01年10月に読んだ本。 ←01年09月分へ 01年11月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「戦略プロフェッショナル」三枝匡[ダイヤモンド社]1650円(01/10/30) 【bk1】
またまたビジネス書です。「V字回復の経営」がおもしろかったので、同じ作者の作品を購入。
大企業から関連会社に出向した若手幹部が、沈滞していた社内ムードを変え、競合を押しのけ大成功する物語を、実話をベースに小説仕立てで書かれた実践的な経営指南です。やはり熱さがあって、ぐいぐい惹き込むものがありますねぇ、この作者の書くものは。
前書きをみて、「あれ?」と思って確かめたら、この本の発行は1991年3月。これが書かれた頃はアメリカ経済が沈没しちゃって、日本はバブルがはじける寸前くらいかも。なんたって10年前ですから、アップルが急激に成長して、Windowsがまだ出てこない頃だったんですよ… そっか、マイクロソフトはそんな急に世界有数の企業になったんだなあ。しみじみ。
時代は今からすると古いものですが、分析手法や運営方法、スピリットは今でも十分通じるものがあるかと。結構参考になりました。
●「クラン[II]逃亡編」田中芳樹/霜越かほる[集英社スーパーダッシュ文庫]476円(01/10/29) 【bk1】
あの田中芳樹が6年前に書いたまま頓挫した、アニメ化前提企画の作品「KLAN クラン[I]」の続きを霜越かほるが書くと聞いたときには正直残念でした。「双色の瞳 ヘルズガルド戦史」シリーズとか、すごく好きな作品で、この続きの方が読みたかったのに。…色々と大人の事情があるのは分かってるんだけど。
「クラン」も獣化する血統同士の争いの物語という、ライトノベルズありがち設定なので、正直いうと霜越かほるが続きを書くだけの価値のある話かなあ?という気はしたんですが。
これが結構おもしろかったです。味付けの仕方が見事。主人公たちにとって「足でまとい」かつ「頭脳」となる新キャラがうまく物語に厚みを加えているし。主人公たちのキャラもうまく生かしているかと。いいねぇ。
「田中芳樹」のネームバリューに惹かれてこの本を読んだ人が、霜越かほる自体にも興味を持ってもらえたらいいんですが。
●「ミドリノツキ 下」岩本隆雄[ソノラマ文庫]495円(01/10/28) 【bk1】
「ミドリノツキ」、やっと待望の完結編です。
ちょっと未来の世界の話。ある日、多くの人がひとつの夢をみた。それは過去の超文明の遺産である塔からのメッセージ。その塔は選ばれしひとりの人物の願いを聞いてくれるという。すこし意地っ張りだがまっすぐな少年が、塔に選ばれた人物との関わってしまい、苦難の道を乗り越えて最後に大きな決断を迫られるが…というようなお話です。
前巻で「大風呂敷を広げ過ぎてるような気がするけど、ちゃんとたためるのかなあ」という感想を抱いたんですが、見事にまとめてくれました。すこしまっすぐ過ぎるかなと思わなくもないけど、スケールの大きい物語にしあがっています。正当派ジュブナイル。いいお話でした。
●「特命転攻生 <人別帳>は燃えているか?」新城カズマ/新藤キミテル[ファミ通文庫]640円(01/10/26) →【bk1】
新城カズマの新刊で、あらすじ読むとかなりのバカ設定みたいなので買ってみました。
密室である学園で発生する特殊事件を解決するために、文武省より派遣される特命転校生。今回、少年と少女ひとりずつが送り込まれたのは、私立帯刀学園。ここでは学籍管理委員会が試験によって生徒たちの身分を決め、成績が悪いと名前を剥奪されて学籍番号のみで呼ばれ、奴隷的な扱いを受けてしまう…そういう歪んだ世界は、実体化した《震龍》が特定の生徒の妄想とリンクして生まれるのだ。特命転校生の目的はその《震龍》を封印することであるが…
この世界はテーブルトークRPGのために作られたそうです。今度はメイルゲームもスタートするとか。その世界をノベライズしたもの。蓬莱学園のような、なんでもアリな雰囲気の世界みたい。(作者は蓬莱学園関係者であります)
小説そのものは…小ネタはなかなかピリリといい味出してるものの、物語全体のバカパワーがもうひとつ足りなかったかなあ。キャラもなあ… いや、基本的につまらない話ではないんですが。
●「V字回復の経営」三枝匡[日本経済新聞社]1600円(01/10/24) →【bk1】
ビデネス書です。経営コンサルタントの作者が、実際に立てなおした5社の実例をモチーフに、架空の末期症状だった会社を外部からやってきた男たちが立てなおしをはかる…というのを小説仕立てで描かれています。
ビジネス書ってきれいな理論とうまくいった実例だけを書いたものが多いけれども、この物語は生々しく、泥臭いところがいいです。タテマエだけじゃなく、本音の部分まで書いてくれている感じがします。思考も色々と刺激されたし、過去を振り返って反省することも色々と。とても参考になりました。「プロジェクトX」が好きな人にもオススメ。ああいうティストなので。泣かせじゃないけれども、熱いです。
●「フルメタル・パニック! どうにもならない五里霧中?」賀東招ニ[富士見ファンタジア文庫]520円(01/10/23) →【bk1】
「フルメタル・パニック!」の最新刊は番外編の方です。
人型兵器+超テクノロジー+学園ラブコメ。テンションが高く、かなりおもしろいシリーズです。
今回のお話はどれも結構おもしろかったです。書き下ろしのテッサ中心のダナン日常話は特によかった。口絵のテッサが色っぽくていいねぇ。
本当ならこれはアニメ化記念で大々的にフェアやる予定だったんだろうけど… 延期だもんなあ。まあ宗介は元アフガンゲリラだしな… 早く、フルメタのアニメの放映ができるくらい世情が落ちつけばいいんですが。
●「機甲都市 伯林5 パンツァーポリス1943Erste-Ende」川上稔[電撃文庫]690円(01/10/19) →【bk1】
都市シリーズの最新作、「機甲都市 伯林」編がいよいよ完結。
予言にうたわれた世界の破滅まであと少し。各々の信念にしたがって戦う…クライマックスにふさわしい盛り上がりに余韻のある完結となかなかよかったんじゃないでしょうか。
ただ…この話、設定濃すぎるわ、キャラが多いわで、実は6割は何がなんだかわかってません…ああ、でも戦闘シーンがカッコいいよぅ。
この人は字面とか音の並べ方とかいいなあ、と思います。こういうカッコよさは文章じゃなきゃできないもんなあ。
111ページのベルカーさんのセリフがいいのう。そのあとの一連の展開はなかなかにこっぱずかしかったですが、でもまあ。…いろんな意味で成長したよねぇ、ヘイゼルも。
ラストシーンがとても素敵ですが、こういうのは電撃だからできることかもなあ、と。
●「ほしからきたもの。1」笹本祐一[ハルキ文庫]620円(01/10/16) →【bk1】
「星のパイロット」シリーズの笹本祐一の新シリーズ開幕。
舞台は1960年代。この時代、地球は異星人からの侵略の危機にさらされていた。対抗すべく密かに「国連宇宙軍」が設立され、全力でUFOの迎撃を行なっていた。ある日、その基地に旧式の戦闘機に乗ってひとりの少女がやってくる。その12歳の少女・ベルはエースパイロットになるためにきたというが…
うーむ。この人ってエンターティメントとしてはバランスチューニングがあまりうまくないんですよね。設定や描写は濃いんだけども…シリーズ一作目であれば、もっとストーリーをガッと進めた方がよかったんじゃないかと。話が1冊で全然進んでませんから。「星のパイロット」しても一作目はそうだったんだよねぇ。
キャラも萌え要素を狙った配置かな?と思いますが、効果はイマイチ。戦闘機描写が好き好きな人には面白い話かもしれないけれども、そうじゃない人にはちょっと辛いかも。レーベルからすると前者の読者層だけを狙っていくというのは辛いだろうし、もうすこしそのあたりの描写を押さえて一般的ウケを狙う方向でいった方がよかったんじゃないかとは個人的に思いますが、作者や編集者の判断が違っただけでしょう。
●「グイン・サーガ81 魔界の刻印」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(01/10/14) →【bk1】
「グイン・サーガ」シリーズ最新刊。まずはネタバレあらすじ→イシュトの行軍を阻んだ軍隊はゾンビーではなく人間であった。彼らはパロ奥深くに誘い込むように撤退していくが、罠と分かってイシュトは追いかける。そのとき竜頭の怪物達が現れた。その頃グインは先鋭の少数部隊で密かにパロ入り。イシュト軍とニアミスしそうになるがグインはそれを見事に避ける。(グインはイシュトを認識していたがイシュトはグイン軍だと分かっていなかった) ヴァレリウスはナリスにグインとの会見のことを報告。いつものパターン。
グインはレムスとシュクの町の郊外で会談。味方に引き入れようとするレムスに対して、グインは「ヤンダル・ゾックたちキタイ勢力の中原よりの撤退」を付きつける。やがてヤンダル・ゾツク本人がレムスに憑依。レムスは完全に乗っ取られたわけではなく、ナリスを殺そうとしてるのはむしろレムスで、竜王はそれを押さえてるらしい。ヤンダル・ゾックは別の世界からきた種族で、グインとスカールが握るノスフェラスの星船の秘密を手に入れて星船を蘇らせることが目的。またナリスが鍵を握るパロの古代機械を手に入れてシーアンを時空を超えて動ける都にすることも目的。ヤンダル・ゾックはグインを《調停者》より送り込まれた監視員だとみなしている。自分が退いたらレムスはナリスを殺すだろうと脅す竜王に、グインはケイロニアだけが大事であって、パロもナリスもどうなってもかまわないということを告げる。なんの合意もないまま竜王は去ってしまったが、そのあとレムスは力がほしくて今の状態になったことをグインに言う。グインはリンダに会うために、また自分の目で様々なことを確かめるためにクリスタルパレスを訪れたいとレムスに告げた。←
それにしても、なぜ悪人の皆様は自分の悪事をこうもぺらぺらと喋るのでしょうか? 会話で進めた方が楽かもしれないけれども、あまりにも薄っぺらすぎます。
表紙のレムスのイラストなんかは悪くないなあ、とは思いますが…大変だなあ、末弥さんも。
●「死にぞこないの青」乙一[幻冬舎文庫]457円(01/10/11) →【bk1】
最近刊行ペースが早くて嬉しい乙一の新作は文庫本書き下ろしの小学校を舞台にしたホラー長編。
小学5年のマサオは内気で人見知りするが、友達ともいてそれなりに楽しい日々を送っていた。しかし、些細なことがきっかけで担任の新任教師の羽田先生に誤解されてしまい、それからなにかと羽田先生に眼の敵にされるようになる。そしてクラスメイトたちの間でもマサオをスケープゴートにするような雰囲気になり、マサオは完全に孤立してしまう。そんな彼の前に現れたのは、全身傷だらけの青い顔をした不気味な男の子だった。彼はマサオにしか見えない存在であったが…
さすが乙一だけあって、語り口がうまい。じわじわっと心を殺していく悪意の描写とか。
唯一ひっかかったのが、子供文化の描写くらい。ファミコンは今の子供は知らないだろうし。でも乙一だから許す。
●「ラスト・ビジョン」海羽越史郎[電撃文庫]670円(01/10/10) →【bk1】
「天剣王器」の作者の二作目。
高校三年生の素直は夏休みに友達二人と孤島にでかけた。クラスメイトのミステリアスな少女・深奈からの招待で。辿りついた島は、大企業の研究施設だけがある閉ざされた世界。その研究所内で殺人事件が起こり…
初期設定を一読すると森博嗣ぽい作品のようですが、これはミステリではなくSF。ねたばれしちゃうと、タイムパラドックスものなんですが、あう、これはいただけない。前作の「天剣王器」と同じく、読者に対して説明不足なんですが、今回の方が話の飛躍する段差が大き過ぎるだけになんだかなあ… 例えば「ブギーポップ」シリーズも説明不足な部分が大きいですが、あれはわざとだろうし、どちらかといえば「建物の中に開かずの扉や、中ががらんどうな部屋がある」という感じの読者の想像を刺激するための「隙間」なんですよ。それがこの話では、「肝心な柱や壁がなく、通路がちゃんと繋がってない」状態であって。だから、素体になぜ突然意識が転移したのか、突然タイムスリップするのか、高井産業内部システムが意味不明とかエンターティメントしてはこのあたりは書いておくべきことなんじゃないかと思うのですが。そういう、「どれを出してどれをみせない」のバランス感覚がもうひとつの人かも。
そういうあたりをもっと編集さんがしっかりコントロールしてくれないと。この作者自体は筋がいいと思うので、うまく育ててほしいものです。
それにしても、表紙と口絵のデザインのすばらしさ。ブルーに白抜きの文字が、口絵では色が逆に。ヤスダスズヒト氏のイラストがいいというのもありますが、それ以上に鎌部さんのデザインが冴えてるんですよねぇ…本屋でうろうろしている人の目を止まらせ、本を手に取らせるという「デザインと表紙イラストの役割」を見事にこなしてますなあ。
●「イリヤの空 UFOの夏」秋山瑞人[電撃文庫]550円(01/10/07) →【bk1】
「E.G.コンバット」シリーズや「猫の地球儀」で最近は人気上昇中の秋山瑞人の新作は、「電撃hp」で連載されていた作品のまとめ+短編書き下ろし。
園原中学2年で新聞部員の浅場直之は、「UFOがでる」という噂の園田基地近くでのキャンプで夏休みが終わってしまった。夏休み最後の日、せめてもの思い出に夜の学校に忍び込んでプールで泳ごうとしたが、なんとそこには「イリヤ」と名乗る不思議な少女がいて…
戦争の危機がすぐ側にありながらも戦争はまだ勃発していない、すこしズレた「現代日本」を舞台に、普通の少年と綾波な少女のボーイ・ミーツ・ガールものです。
秋山瑞人だよなあ…しみじみ。話がほとんど進んでません。このペースだと完結までどれくらいかかるんだろう…と思いますが秋山瑞人は後半の展開は恐ろしい加速度がついたりするから、どうなるかわかんないか。
妙に濃い背景設定や、独特の文章のリズムとか、秋山瑞人ファンにはそれだけでたまらん要素が満載ではあります。田舎の基地の町の空気の描き方とか、妹の難しいところの心理の描き方あたりがうまいですなあ。個人的にお気に入りのキャラは榎本さん。怖い兄ちゃんかと思いましたが、結構茶目っ気のある人で。秋山瑞人の今までの作品の中では一番読みやすいかと思うので、興味があってもなんとなく手を出せなかった人はこれを機会にどうぞ。
「イリヤの空 UFOの夏2」は来月でるそうですが、たしか雑誌掲載分ではまだ完結してなかったはず。正直いうと、これより「EG コンバットFINAL」の方を先に書いてくれないかなあ…と思わなくもないですが、大好きな作家さんなので、この本も売れてくれるといいなあ。
●「晴れやかな午後の光 足のない獅子」駒崎優[講談社ホワイトハート]530円(01/10/05) →【bk1】
「足のない獅子」シリーズの最新刊は番外編の短編集です。ギルフォードパパの結婚に纏わるエピソード、ジョナサンの少年時代、リチャード&ギルフォード&トビーの子供時代のお話、そしてガイがスリを志すようになった理由の4つのお話です。
どれもほのぼのとした他愛もない話なんだけど、なかなかよかったです。特にジョナサン。…ジョナサンって子供の頃からジョナサンだなあ。「いけしゃあしゃあ」という言葉がまさにぴったり。そんなジョナサンでも一番上のお兄さんには懐いてるのね。結構かわいい。
このシリーズは、中世イギリスの片田舎を舞台にした見習い騎士たちの日々のささやかな冒険談。スペクタルとは無縁な話なんですが、すごくお気に入りなんです。一話完結ですが最初から読んだ方がおもしろいです。3冊目あたりからがすごくおもしろいです。
●「第61魔法分隊」伊都工平[電撃文庫]570円(01/10/03) →【bk1】
魔法が発達して科学代わりになってる世界での、田舎地方警察モノ。
王都から左遷されて田舎の分隊にやってた調子のよいタラシ男のロギューネ。そこで一風変わった第61分隊の人たちとのどかにやっていたが、あるときから不穏な事件が起こりだして…
ほのぼの話かと思いましたが、結構後半はハデな展開に。こういう感じの設定は電撃ではよくあるパターンですが、新人さんの作品としては悪くはないデキですね。もう少し個性が強い方が好みだけど。キャラも悪くないし。でも正ヒロインにもうひとつ魅力が足りないかなあ。サブヒロインの方がいい感じだし。
イラストが少女マンガだなあ。ここ1年位、電撃も少女マンガティストの挿絵が増えてきましたが、女性読者のとり込みを意図してるんでしょうか。この作品自体は男女どちらでも楽しめるかと思います。
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