か、またどういう対策をとればよいか?などを網羅した本となっています。
「テロ」というのは犯罪ではなく「弱者の戦争」であって、「心の戦争」である。恐怖によって自分たちの生存や信念を脅かしているものを脅して追い払うことが目的。それじゃ,今回のテロ犯の目的はなんなのでしょう? 自分なりに考えたのは、
(1)アメリカが中東から手を引くこと。アメリカ人に恐怖を与え、「なぜこんな目にあったのか?」を考えさせ、「多数のアメリカ人の犠牲を生んでまで、よその国(イスラエル)の支援をしなきゃいけないのか? 手を引けばいいのに」と大衆に思わせ、最終的には政策変更させる。
(2)アメリカが過剰な報復をするように仕向けて、アメリカが国際的な批判を受けるようにする。
というあたりかなあ、と。アメリカはそういうのももちろんわかってて、自分たちに有利なところに問題の焦点を持ってきてるような気がする。さすがですな。
向こうの目的がわかっているなら、アメリカも復讐心で我を忘れて、過剰な報復をする…というようなことはないと思うのですが。うむむ。
また、作者はこの本で日本の弱腰のテロ対策もずいぶん非難しています。それについてはある程度は同感ですね。今回のことで日本もかわってゆくんでしょうか。さすがにもうひとごとでは済まされないだろうし。
●「カラミティナイトII」高瀬彼方[ハルキ文庫]740円(01/09/19) →【bk1】
「カラミティナイト」の待望の続編。
世界を滅ぼす力を持つ「災厄の心臓」を移植されてしまった忍。彼自身には力はさほどないが、「災厄の心臓」は自らを守るために宿主である忍に好意的な人に特別な力を与え、騎士とする。しかし騎士は自らの狂気を力に変えるために、力を使いすぎると精神の均衡を崩してしまうのだ。気が優しい、大人しい少女(メガネっ娘)の智美は、運命のいたずらで第五の騎士となってしまった。「災厄の心臓」の力で世界を破滅させようとする「慟哭の三十人衆」と智美は戦い、親友の侑子を救うために級友を殺すハメになってしまった。智美は、自分を激しく責め、優子も避けるようになる。その頃、忍の昔の彼女の美由紀は、もう一度忍とやりなおそうとする。忍ぶは彼女を争いから遠ざけようとして一芝居打つが、それが思いもかけない展開に…
めちゃめちゃ痛い話でした(イタいにあらず)。形としては平凡な少女が選ばれて特別な力を得て…というパターンの話なんですが、力得たことで不幸の連続コンボに。智美がもう、かわいそうでかわいそうで。気は小さいけれども、人の気持ちを思いやるいい子なのになあ。キャラがしっかりしてるために、智美の苦しさというのがよく伝わってくるのです。
今回の話は優子もすごくよかった。強さだけじゃなく、弱さとそれを乗り越えようとする勇気を見せてくれて。それに比べて忍が…まあこのお話では「お姫さま」ポジションにいるだけに仕方ないよねぇ。今回で一段落はしたものの、なんだか終わり方がきな臭い…次回、「彼女」が●●になってしまって、智美と戦わなければいけなくなったり…なんてことは…そこまでイジめないでほしいなあ…>作者さま
●「トンデモ本の世界R」と学会[太田出版]1480円(01/09/18)
と学会のおなじみシリーズ。念のため、「著者の意図したものとは異なる視点から読んで楽しめるもの」を「トンデモ本」と称してまして、過去にはUFOや予言、陰謀説を信じる本や、植物とお話できる人の話とか色々とありました。
今回は、マイナーな出版社からの本のほかに、ベストセラーもまな板の上にのせています。小林よしのり「戦争論」、週刊金曜日「買ってはいけない」など。
…このシリーズは一作目から結構好きでずっと読みつづけてるんですけども…なんか今回は笑えないなあ。書いてる方も、心底笑ってというよりは、薄気味悪さを覚えながら書いてるような気がしたのは、私の気のせいでしょうか。特に「戦争論」や「買ってはいけない」は私は読んでなかったんですが、こういうことを主張していた本だったとは。しかもそれがベストセラーでなんの疑問もなく受け入れて信じた人がたくさんいたんですね。…なんだかなあ。
個人的に印象に残ったのは藤倉氏が書いた「カルト資本主義」への批評。オカルトだからといって「思い込み捜査」で条件反射で叩くのは、オカルトを信望するのとどんぐりの背比べなのかもなあ。脊髄反射で判断を下さずに、一度立ち止まって考えるようにしないと。
笑ったのは、「緊急!マリア様のメッセージ」と「ゴジラの霊」、「英語屋さん」「餓狼の弾痕」でした。
頭から信じるんじゃなくて、一度疑ってみることが大切なこと。でもその判別は難しい。とにかく、いろんなことを知ろうという気持ちは持っていたいと思います。
●「フェイク! 有村央生のアート事件ファイル」徳田央生[白泉社My文庫]657円(01/09/17) →【bk1】
白泉社より新レーベル「Myミステリー文庫」創刊。その第一弾です。
タイトルどおり、名画の贋作事件を扱ったもの。
有村は大学院で聖母子像の研究を行なっていた。彼がある日、美術館の学芸員である友達のガイに連れられて、オークションに参加する。その日のオークションの目玉はティツィアーノの名画「フローラ」だった。有村は「フローラ」の前に立った瞬間、首の裏がチリチリするような違和感を覚え、「これは贋作だ」という直感を得た。有村はそれをガイに伝えたが信じてもらえない。オークションで「フローラ」を競り落とそうと我を失っているガイを制止しようと、つい有村は叫んでしまう。「フローラは贋作だ」と。事件はそこから始まった。
普通に小説としてなかなかおもしろい。作者が絵画に詳しく、そのあたりのリアリティがなかなか。ロンドンを舞台にしているのですが、町の雰囲気もちゃんとでてるし。不用意な一言が巻き起こす騒動、そして大きな事件へと発展していく過程にわくわくします。
これの元はボーイズラブのシリーズで、それらのキャラを使っての新しい物語に。前シリーズ読んでなくても全然問題なし。そのために主人公がゲイですが、男同士のラブシーンは朝チュン(具体的な行為描写はなく、匂わせるだけ)ですので苦手な人も大丈夫かと。キャラではくたびれた中年刑事がいい味を出しています。
ぜひ続編を出してほしいけれども、レーベルのコンセプトが中途半端というか「色」があまり見えてこないし、ライトノベルではあまり売れそうな感じではないので不安。というわけで、絵画贋作ネタが好きな人はぜひ手にとってください。表紙がボーイズラブくさいですが、実際は違いますので。
●「ランブルフィッシュ (2)中間試験暴走編」三雲岳斗[角川スニーカー文庫]514円(01/09/11) →【bk1】
「ランブルフィッシュ」の二作目。巨大人型兵器のRF同士を対戦させる公営ギャンブルな盛んな世界で、その関係者を育てるための学校・恵里谷闘専学を舞台にした物語。ライダー不足に悩むD班にやってきたのはヤンキー上がりのRF素人の沙樹。恵里谷の学内トーナメントで沙樹は瞳子の設計したガンヒルダで一回戦を勝ちあがった。そしてニ回線の対戦相手は寡黙な熟練ライダーの要。その要と沙樹との対戦を見に、一人の少女がやってきた。彼女の兄を対戦で殺したのは、要だったのだ…
設定とあらすじだけ読むとすごくおもしろそうなんだけどなあ。細かく設定しているのはわかるんだけども、根本の整合がうまくいってないから、張りぼてぽさを感じてしまうんですよね。いっそのこと完全ファンタジー世界であれば受け流せたんでしょうが、なまじ現実とリンクした世界であるだけに…
あと、空気が「学園モノ」とは微妙に違っているとか、個々のキャラに個性的な設定を織り込もうとしているんだけども、エピソードとうまく絡んでないのと、キャラ配置のバランスの悪さのせいもあってうまく発動していない。キャラ萌えを狙っているわりにはキャラ萌えできない感じ。
なまじ設定がおもしろいのと、力のある作家さんだけに、惜しいなあ。
●「呪禁官」牧野修[祥伝社NON NOVEL]890円(01/09/10) →【bk1】
ホラー方面で大活躍の作者の新作はハイパー伝奇。
35年前、突然呪術などのオカルト的なものが本当に力を持ち始めた世界での話。そこではオカルトが世の中の中心になり、科学は迫害されていた。また呪術を悪用する人間を取り締まるために作られた公的職業・呪禁官。少年ギアの父親は呪禁官で、ギアが幼い頃に殉職した。ギアは父の遺志を継ぎ、呪禁官を目指してその養成学校に入る。しかしその学校では上級生に苛められ、落ちこぼれていた。一方、不死と噂される蓮見という美青年が世界を支配する力があるみっつの呪具を密かに集めていたが…
魔術が科学に置き換わった世界…というのはライトノベルにはよくある設定ですが、この作者の場合は知識の裏付けがあるだけに世界観に芯の通ったものが感じられます。ひとりひとりでは弱い落ちこぼれ少年4人組がお互いの得意分野を組み合わせて、勇気を振り絞って格の違いすぎる敵と戦う様が感動的。ジュブナイルな空気が漂ってます。(萌えには程遠いし「現在」感覚もあまりないので、ライトノベルとは言いがたいですね…)
読んでも損はない本かと。
●「ブギーポップ・アンバランス ホーリィ&ゴースト」上遠野浩平[電撃文庫]550円(01/09/06) →【bk1】
「みんな死んじゃえ!!」「世界なんて滅びてしまえばいい…」
そう思ったことはないですか?
ないならそれはよかった、幸せなことです。
あるなら…もし、世界を滅ぼすだけの力を本当に手にしてしまったら、どうしますか?
ブギーポップシリーズの待望の最新刊。
世間を騒がせた若い男女カップルの犯罪者ホーリィ&ゴースト。実は彼らがああなってしまったのは、成り行きまかせだった。世界を滅ぼす可能性がある《ロック・ボトム》をなんとかしようとしてああなっていったのだから…
…すっごく、いい。読み終えたあと、惚けてしまいました。心地の良い酩酊感。このシリーズでは「パンドラ」の次に好きかも。
今までの話と重ね合わせて見えてくるものがあるパズルみたいなシリーズだけに、「ついていけない」という人もいるだろうなあ。その一方で「もう、たまらん!!」という熱狂的な信者も生んで。…私はちなみに後者です。
今回の物語の奥から浮かび上がってくるビジョンが、なんか、いや、もう、自分のボキャブラリの貧困さが悲しくなるけれども、目覚める寸前に見ていた夢のように、ぼんやりとイメージや感触だけが残っている感じで。そういう遠くて近いリアリティ。
上遠野浩平の魅力のひとつは強烈な同時代性だと私は思っています。未来でも過去でもなく、まさに「今」。ライブ感覚に近いのかなあ。消えモノだからこそ、魂を揺さぶる。…なんだかこの物語も、二度目を読んじゃいけないような気がする。二度目を読むと、一度目に味わった空気を忘れちゃいそうで。
あと、キャラの見せ方とかが抜群にうまい。キャラのすべてを埋めないで絶妙な隙間を作るところとか。あの、安定と崩壊の境界に位置するような絶妙なバランスの悪さでキャラや物語を配置しているのは、天性のセンスか、計算ずくか。どっちにしてもお見事だ。
イラスト、デザインも相変わらずのレベルの高さ。口絵の悪意のありそうなブギーポップのイラストが特に秀逸です。
誰かと語り合いたい気分だけども、きっと言うべき言葉はひとつもでてこないと思うので、とりあえすみのうらさんの感想にリンクしておきます。わからないんだけどもすごく伝わってくる感じなのだ。
●「炎華の断章 封殺鬼シリーズ23」霜島ケイ[小学館キャンバス文庫]533円(01/09/05)
「封殺鬼シリーズ」最新刊。千年を超えて生きる鬼たちを主人公にした、(広い意味での)陰陽師モノです。
聖たちの窮地を知った佐穂子は、ふたりを助けるために秋川の家を捨て、強行脱出した。一方、受験を控えた成樹も、ふたりの失踪を知り、居場所を探すために風鬼を使ったが…
今回のメインキャラが佐穂子と成樹だったから、閉塞感のある前巻と比べて今回は活動的な話に。それにしてもまたとんでもない終わり方をしましたが、次回はかなりハデな展開となるんでしょうねぇ。でも聖が聖らしいからきっと大丈夫じゃないかという気がする。そうであるかぎり、二人は絶望しないだろうから。
ちなみに私は千冬派。5年くらい後にはかなりいい男になりそうだし、お買い得かと>佐穂子ちゃん
●「人質カノン」宮部みゆき[文春文庫]476円(01/09/05) →【bk1】
96年にでたハードカバーの文庫本化。短編集です。
表題作は、いつも寄る深夜のコンビニで強盗にあったOLのお話。その他6篇。
短編の名手・宮部みゆきの技が冴え渡ってる1冊です。日常に突然起こった異変が人生の一部を切り取る様を鮮やかにみせていて。どれもなかなか味わい深い作品となっています。
宮部みゆきの短編集にはハズレはないけれども、これも読んで損はない1冊なのはたしか。
長編では個人的には「龍は眠る」と「火車」が好きです。
●「メタルバード1」若木未生[徳間デュアル文庫]505円(01/09/04) →【bk1】
若木未生の新シリーズ。たしかかなり前(1年?)に中央公論社C★NOVELSで刊行予定になったのに音沙汰なかったやつですね。スペースオペラぽい話。黙認ファンサイトに載ってた話からすると3冊で終わる予定だそうです。
(イズミ属性の)レイと(亮介ぽいかな?の)カイトの幼馴染コンビが太陽系連邦軍特殊認定士官となって宇宙で暴れまわる話…のまだまだ序章ですね。
感想は…若木さんは「銀英伝」が好きなんですね。それはよく伝わってきました。
私は別にSF属性がないから設定まわりのアレレな部分はさほど問題には思わないんですが、ここで描かれている軍隊があまりにも…民間の「なんでも屋」くらいの設定にしておけばそれほど違和感はないのに、なぜわざわざ軍隊なのかなあ。
まだ序章としか思えないほど話はほとんど進んでないし、ヒキがイマイチ弱いので次巻を読むかは微妙なところ。それでも半年以内に出してくれたら読むつもりだけども…出るかなあ。
●「グラスハート 冒険者たち」若木未生[集英社コバルト文庫]467円(01/09/02) →【bk1】
なんと約2年半ぶりのバンドもの「グラスハート」シリーズの新作。
今回は4つのお話が収録されています。藤谷先生が曲を書くことになったアイドル・ひびき視点からと、新しいテン・ブランクのマネージャーと。あとの二つはいつもの朱音ちゃん視点でテン・ブランクの初の全国ツアーのお話。
このシリーズは続きがでるのを楽しみにしてたけど…うーん、なんかちょっと違う。朱音ちゃんってこんなに気持ちが弱い子だったかなあ? あと文章が感性にかなりよっかかる感じになってるので、何がいいたいのかよくわからない部分も。
それと今回はステージの上の、音楽の話が省略されていて残念。そっちをしっかりと描いてほしかったなあ。
あと、こういう「今の音楽」という生モノジャンルは、時間が経つごとに世間の方が前に進んでしまうだけに、物語の中の音楽が色あせちゃうからね。このシリーズは若木さんがまだまだ若い頃に、一気に出してほしかったな。
あああ、それにしても朱音ちゃん!!坂本くんと付き合ってるんだったら、桐哉についていっちゃだめでしょーっ。
今回からイラストが羽海野チカさんに変わって、雰囲気がかなりかわりましたが。文章が変わったのもそのせいもあるかもなあ。若木さんはイラストに引きずられやすい人だから。
2ちゃんねるのスレッドに書かれてたネタですが、102ページの冒頭から3行って…やっぱりそういう意味なんでしょうか? 朱音ちゃんもいよいよオトナに?
あと、オーヴァークロームのお話はいつ文庫本化されるのかなあ。楽しみに待ってるのに。
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