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オルゴール修理人への道 (最終更新:2006年1月)

趣味にしろ、プロ志望にしろ、オルゴール修理人になりたい方のために、道しるべを書いてみました。

(なおここでは、1910年以前に作られた、いわゆるアンティークオルゴールを対象として考えています。)

私の場合:

私自身、ディスクオルゴールに出会った初期の頃は、そのメカと音色にただただ感銘し、その構造はどうなっているのか、こんなすばらしい音はどこから出るのか、などと素朴な疑問を持ち始めたものでした。自分でも所有してみたいものだ、でもどこで手にいれるのだろうか? 値段は高いんだろうな? ひょっとして自分で作れないものだろうか? 等々。

幸い、子供の頃から模型を作ったり、日曜大工をしたり、手先の器用さには多少自信があったのと、工業技術関係の道を進んだために、その分野の知識をかなり幅広く持てたこと、他方、音楽にも興味があったために調律などに必要な基礎的な情報を持ち合わせていたこと、等々。これまでの半生で経験してきたことが、すべてオルゴールの修理人としての必要要件に反映されていると思われます。

日本国内では: 私と同じような道をたどって現在オルゴールの修理人として活動していらっしゃる方は、先輩格の方が数人いらっしゃるようですし、かなりの数の若手もがんばっているようです。しかし、欧米ほどオープンではなく、それぞれの方がカバーする地理的、人間関係的な範囲は限られている様です。アンティークオルゴールの世界自体が、まだ新しく、完全に組織化されていない状態です。今後はMBSI日本支部などを母体として国内のアンティークオルゴールの世界もより認識されて行くでしょう。

欧米では:

さすが欧米には、かつてオルゴールメーカーも存在していただけに、歴史も深く、多くの修理人が活動を続けています。特にドイツやスイスは、そのメッカで、当時のオルゴール職人の技術そのものが伝統的に残っているようです。
オランダもオルゴールやオルガン関係の技術の豊富な国で、修理人やディーラーも多くいるようです。

イギリスは、かつて、また今でもアンティークのメッカといわれた国で、特に修理、修復に対する技術は大変高いものがあります。金工、木工などそれぞれの専門家が数多くいて、そのレベルも博物館の所蔵品を修復するような、ハイレベルの修理人から、おもちゃを修理する程度の人まで幅広く存在しています。

アメリカは、かつてレジーナ社が存在していただけに、オルゴールに対する技術は最高レベルですが、オルゴールの修理人としては、アマチュア的に活動している人がより多いような気がします。多くの方が本職としては何か他に仕事を持ちながら、週末を中心にコレクターや修理人として活動する人が多くいます。

日本も、オルゴール関係だけで生計をたてるのはまだまだ困難な状態ですので、アメリカ的な修理人が増えて行くと良いと思っています。

必要な技術:

オルゴールの修理人として必要な技術を、分類して挙げてみました。

1.金工技術:

オルゴールの主要部分(ムーブメント)は金属部品の構成で出来上がっていますので、金属機械部品の分解、洗浄手入れ、手仕上げ、機械加工、部品製作、組み立て、調整、心だし(アライメント)などの工程が入ってきます。おそらく、この分野が最も主要なものでしょう。

手工具を使っての分解、汚れの洗浄、ヤスリやリーマなどを使っての仕上げ作業(変形した部分をオリジナルの形状に整形する)、ネジ頭やネジ山の手入れ、などのほか、ドリルや、旋盤、ミリングなどの工作機械を使っての加工作業、大きくなり過ぎた軸受け孔のブッシュ入れ替え、等々、範囲は幅広く、また程度は簡単なものから高度なものまで奥深く広がります。

2.金属部品製作:

たとえネジ一本でも、当時の規格と現在の規格は合わないものがほとんどですので、製作しなくてはならないことが多分に発生します。その他主要な部品も、破損したり過度に摩耗してしまうと、製作、取り替えが必要になります。こうなると、ちょっとした町工場的工作機械と操作技術が必要になりますが、もし近くに依頼できるところがあれば、必ずしもなにもかも自分でこなす必要はありません。ただ少数の発注の場合、割高に感じることが多く、時間もかかってしまうので、作業の流れが中断してしまうことになります。もし本格的に修理人としての道を志す場合は、卓上旋盤、卓上ミリングマシンは是非そろえたいものです。この2種類の機械が有ると無いとでは、プロになれるか、アマで終わるか程度の差が出てしまいます。

この他、金属素材の知識、熱処理の知識、各種工業規格、ミリとインチの関係など、幅広い知識が必要になります。

3.設計思想の理解:

部品の分解、手入れが終わって、いざ組み立てようとすると、いろいろな部分のクリアランスの取り方や、アライメントのとりかたで悩むことが多々有ります。単に機械の分解、組み立て作業ができるだけではなく、その部品の仕組み、機能、設計思想、全体的な位置調整(アライメント)のための総合的な知識が必要になってきます。ある部品の取り付け位置がずれることによってどんな影響が出るか、理解する必要があります。

4.木工技術:

ムーブメントを納める、と同時に櫛歯の振動を、耳に聞こえるような音に拡大する機能を持っているのが木ケースです。この部分を修理するには、基本的な木工技術が必要です。
鋸やかんななど、主な手工具を使いこなせるのはもちろんのこと、刃を研いだり、調整したり、さらには目的に応じて道具の方を加工することも必要です。電動工具としては、電動ドリル、電動かんな、サンダー、糸鋸盤等の他、ルーターや木工旋盤を使うことも必要になってきます。 ルーターの刃(ビット)などは既成のもので間に合う場合は非常に少なく、作るものの形状に合わせたビット作りから始めることもたびたび有ります。

使用する木材の種類を知っておくこともとても重要です。オリジナルのケースにどんな素材が使われ、どのように加工されたか、またこれと同じ素材を現在どこで入手できるか、これらを知ることはとても重要です。

5.接着剤:

木工技術の一部になるかも知れませんが、接着のために、どのような接着剤を使うと良いか。基本的な知識と経験が必要です。接着剤にあまり期待し過ぎてもいけませんが、程良い接着は、絶対に必要な技術です。

特にヨーロッパ製オルゴールのケースはベニア(薄い単板のことで、日本でいう「ベニア板」はこのベニアを重ね合わせたプライウッドと呼ぶのが正解)を貼って化粧したものがほとんどで、これらの補修や、場合によっては部分的に作り替えるときにはこの接着が非常に重要になります。


6.塗装技術:

構造的に完成したケースは着色され、ニス仕上げされているのがほとんどです。この塗装技術も、かなり重要な比重を占めるでしょう。せっかく強度的に完成したものでも、仕上げ塗がまずいと、外観が台なしになってしまいます。

オリジナルの着色、塗装にこだわり、当時のものと同じ仕上がりを求めなくてはなりません。使用するニスも当時使われたのと同じ素材のシェラックを自分で調合して作るのがほとんどです。

7.音楽的知識:

最後に、オルゴールが美しい音色を出して、すばらしい曲を奏でるようにするには、櫛歯の調律、高低音部分のタイミング、回転テンポなどを完全に調整しなくてはいけません。そのためには基礎的な音楽知識と、音を聞き分ける耳が必要になってきます。ピアノの調律士と同じようなことをするのですが、ある意味ではそれ以上の技術が必要な部分も有ります。すなわち、ピアノの調律はネジの締め緩めである程度やり直しが利くのですが、オルゴールの櫛歯は、どちら側に調整するにしても刃を削りこんで行きますので、どんどん研磨消耗して行くばかりで、後戻りができない苦しさが伴ないます。

また、折れた櫛歯を差し歯修理してもとの音に調律するときなど、この櫛歯をどの音にすれば良いのか、資料がある機種は良いのですが、古いシリンダーオルゴールなどは自分で探り出さなければなりません。シリンダーのピンの配置や、和音の解読などを通して、もとの音を探り出すわけです。この時も和音の種類やコード進行など、音楽的知識が必要になってきます。

以上、ざっと分類してみましたが、一人の人間が、(私自身も含めて)これら全ての専門家であることはまず不可能と思われますが。多くの修理人が、それぞれ得意な守備範囲を売り物にして、協力し合える体制ができれば、日本のオルゴール事情もずっと良くなると思います。

8.語学力:

これは付帯的なことで、自分のことを考えると決して偉そうなことは言えないのですが、現在出版されているオルゴールの修理修復技術に関する書籍の殆どは、欧米で出版されたもので、したがって英語やドイツ語で書かれているものがほとんどです。又、オルゴール本体や部品、素材品を調達するのも、欧米が主になってしまいます。そのため、最低限必要な語学力(英語だけで十分)が備わっていれば、人に頼らずに、自分でどんどん世界を広げることができます。

9.インターネット:

本稿をいま読んでいらっしゃるあなたには改めて伝える必要はないのですが、アンティークオルゴール関係のビジネスも、インターネットが主流になって来ました。つい数年前までは先方とのやり取りはせいぜいFAXを使っていましたが、今後は商品の広告、修理などの相談、オークション、商品購入、支払いのやり取り、さらには同好者とのコンタクトなども、インターネットを使うのが主流になりました。いままでは修理をしてくれるところが見つからなくて苦労していた方も多かったと思いますが、今では世界レベルで修理人を探しだすこともできます。

これからの修理人にとっては、インターネット、PCを使いこなせることも、必要条件として追加する必要が有るでしょう。

10.参考資料:

アンティークオルゴールを説明した図書は国内でも数冊は有りますが、修理の部分を解説したものは、欧米の図書に頼るしか有りません。私がMBSI日本支部のニュースレターに投稿した記事、5年分をまとめた「オルゴール修理人の雑学コーナー」特別号が国内では唯一のものかと思われます。今後は、これをさらに充実させて、一つの書籍に発展させたいと考えています。

11.あとがき:

私自身、自分の拾得した技術と知識は惜しまず、後続のオルゴール修理人志願者のために開放したいと思い、MBSI日本支部のニュースレターに、「オルゴール修理人の雑学コーナー」として寄稿を続けたり、本ホームページを通して努力しています。国内の他の先輩諸氏とも協力して、日本のオルゴール技術の高揚に多少なりとも貢献できれば幸いです。この件に関しましては、どなたからのメールも歓迎いたします。
(ハイランドアンティーク 大森)