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●「パリのトイレでシルブプレ〜〜!」中村うさぎ[角川文庫]400円(01/02/28)

無駄遣いエッセイ。「ゴクドーくん漫遊記」(でも私は読んだことないです)の作者なんですが借金を重ねてまでブランドモノを買いあさって、税金滞納・電気やガスまで止められる生活をしてたりするんですが、そのくせパワフルに前向きに生きてる感じ。こういう生き方もアリなんだなあ。ネタ自体が笑えるし、文章に勢いあるし、エッセイとしてはオススメ。虚栄心強いわりには、自分をそれだけさらけ出して笑い者にできるあたりが不思議な気はしますが。「だって、欲しいんだもん!−借金女王のビンボー日記」も結構おもしろいです。


●「魔術士オーフェン・無謀編11 もういいかげんあきらめろ!」秋田禎信[富士見ファンタジア文庫]480円(01/02/28)

「魔術士オーフェン・無謀編」シリーズ最新作。表紙のマジクがかわいいよぉ。(←とかいたら「それはキリランシェロだ」というツッコミが。あ、ホントだ。)
まあ無謀編の内容はいつもどおりってことで、期待していたのはプレオーフェンにコルゴンがでてくることっ!! イラストのコルゴンがカッコいいです。話の内容は少し期待外れかな。もっとキリランシェロとの絡みがみたかった。
そういえば無謀編ってもう雑誌では連載終了してるんだよね、たしか。ということはもうそろそろ終わり? 無謀編自体は私にとってはどうでもいいんですが、プレオーフェンの話が読めないのが寂しい限りだなあ… プレオーフェンで一冊長編書いてくれないかなあ。無理かなあ。


●「激突カンフーファイター」清水良英[富士見ファンタジア文庫]580円(01/02/27)

第12回ファンタジア長編小説大賞準入選。正義の改造人間・カンフーファイターがはちゃめちゃに活躍する、全編ナンセンスギャグの小説です。
ごく一部(?)で話題沸騰なので読んでみました…が。うーん、波長があわないねぇ。個人的にはあんまりおもしろくなかったです。ジャンプのギャクマンガ(20週で打ちきり)みたいな印象を受けました。天然バカじゃなくて、努力バカかなあ、と。おもしろいだろうっ!!という気概は伝わってくるんですが、私の心にはヒットせず。ギャグを小説でやるのであれば、もうちょい言語センスがよくて、地の文のリズムがあるといいんだけどなあ。
ナンセンスギャグ小説では、私は全盛期の尾鮭あさみが最強だと思うんですが、どんなものでしょう。(ちなみにお笑い方面でオススメするなら雷&冥シリーズ。一作目のタイトルは「天国それとも朱雀寮」だったと思います。古い本なのでBOOK OFFの方がゲットしやすいでしょう。めちゃめちゃ笑えますが、すみませんホモなんです…)
でもこの作者って、ギャグの内容からすると30歳は越しているよね…今の若い子にはネタがわかんないんじゃ…


●「さすらいエマノン」梶尾真治[徳間デュアル文庫]562円(01/02/27)

「エマノン」シリーズ2冊目。1992年に出された作品の新装版。「NO NAME」をさかさまに呼んで「エノマン」と名乗る少女は、地球上に人類が発生した頃からの生き物のすべての記憶を持つ少女。世界中を放浪する彼女とすれ違った人々との連作短編。時期柄か、環境問題ネタが多かったです。そのせいか、お話のトーンはどれも似通ってしまったような。
名作SFと呼ばれるだけあってひとつずつの話がしっかりと仕上がっています。前作は正直いうと時代の流れというか、古びた感じをうけたんですが、今回はそれが全く気にならなかったです。いつになるかわからないけど、書き下ろし長編の方も楽しみに待っています。
鶴田謙ニさんのイラストがこれまた素晴らしいですね。


●「妖怪馬鹿」京極夏彦・多田克己・村上健司[新潮OH!文庫]695円(01/02/24)

「妖怪バカ」を自認する3人の対談集です。京極夏彦の書き下ろしマンガも多数収録。京極さんって模写がうまいですねぇ…でも元ネタがわからないものもいくつか。私とは世代が違うからなあ。全体的に昔のやつばかりなので今の若い子にはもっと分からないかも。高橋留美子の模写も昔のうる星初期の頃のタッチに近いしね。でもアレってどこかの出版者から文句こないのかしら。天下の京極夏彦だから大丈夫なのかな? ちなみに京極さんのマンガで一番ウケたのは「愚霊」です。
妖怪マニア3人の対談なので専門的な話になってついていけないかも…と思ってましたが、皆さん話術が巧みなためにこれがかなり面白い。分からない部分は分からないなりに愉快ですし。文化の伝播と変質と統合の具体的な話がとても興味深い。
京極堂シリーズがお好きな方であれば十分楽しめるかと思います。
本題とは関係ないけれども、京極夏彦の同人誌やファンに対するスタンスはかなり好みですな。突き放しもしないし、近寄りすぎないあたりが。お気に入りの作家さんが皆が皆、こういう人だったらいいんだけども。…あと京極先生には早く京極堂シリーズの新作さえ書いていただければ、文句のつけようがないんですが。


●「サイケデリック・レスキュー クリムゾン・インフェルノ 後編」一条理希[集英社スーパーファンタジー文庫]571円(01/02/23)

シリーズ最新刊。ハイパーレスキュー・パニックもの。待望の後編です。
失意の恭平を襲ったのは、未曾有の大地震。あっけなくボロボロと目の前で大勢の人たちが死んでゆく中、恭平の胸の中に去来したものは…
前編がきっついところで終わってたんですが、後編の展開の容赦のなさは前編の比じゃない。もう、痛くて痛くて痛くて。やりきれなくて、泣くしかない感じ。このシリーズにも細かい瑕はいくらでもありますが(水城財閥の設定まわりのアニメっぽいうさんくささとか)そんなの関係ないっ!!…というくらい、パワーがある。まさしく作者入魂の一作。
ずっと泣きながら読んでたけど、最後にちゃんと恭平が帰ってきたあたりでトドメを刺されたみたいにポロポロになってしまいました。このシリーズ読んでてよかったです。
情報と危機管理のあり方や、全体をとるための目の前の命を見殺しにしなければいけなかったりとか、色々と考えてさせてくれるものがありました。
このシリーズは一作目の「サイケデリック・レスキュー」から読んだ方がいいけど、とりあえず「クリムゾン・インフェルノ」の前後編だけでもあらすじを読めば大体わかるんじゃないかと。


●「NOVEL21 少女の空間」[徳間デュアル文庫]648円(01/02/23)

「NOVEL21 少年の時間」と対になるハイブリッド・エンターテインメント・アンソロジー集。収録作品は、
 小林泰三「独裁者の掟」
 青木和「死人魚」
 篠田真由美「セラフィーナ」
 大塚英志「彼女の海岸線」
 二階堂黎人「アンドロイド殺し」
 梶尾真治「朋恵の夢想時間」
そして巻末には山田正紀&西澤保彦(+大森望)の対談の後編が載っています。
アンソロジーとしては、並のデキ。ひどいのがないかわりに特筆するほどのものもないというか。ただ残念だったのは、テーマとして掲げられていた「少女」の息吹を感じさせてくれる作品がなかったこと。大人の目からみた少女じゃなくて、もっと「同時代」の少女をみせてくれる作品がひとつくらいはほしかったかな。まあ今回はライトノベルの作家さんがひとりしかいないわけだから仕方ないけども。
あと、ミステリ作家さんのSFって……ぎこちなくて、なんか世界がカキワリみたいなの。しょうがないか、誰にでも得手不得手はあるものだし。
梶尾真治の作品は、「クロノス・ジョウンターの伝説」系譜の作品。これもシリーズとなるのかな? しみじみとしたいい話ではありました。
執筆者に惚れてる作家さんがいるなら買いですが、そうでなければ無理に読む必要はないかと。


●「ロシアは今日も荒れ模様」米原万里[講談社文庫]495円(01/02/22)

「不実な美女か 貞淑な醜女か」「魔女の1ダース」などの日露同時通訳者の米原さんのエッセイ集。ロシア人とウォッカの話をユーモアたっぷりに語ったと思えば、ソビエト連邦崩壊の前後を鋭く分析。おもしろいだけではなく、読み応えのある本になっています。社会主義と資本主義、異文化の理解の難しさ、本当の豊かさとは何かなど色々と考えさせられる部分もありました。こまぎれなエッセイなので気楽に読めますし、オススメです。前作2冊も非常におもしろいです。


●「鉄壁トランクス マンガ家修行シリーズ」金丸マキ[クリスタル文庫]476円(01/02/21)

ボーイズラブです。金丸さんは昔は結構好きな作家さんだった(「絶対服従」「うそつき」はすごくいい作品だと思います)のと、イラストが「キルゾーン」シリーズでお馴染みの梶原にきさんだったので購入。
30を前にして、律は大企業を辞め、昔からの夢だったマンガ家になるために修行を始める。憧れのマンガ家・星崎のアシスタントになったはいいが、年下ながら自分より技量は上の先輩アシスタントの神田にイビられる日が続いていた。しかし、ある日酔った勢いで…
受も攻も好みのタイプじゃないのでイマイチのれませんでした。ちなみに表紙真中のぬぼーっとした人が受、手前のチャラチャラした兄ちゃんが攻です。サクサク読めるし、業界モノとしてはそれなりの水準ではありましたが、もう一歩何かがほしかった。菅野彰●「愛がなければやってられない」もボーイズラブで編集者(図太い)×売れっ子マンガ家(ナイーブ)でありますが、これくらいパワフルなコメディだとよかったんだけどなあ。
作中作のマンガがあんまりおもしろそうに思えないのもマイナスポイントかも。ちなみにラブラブ度はそれほど高くないです。


●「リングテイル4 魔道の地脈」円山夢久[電撃文庫]530円(01/02/20)

「リングテイル」シリーズ最新作。「凶運のチャズ」編完結です。電撃には珍しくハイ・ファンタジーな作品。
…一応完結したのはいいけれども、話がきちんとオチてないのが後味悪い。なぜマーニが過去に飛ばされることになってしまったかとか、その他色々と。
この話、私とはもうひとつ波長が合わなかったようで。


●「機甲都市 伯林3 パンツァーポリス1942」川上稔[電撃文庫]630円(01/02/19)

「機甲都市 伯林2 パンツァーポリス1939」の続編。あれから三年。英国軍の独逸本土爆撃に対抗して独逸G機関は秘密兵器を配備した。一方、反独隊に入隊したヘイゼルは、任務のために久々にベルガーと会うが…
都市シリーズは、電撃でも飛びぬけて尖っているシリーズです。現実のドイツの第2次世界大戦の歴史は踏まえているものの、そこに独自色の加わった独特の混沌とした世界になっていて。巨大ロボットやら予言やら風水やら自動人形やら、独自のギミックが「これでもか」というほど炸裂しています。…世界構造がややこしいせいもあって、今回の話も半分くらいはわかったようなわからなかったような感じになってしまいましたが…ケレン味があって一気読みさせるだけの力はあります。前の巻を流し読みでも読み返した方がよかったかもしれん。
このシリーズはとりあえず順番どおりに読むがいいかと。一作目はあんまりおもしろくないですが。特に巴里はおもしろいです。


●「メッセージ」榎田尤利[クリスタル文庫]476円(01/02/16)

魚住くんシリーズ三冊目。今回はシリーズ転機となる話。あまり他人に興味を持たない魚住くんが中学生の女の子・さちのと親しくなる。しかし……あらすじだけを書くと陳腐なんですが、でもなぜこんなに胸が痛くて、泣けるんだろう。話自体はサラリとしてるんですが、それだけに却って胸に突き刺さる。作品の物語との距離のとり方が絶妙。例えばさちのの感染の理由はいくつかのエピソードから推測はできますが、それを明記しないあたりとか。
JUNEというのは「再生」の物語ではないかと思うんですが、そういう意味ではこのシリーズはまさしくJUNE。久々にいいものを読んだという感じです。
ボーイズラブといってもラブシーンというのはほとんどないので、江國香織●「きらきらひかる」程度が大丈夫なら読めるんじゃないかと。ジャンルを越えて多くの方にぜひ読んでもらいたい話です。オススメ。読むならばシリーズ一冊目の「夏の塩」から。現在のところ、「プラスチックとふたつのキス」と本書の三冊目まででています。


●「プラスチックとふたつのキス」榎田尤利[クリスタル文庫]476円(01/02/15)

「夏の塩」に続く、魚住くんシリーズ二冊目。ボーイズラブというよりはJUNEかな。豪快タイプ×植物ぽい心身ともに虚弱美形のじれったい恋物語です。
一作目も作品と作者の距離のとり方がベタついてないところがよかったけど、二作目はキャラ造詣やエピソードのみせ方などがさらにうまくなった感じ。センスがとにかくいい。スタイリッシュなプラスチック製のきれいなフォルム椅子がそこにポツンとあるような。
魚住くんが少しずつ人間らしさとを取り戻していくあたりがほほえましいですね。サブキャラの女の子がそれぞれ存在感を持ってきているし。扱っているテーマは重いけれども、作品はベタついていないのが気持ちいい。キャラに萌えられくても話を読ませる力があるので、ボーイズラブが平気な人にならオススメです。


●「グイン・サーガ77 疑惑の月食」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(01/02/14)

「グイン・サーガ」シリーズ最新刊。あらすじを簡単に書くと→レムスへの反乱を起こすも戦況が悪くなりナリスが自害。その直後にスカールが援軍にかけつけたが間に合わず。スカールはナリス代わりに総大将になることを断ってリギアを連れて草原に舞い戻ることにした。イシュトとカメロンの亀裂が少しずつ広がってゆく。キタイの陰謀を警戒してパロへの出兵を検討するグイン。マリウスはナリス死亡を聞き、まわりの制止を振り切ってナリスの元に出奔する。ヴァレリウスが帰還。←要約するとこれだけで終わっちゃうだよねぇ…このシリーズの内容の水増しぶりは今に始まったことではないですが。
うーん、なんか先の展開ミエミエなのってひょっとしてトラップ? この話って最近はストーリーを強引に展開するためにキャラの性格をねじ曲げてるような気がして仕方がない。今回のマリウスの件とか。
ナリスに関しては作者が入れこみすぎたせいで死なせどころを過ぎてしまったような気がするんですが、本当に栗本さんはナリスを殺せるんですかねぇ?
どこの国もすさんでるなー。今回はスカールさんとかグインがでてきたのはよかったけれども。


●「ウィザーズ・ブレイン」三枝零一[電撃文庫]610円(01/02/13)

第7回電撃ゲーム大賞《銀賞》受賞作。
22世紀の地球、人類は「情報」を書きかえることで熱力学第二法則の支配を突破していた。しかしある日、大気制御プラントが暴走し、地球は厚い雲に覆われ、冷えた世界となった。それに続いて起こった大戦のため、人類は閉鎖型都市《シティ》とその周辺にわずかに残るのみ。それから12年が経った。少年・錬は依頼を受け、神戸シティに運ばれる荷の一部を強奪する。それははかなげで健気な少女だった。その少女の抱える秘密のために錬は何者かに狙われることとなるが…
典型的なボーイ・ミーツ・ガールな話。情報制御が発展して、脳に埋め込まれた「I-ブレイン」をさまざまなソフトで制御することで、まるで魔法のような現象を起こせる世界での話。ティストとしては川上稔を髣髴させるものがあるけれども、まだこなれてないせいでイメージ喚起力が弱く、引っかかって読み辛い。後半はまだ読みやすかったので、書き慣れればこのあたりは克服できるかも。ただこの手の造語を連発するならば、川上稔か古橋秀之レベルでの言語センスを期待したいものですが、いくらなんでもそれは酷か。
ただ一所懸命なまっすぐさがとてもライトノベルらしくていいですね。終盤あたりは結構じーんとしましたし。川上稔だって最初の話はイマイチだったし、そのあと伸びる人はとことん伸びますからね。とりあえず今後に期待。


●「ミューズに抱かれて2 道の向こう」中井由希恵[集英社コバルト文庫]495円(01/02/12)

2000年度ロマン大賞入選作の「ミューズに抱かれて」の続編。音楽モノ。
指揮者を目指してフランスに留学した笙は、有名なコンクールに優勝し、素晴らしい師匠と親友・フランシスにも恵まれていた。ヴァイオリニストの美女・ナディともいい雰囲気に。ある日、フランシスの母親の家にステイしているピアノコンクールの参加者の世話を頼まれた笙は、日本人ピアニストの美里と出会うが…
表紙をみるとボーイズラブのようですが、全然違います。男同士の熱い友情は炸裂してますけども。
音楽モノとしては結構おもしろい。なんか、この作者や登場人物の「音楽好きだ〜」という気持ちが伝わってきて。結構惹き込まれて読んじゃったし、最後の方にはじーんとしました。
ただね、話もキャラも浅いというか甘いというか。主人公は天才の上にいい人で皆に愛されて、あまりに順風満帆。サブ主人公も大金持ちで経済にも音楽にも才能があって、しかも金髪碧眼美形。何十年前の少女マンガですか?って感じで。ヒロイン(?)のナディは最初はなんでこの人に主人公が恋をするのかさっぱり理解できませんでしたが、中盤からは芯がしっかりしたところが分かってよかったかも。
話もこんな都合よい展開は普通はしないと思うんですが……
文章などは一作目からすると結構上達してます。今回は特にひっかかるところなかったですし。読者を引き込むパワーはあるし、もう少し書きなれるとバケるかも、と期待はしています。
続編、でるといいな。


●「黒祠の島」小野不由美[祥伝社NONノベル]886円(01/02/12)

小野不由美さんの「屍鬼」以来の新刊。うわー、もう2年半ぶりですかっ!!
今回は古い因習のある孤島での連続殺人事件。横溝正史ほどあっちの世界にはいってませんが、ノリとしてはそういうのに近いかも。
小さな調査会社にいる式部剛は、仕事上で付き合いのある作家・葛木志保に旅行に行くからと鍵を預けられた。その彼女が予定を過ぎても帰ってこない。不可思議に思った式部は彼女の過去を調べ、出身地である「夜叉島」に辿りつく。そこでは奇妙な宗教の残った、排他的な島であった…
思った以上に本格ミステリな話でした。「屍鬼」と同じく、閉ざされた村社会をリアルに描いてはいるんですが、今回は宗教も含めたシステムや多数の人物配置やややこしい家系図をこれだけの分量に納めるだけで手一杯だったように思えました。会話ばっかり延々と続くところとか多すぎて読んでて息が続かないというか。あと、説明不足で解決編のあたりで「???」となってしまうところがあるんですけども…
解決編で色々とひっくり返る構図や、最後に付き付けられた、わりと誰の心にでもある罪と罰がつりあえばそれでいいのかという気持ちの是非に関する問題もなかなか興味深いものではあります。
小野主上の熱心なファンか、孤島ミステリが好きな人は買ってもいいかも。「十二国記」な感じを期待するとがっかりするかも。
とにかく、次は熱望していた「十二国記」の新刊ですねっ!! やっと載の話だよっっっっ!! あー、もう何年待たされたことか。今から本当に楽しみであります。


●「上と外4 神々と死者の迷宮 下」恩田陸[幻冬舎文庫]419円(01/02/09)

夏休み、考古学者の父に会うために中南米の某国に出かけた中学生の練とその義母の千鶴子、妹の千華子。その先でとんでもないトラブルに巻き込まれるが…
シリーズ4冊目は起承転結の「転」に当たる話。詳しいあらすじを書くとネタバレになるのでやめておきますが、現在はサバイバル・ホラーという趣。とにかく錬が信じれないような事態に巻きこまれ、窮地に追い詰められています。その中でも精一杯の知恵と勇気で乗りきろうとする様がいいなあ。読んでてドキドキする。
またサブエピソードの使い方がうまい。世界の広がりを感じさせるようで。
たしか全五巻の予定だったと思うんですが、この状態であと一冊で本当に終わるのでしょうか? 話がのびるのは別にかまわないんですが、恩田陸は話の収拾を付けるのがあんまりうまい人ではないので、ちゃんと終われるかすこし不安。これだけ脳を刺激する、ハラハラする話を作ってるんですから、ぜひそれにふさわしいラストを迎えてほしいけど、どうなるかなあ。


●「陰陽ノ京」渡瀬草一郎[電撃文庫]610円(01/02/08)

第7回電撃ゲーム大賞金賞受賞作。タイトルどおり、平安時代を舞台にした陰陽師モノ。でも主役は安部晴明ではなく、彼の幼馴染にして弟子の慶滋保胤。彼は陰陽師に連なる家に生まれながらも、文官となった変わり者。糸目で人がよくて、鬼にさえ情けをかけてしまう優しい人。そんな彼が清明から「竜」に化ける外法師の話を聞いたときから話が始まる…
おもしろかった。ちょっとだけ読んで明日に回すつもりが一気読みしちゃったし。時代考証とか世界構築とかしっかりしてるし、キャラの書き方も悪くない。読みやすいし。陰陽師モノとしては枠内に収まってしまってるのが少々残念。
一般小説として出しても全然遜色はなかったでしょう。…でもなぜ電撃ゲーム大賞? この賞はブギーが売れてからライトノベル系の賞では一番注目度高いし、もうなんでもアリな状態になってるのもわかるんですけど、この小説にはライトノベルには必須の尖った感じに欠けているんですよね。だから賞と作品がしっくりこなくて。
陰陽師モノが好きな人は読むべし。ただしこの安部晴明は気安い中年男ですので。
イラストが「サイコ」の田島昭宇さんなんですが、口絵ピンナップが絶品のデキ。同じ絵が塗り方かわるだけでこれだけイメージが変化するんですね〜。それにしても美しい線だ…ため息がでるなあ。素晴らしい絵は何百枚と費やした言葉に劣らないだけの世界を内包するのね。


●「ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド」上遠野浩平[電撃文庫]530円(01/02/08)

「ブギーポップ・ウィキッド エンブリオ炎生」から早1年、待望のブギーポップの新刊です。
今回は凪が中学生のときに遭遇した、集団昏睡事件の話。凪が大活躍、霧間誠一のエピグラムが多数あるし、懐かしいあの人の登場、そしてケレン味のあるブギーポップの活躍、パズルのピースが次々と嵌っていく感覚…とこのシリーズのファンには満腹なお話でした。新キャラの朱巳の気の強さときっぱりしたところもなかなかいい。話の終わり方にわりと爽快感があるのは、朱巳のキャラのせいじゃないかと。
今回のテーマ曲、私の中では「ガラスの十代」のサビの部分が鳴り響いてました。
口絵の最初のブギーのイラストの色合いの美しさが素晴らしい。緒方剛志さんの色彩センスの凄さもあるのでしょうが、よくもこう微妙な青を再現したデザイナー(の仕事でいいのかな?)にも乾杯。
以下ネタバレ感想。→今回の趣向は「能力がないのにMPLSのふりをして統和機構に使われてる少女」。前にもこのシリーズでは辻さんが能力がないのにあるふりをしてましたが、あれとは事情が違いすぎるし。辻さんが今回登場したのもその対比かなあ、と思うんですが。
子供が、人の興味を引くために次自分には何か力をあるようなふりをすることはありますが、それしても彼女の場合は嘘がバレたら即座に消されるわけですから、半端な覚悟じゃできないですよね。しかも周りはMPLSにしても人造人間にしても強烈な力の持ち主ばかりで、その前で去勢をはりつづけなければいけない彼女の傷はいかほどのものか。
たくさん傷ついても、その傷ゆえに輝ける、「ガラスの十代」。


●「消えた王太子 法廷士グラウベン」彩穂ひかる[講談社X文庫ホワイトハート]650円(01/02/07)

第6回ホワイトハート大賞期待賞受賞作「法廷士グラウベン」の続編。
舞台は中世、神聖ローマ帝国の頃。美貌の法廷士グラウベンは、聖女ジャンヌ・ダルクの擁するフランス王太子がニセモノではないかとブルゴーニュ公爵の疑惑をうけて、ジャンヌを追求するために裁判を開くことになったが?
中世世界を舞台した裁判劇。前作もそうだったけど、ネタはオイシイんです。ただその料理の仕方がなあ。法廷劇として魅せるのであれば、ミステリとしてがっちりとしてなきゃいけないんですが、ロクにプロットも立てずにミステリを書いてることをあとがきで誇るのはどうかと。…そのせいだったのか、どうもストーリーやキャラクターの言動に整合性がなかったのは。
作者がこの時代を好きなせいか、時代考証をしっかりしているのはよくわかるんだけど、それを全面に押し出しすぎ。そりゃ、この話はフィクションだというのは百も承知ですが、地の文で「史実では」とうるさく書くと、小説そのものに「これはフィクションなんだよ〜」って言われてる感じがして物語への没入度がマイナスになってしまうんだよね。
女キャラの書き分けがもうすこしなんとかしてほしいなあ。
とにかく、「ミステリを書くのならプロットちゃんと立ててほしい」とだけはいいたいものです。


●「MAZE[めいず]」恩田陸[双葉社]1500円(01/02/06)

恩田陸の新刊。今回はホラーというかミステリーというか。
アジアの西の果てに、深い谷の奥に突然開ける白い荒野。灰色の丘の上には、白い四角い建物が建っている。その建物は、「存在しない場所」「ありえない場所」と呼ばれ、恐れられてきた。唯一開いている狭い隙間の奥に続くのは、人がひとりしか通れない狭い幅の迷路。そこに入ったまま、忽然と消えうせ、帰ってこない人たちが何人もいるという。そこに満は同級生の恵弥の依頼で、その建物の謎を解く「安楽椅子探偵」としてやってきたが…
この話の主役である建物のイメージと存在感がいいです。今回も恩田陸の作品らしく(?)オチの部分がかなり弱いんですが、それでも 「魂まで抜かれてしまいそうな」「深い青」の空の下に存在する白亜の迷宮、というモチーフだけで満足というか。
満が中盤で明かした「真相」がなかなか怖い。でも、それに無理矢理合理的回答を出さなくても…と思うけどなあ。
恩田陸世界に浸れて私は満足でしたが、よっぽど熱心なファンでない限りは文庫本化を待った方がいいかも。


●「マリア様がみてる いとしき歳月(前編)」今野緒雪[集英社コバルト文庫]438円(01/02/02)

「マリア様がみてる」シリーズの続編。
今回は卒業の話。三つの短編で、メインは黄薔薇様。黄薔薇様が複数の男性とのデートシーンを新聞部の生徒に目撃され…という話。いやあ、いかにも黄薔薇様らしい。後半の展開はなかなか愉快でした。
それにしても、もう卒業なんですね…薔薇様たちとのお別れが寂しいかぎり。卒業してもまたでてきてくれないかなあ。
祐巳ちゃんのドタバタした様がかわいいです。それにしても由乃さん……つ、強いぞこの人は。
このシリーズはカトリック系お嬢様学校を舞台にした、少女達の日常を描いた(ソフトレズの)なんてことはない話なんですが、キャラが立ってるし、エピソードのまとまりもいいのでついつい読んでしまいますね。ある意味正統派少女小説。柔らかい春の日差しのような話で、どことなく懐かしさを覚えてしまいます。


●「流血女神伝 砂の覇王4」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]530円(01/02/02)

いやあ、もうどれだけ楽しみにしていたことか。待望の「流血女神伝」シリーズの最新刊です。
今回も、王道エンターティメントとしてジェットコースター並の怒涛の展開。…あらすじを書くとネタバレになってしまうので何もかけないよぉ。いやもう、なんていうか。次が11月だそうですが、このまま11月まで待つのが辛い。続きが本当に待ち遠しいシリーズであります。
以下、意味不明感想。バルアンが……ひょっとして彼はサルベーンの上をゆく腹黒さんですか? 一体何を考えて、あれだけのことをしくんだのか…次の巻で真意はわかるのでしょうか。
私の中で今回株が上がったのはドーン兄上。グラーシカを叱るあたりとかジーンときました。本当に素晴らしい人なのに、でもルトヴィアは生き返ることはできないんでしょうか。須賀さんの作品だから、「ルトヴィアが蘇ってめでたし、めでたし」に単純になるとも思えないんですよね。バルアンの言葉が頭にひっかかってしまいます。
グラーシカのドレス姿も素敵。さすが映えますね〜。男前カップル万歳!! といいつつ、今回萌えたのはタウラ×グラーシカだったりします。女親衛隊長(長髪美形だけども顔にキズあり)×異国に嫁ぐ王女(聡明、麗人、さっぱりした気性)なんですが、やはりこういう主従の絆には弱いです。ムイクル→バルアンも別の意味で萌えですが。こっちは愛憎紙一重みたいなどろっとした感じがいいですな。
あとあと、エドッ!! もっとしっかりしろよ〜。あんたがそんなことじゃ、カリエちゃんがどうなってしまうかっ!! あんたのそのもやもやは、きっと恋なのよっ!!といいたくなりますが、そう単純なものでもなさそうだしなあ。先が遠いお二人さんであります。それにしても船戸さんの最後の4コマは楽しかった。
ネタバレ感想→えっと、ラクリゼが族長の息子の名前ってどういうことでしょ? まさか男…じゃないよねぇ? 男として育てられたとか? 以前カリエのことをサルベーンがラクリゼに「君の花嫁」ということを言ってますが、ひょっとしたら両性具有とかいうことでしょうか? 謎が謎を呼ぶ展開だなあ。
このシリーズは異世界ファンタジーというか、架空歴史活劇です。弱体化した大国・ルトヴィアとその周辺国を舞台に、ひとりの少女が過酷な運命に巻き込まれながらも強く生きてゆく姿を描いています。魅力的なキャラクター、怒涛のストーリー展開もさることながらしっかりとした世界観がこれまた見事。ライトノベルを越えた、一級のエンターティメントです。「十二国記」と「アルスラーン戦記」と「デルフィニア戦記」を足して1.5で割ったような感じでしょうか。
読むならば「流血女神伝 帝国の娘」から。現在のところシリーズは6冊でています。ネット書評でも結構評判いいシリーズですし、興味があればぜひ読んでくださいませ。


●「夏の塩」榎田尤利[クリスタル文庫]476円(01/02/01)

ボーイズラブ。豪快タイプ×植物ぽい心身ともに虚弱美形なお話。連作短編。
「活字倶楽部」のレビューに興味を惹かれて購入。元々ジュネに掲載されてた作品だそうで。なるほど、ジュネぽいですな。不幸を背負いすぎたせいで心が鈍感になり、心因性の病気を多数抱えながらも自分が傷ついてることがわからない、子供がそのまま大きくなったような受。そんな彼が不幸を笑い飛ばすような豪快な攻との生活で少しずつ癒されていくという話です。
この手の話はジュネでは多かったですよね。タクミくんシリーズとかもそうだし。私は尾鮭あさみの潮くんのシリーズがそりゃもう好きでしたねぇ。懐かしい。
受も攻も私の好みのタイプとはズレてましたが、話がキャラにべたべたしてない、少し突き放した視点がよかったです。ハマるほどじゃないけど、続編がでたら読んでみたい。この鈍すぎるカップルの行く末が気になります。


●「六番目の小夜子」恩田陸[新潮文庫]514円(01/02/01)

学園ホラーで青春もの、かな。
地方のある高校に、奇妙ななゲームが受け継がれている。3年に一度、「サヨコ」と呼ばれる生徒がこっそりと選ばれ、「サヨコ」はある役割を担うことになる。そして、その6番目の「サヨコ」の年、謎めいた美しさを持つ沙世子という少女が転校してきたが…
恩田陸のデビュー作。92年に「ファンタジーノベル大賞」の最終候補作品になり、文庫本化されるがすぐに絶版、ながらく幻の本でしたが恩田陸がメジャーなったので、加筆の上単行本で出されました。その文庫本化されたのが本作品。
私はこの作品は、最初に文庫本が出たときに読みました。そのときは雰囲気とかいい感じなものの、話が吉田秋生の「吉祥天女」(名作マンガ。現在文庫本化されてますので読んだことのない方はぜひ1度読んでみてください)を彷彿させるのと、あと途中までのイミシンな展開に比べてラストがしおしおだったせいで評価がイマイチでした。あの文化祭のシーンは忘れられなかったけどね。私の家が狭いせいで、よっぽど気に入った本以外は適度に処分してたので、この本も処分しちゃったんです…今からすると、置いておけばよかった〜、と後悔ですが。
さて、今回読み返してみて。視点が安定しなかったり、描写にぎこちなさが残るあたりがデビュー作かなあ、と。この頃は学園という閉ざされた世界の危うさを、この作品ではエピソードでみせているというよりは、セリフや地の文でみせちゃってるですよね。でも恩田陸独自の空気の萌芽は感じられます。色合いはまだ薄いですが。ラストにしても、今回はわりとすんなり受け入れられました。私が恩田陸の作風に慣れたせいかな。
恩田陸ファンは当然購入するだろうけど、そうじゃない方は…学園ものが好きでしたら。あの文化祭のシーンだけでも読む価値はあると思います。


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