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●「かめくん」北野勇作[徳間デュアル文庫]648円(01/01/31)

かめくんは、カメ型のヒューマノイドだ。「木星戦争」のために作られらしいが、かめくんにはそのあたりの記憶がないのでよくわからない。かめくんは大阪の下町に暮らしている。仕事をしたり、図書館で本を借りて読んだり、猫と遊んだり。そんな日々がいつまでも続くかに思われたが…
小松左京賞の最終選考に残った作品なんだそうです。
シュールでシニカルでほのぼのした作品。独特の雰囲気がいい味を出している。バカ設定作品のように見えて、細部は結構作りこんでそう。ぽけぽけしたエピソードがそのまま認識論に発展するあたりが侮れない。ラストは少し切ない。
基本的にはかめくんの日常を描いたお話なので、小説に物語性を求める人には向いてなさそう。アンドロイドものが好きな人にはツボにくる展開があります。個人的にはかなり楽しめました。
小林幸子ネタには大ウケ。でもドラえもんとかピカチュウとかネタにしてもいいんですかねぇ?


●「マグダミリア 三つの星 I暁の王の章」高殿円[角川ティーンズルビー文庫]476円(01/01/30)
●「マグダミリア 三つの星 II宰相の杖の章」高殿円[角川ティーンズルビー文庫]476円(01/01/30)

「活字倶楽部」に載ってた紹介文を読んで購入。架空歴史活劇。2冊で話にはケリがついてます。
パルメニア国の若き王アルフォンスは、両親を昔に失い、兄弟もなく王家に連なる血を有する唯一最後の少年だった。しかしアルフォンスは男でもなく女でもないヘスペリアンに生れてしまった。跡継ぎを作るという王の義務を果たせないコンプレックスゆえにアルフォンスは自分が王であることを厭い、侍従長であるマウリシオの目を盗んでは街に遊びに出かけていた。そこでアルフォンスは自分そっくりの少年キースに出会い、彼を身代わりにしたてあげる。しかし、ある時キースが裏切りアルフェンスを密かに処分し、アルフォンスに成りすまして玉座を手中におさめる。自分の方が、この国をよくすることができると信じて。……一方、アルフォンスは九死に一生を得て、街で暮らし始めた。様々な人々に出会ってゆくうちに、革命軍に身を投じるようになるが…
角川ティーンズルビーということで敬遠しててごめんなさい。雰囲気的にはホワイトハートぽいかも。なんでティーンズルビーで出したんだろ…と思ったんですが、そっか、角川は少女向けラインナップがルビー系しかないもんなあ。
二人の少年の成長物語。脇役も含めたキャラクターが魅力的で、話がダイナミックな佳作。思わぬ拾いモノでした。
ただ、世界構築の甘さが惜しい。描かれる風俗と学問の発達度合と思想と小道具に整合性がないために、居心地の悪さを感じてしまう。注射器があったり、鉛筆が貧しい庶民にまで普及する頃であれば、銃は普及している世界なんじゃないかと思いますが…学問レベルからすると蒸気機関があってもおかしくないはず。それからすると近世風の世界のはずなんですが、実際には伝説と剣が生きている中世ぽい世界となってるんです。そのために「架空歴史物もどき」になってしまってる。本当に惜しい。
ただこの方はまだ新人さんなので、書いていくうちに力がついてそのあたりはカバーできるんじゃないかと期待してます。今後も要チェックですな。作者のサイトをみると、この続編もでるみたいですね。それは楽しみ。
侍従長×少年王なのでそういう主従ラブな話(でもボーイズラブとはちょっと違うかも)が好きな方はどうぞ。


●「H.O.P.E.II」一条理希[集英社スーパーダッシュ文庫]515円(01/01/26)

「H.O.P.E.」の続編。近未来を舞台にした、15歳の天才外科医の物語。
「H.O.P.E.」は医学の英才教育を行なう施設で、勇斗は15才という年齢でそこを優秀な成績で卒業した外科医だった。テクニックはすばらしいが、患者を手術のための道具にしかみえない彼は赴任した病院で冷遇を受けていた。しかし少しずつ周りからの信頼を勝ち取り成長していった勇斗の前に現れたのは、手足が急激に腐っていく病気の少女だった…
前作のラストの伏線が明かに。前作よりも「スーパーお医者さんモノ」になりつつあります。もうすこしリアルよりだった方が好みだったんですが。
ただ、こういう病気は外科医が治せるとは思えないんですけれども。免疫とかそういうのを研究してる科学者の仕事って感じがするけど、実際の医療の現場ではそんなにきちんと住みわけしているわけではないんでしょうか。(実際には外科なら外科だけで勉強しなきゃいけないことが山のようにあるはずですから、他の分野までは手が出せないだけ?) この世界ではジャンルを越えた「スーパー医師」がいてもいいけど、それならきちんと納得のいくような説明をしてほしいものです。
前回生意気に思えたヒロインが今回は健気だったのはよかった。


●「メルサスの少年 「螺旋の街」の物語」菅浩江[徳間デュアル文庫]648円(01/01/26)

1991年に出版され、星雲賞を受賞した作品の新装版。
荒野の中、パラサンサ鉱山の近くに存在している螺旋構造の街、メルルキサス。そこは異形の遊女<メルサスの女たち>が商売をする「歓楽の街」だった。異形ゆえに身ごもることができないはずの遊女から生まれた少年イェノムはメルサスの女たちに育てられて、15 才となった。街の中が世界のすべてだった彼の元に、未来をみる力を持つ少女・カレンシアがやってきてから、それまでの平和な生活は崩れてゆくのだった…
美しい鉱物のような作品。神が作り上げた、危ういバランスで煌いているほのかな光。
ボーイ・ミーツ・ガールの少年の成長物語。ファンタジーぽく見えるけれどもSFです。とにかく、イメージが美しい。螺旋の街や地下の昼の世界、砂時計のような構造。それが単なるイメージマップだけに終わらず、世界構築や物語を強く支えているのがグッド。少年があまりにまっすぐ過ぎてすこし物足りないものはあるけれども、物語のバランスからしてそうなるのは仕方ないし。ジョイノーサやヤパンといった脇を固める人生の苦味も知っている大人達がいい感じ。
10年前にこういう作品が書かれてたんですね。私が気がつかないだけで、素敵なのに埋もれてしまっている作品なんて山のようにあるんだろうなあ。10年前はミステリしか読んでなかったので知らなかったんです。本が生鮮食品なみのライフサイクルとなってる今、こうやって昔のいい作品を掘り出してくる、デュアル文庫やハルキ文庫のような企画には頑張ってもらいたいものです。


●「ダーティペア 独裁者の遺産」高千穂遙[ハヤカワ文庫]520円(01/01/25)

懐かしのダーティペアシリーズ、番外編です。ケイとユリの二人が駆けだしだった頃の話で、ムギとの出会いのエピソード。
このシリーズや「クラッシャージョウ」シリーズは中学生くらいのときにハマったものです。
今回の話は、イマイチパワー不足を感じました。話の展開が容易に予想付くし。今のライトノベルの中では中くらいのレベルかも。でも、懐かしい気分に浸れたのでいいか。
イラストはオリジナルシリーズと同じく安彦良和さんなんですが…安彦さんってこんなのっぺりした絵だっけ? 表紙のデザインセンスといい、20年前のティストそのまんま。ハヤカワってもうすこしそのあたりをなんとかしてくれないかなあ…


●「野望円舞曲2」田中芳樹/荻野目悠樹[徳間デュアル文庫]676円(01/01/24)

田中芳樹原案/荻野目悠樹作の「野望円舞曲1」2冊目。
スペースオペラというか、プチ銀英伝。
銀河のオリオン腕とペルセウス腕を唯一結ぶ宙域を独占している商業国家オルヴィエートは長いこと平和を享楽していたが、ボスポラス帝国から魔の手が伸びてきた。その頃、国家元首の娘・エレオノーラは家のために愛のない結婚を強いられていた。そして結婚当日、ひとつの事件が起こり、それが…
主人公はまんま女ラインハルトでその従者は女キルヒアイスなんですが、野望のためとはいえ、今回のあの展開って許されるんですかねぇ? 個人的にはひいちゃうなあ……というか、この主人公の野望って具体的には語られてないせいか、もうひとつ掴みどころのなさを感じてしまいます。
とかいいながらも腹黒な人達の陰謀合戦とかわりとおもしろかった。
今回の表紙イラストをみてしみじみ思いましたけど…ジェラルドってなんか瀬戸口(ガンパレ)だわ。女好きでちゃらちゃらしかいいかげんな奴にしかみえないけど、瀬戸際では見事な手腕で切りぬける能力も度胸もあって。生真面目な副官とのコンビもいい感じです。
読んでて荻野目作品とはあまり思えなかったです。やはり田中ぽいですな。荻野目さんが田中芳樹に傾倒してるからこそそんな雰囲気になったんでしょうが。個人的には初期の荻野目ぽいようなもっと主人公が追い詰められるぎりぎりの話が読みたい。今のはまだまだヌルいって。


●「魔術士オーフェンはぐれ旅 我が戦場に踊れ来訪者」秋田禎信[富士見ファンタジア文庫]460円(01/01/23)

「魔術士オーフェンはぐれ旅」シリーズ最新刊。10ヶ月ぶりに本編の続きがでましたね。間があき過ぎたせいで細かい設定やらストーリーの流れ、すっかり忘れちゃってます…「今までのあらすじ」ページつけてくれないかなあ。
今回はわりと軽いノリに仕上がってます。そのかわり本編は進んでいるんだか進んでないんだか。ティッシだとかフォルテのような懐かしいキャラの再登場&活躍が嬉しい。
このシリーズで一番のお気に入りはキリランシェロ(オーフェンにあらず)で、次がマジクなんですけどもここしばらくの彼って情けない役回りしかないですな…マジクがオーフェンよりも高い潜在能力を持っていて、ドラゴン種族の血が濃くでているという設定が今後生かされることがあるんでしょうか…
次の番外編のプレオーフェンにはなんとコルゴン登場ってことで今から楽しみ。


●「NOVEL21 少年の時間」[徳間デュアル文庫]648円(01/01/23)

アンソロジー集。サブタイトルには「ハイブリッド・エタテインメイト・アンソロジー」となっています。
執筆者と作品は
 上遠野浩平「鉄仮面をめぐる論議」
 菅浩江「夜を駆けるドギー」
 平山夢明「テロルの創生」
 杉本蓮「蓼喰う虫」
 西澤保彦「ぼくが彼女にしたこと」
 山田正紀「ゼリービーンズの日々」
そして巻末は山田正紀氏と西澤保彦氏と大森望さんの座談会。
感想は、一言でいうと「…まあアンソロジーだからなあ」ですね。アタリがひとつかふたつあればそれで十分なのかもしれません。
私は上遠野浩平の話が読めたからそれでいいです。今回のお話は、虚空牙関連で、「冥王と獣のダンス」「ぼくらは虚空に夜を視る」をつなぐ、寓話めいた話になってます。モチーフはミダス王の伝説で。味わいとしては「ペパーミントの魔術師」の読後感に似てるかも。すこしやるせない。
菅浩江さんの話は、2ちゃんねるを思わせるようなネット空間を舞台に、アイボのような愛玩ロボットを絡めた話。まさしく「今」の話ですね。こういうネタは鮮度は1年程度でしょう。1年ズレたらもう味わいが変わってるかもしれません。
あとは……新人さん(?)二人の話は正直いうとピンとこなかった。西澤さんの話は、ついミステリとして読んでしまった。山田さんの話は…私には違う、って感じがしました。大塚英志ぽい閉塞感のある世界を舞台に子供達が大人相手に戦う話なんですが、「今」を映そうとしてるけど感性が昔のジュブナイルぽく思えて。同じ高さの視線ではなく、「大人が描いた子供達」に見えちゃうんです。小道具はそれ系のをそろえてあるんですが、ズレてませんか、なんか。うーむ。…悪い作品ではないんですが。
個々の作品としては、どれも際立ったデキのものはないですし、アンソロジートータルとして編みあがった世界も特筆するほどのものではないので、お気に入りの作家さんが収録されてないのなら読むほどのものではないかと。


●「リセット」北村薫[新潮社]1800円(01/01/21)

「スキップ」、「ターン」に続く、〔時と人〕三部作の最後を飾る作品。
「スキップ」は17歳の少女がある日、目を覚ますと42歳になってた話。「ターン」は気がつくと誰もいない町で同じ1日を永遠に繰り返す世界に放り込まれた女性の話。そしてリセットは……タイトルを聞いたときに、どんな話になるかワクワクしながら想像してたんですが……単なる生まれ変わりネタだったとは。拍子抜けでした。
うーん、でもさすが北村薫だけあって、戦争中の少しずつ日常が壊れてゆく様の描写とか、戦後のまだほのぼのとしたところが残る町の描写とか、うまいですよねぇ。そのあたりのエピソードの見せ方は見事。
純愛度は今回が三作中一番。最後とか泣けるったら。細部とか感情の描き方はいいんですが、やっぱり今回のは大ネタがあんまりにもひねりがなさすぎて。
…うーん、うーん。悪くはないんだけども、北村薫の熱心なファン以外は文庫本を待ってもいいかもしれない。
たしか去年、「スキップ」が文庫本化してるので、未読の方はそちらから読んだ方がいいでしょう。話は続いてないけど。
第1部の学徒従軍のあたりはガンパレを思い出してしんみりしてしまいました。…ふと思ったけど、色々な方が書いているガンパレリプレイ日記の方が「リセット」というタイトルにふさわしいかもなあ。


●「憑融」青木和[徳間デュアル文庫]705円(01/01/19)

第一回日本SF新人賞・佳作入選作「イミューン ぼくたちの敵」の作者の新作。「イミューン」は個人的には可もなく不可もなくという感じだったのでこの作品も最初は買う気はなかったんですが…あらすじを読むと「兄弟モノ」だったのでつい購入。買ってよかった。兄(病弱)と弟(やんちゃ)の物悲しい絆を感じさせてくれる話です。あ、でもホモくさくはないですよ。
嶺の弟・灘がある日、行方不明となってしまった。幸い弟は無事に帰ってきたが、その日を境に彼の言動がおかしくなってきて…
すこしネタバレ。→死にそこねた弟に化け物がとりついてしまう。兄は化け物の気配を感じながらも、それが「弟」にしか思えなくて、化け物を退治するべきなのか、退治できるのか、悩み苦しむお話。← 前作の「イミューン」よりも達者になってました。ただまだ内容と分量のバランスがとれてないかなあ。話をもっと圧縮して、密度を高めた方がいいかも。前半部分がすこしタルい。終盤の兄が「選択」に悩むあたりはぐいぐい読ませます。町の描写がもうすこし逸脱した空気を持ってたらなおよかったんだけどな。青春モノとしては悪くないです。センスは悪くないと思うので、次に期待。
血の繋がった兄弟ゆえの愛憎が好きな人は買い。


●「キノの旅III the Beautiful World」時雨沢恵一[電撃文庫]490円(01/01/19)

「キノの旅」シリーズももう三冊目ですか。子供のキノと話す二輪車エルメスとの不思議な旅を描いた物語。ファンタジーというにはちょっと違う、ビターなチョコレート。
話自体は前作よりもよかったです。慣れてきたのか、距離感というか話の色合いのつけ方のバランスがうまくなってきた。話を半分ひねったような感じが旨味を出している。「城壁のない国」のオチはなかなかよかったな。
イラスト&デザインは今回もすばらしい。カラーは色を押さえ気味にしてるけど、その微妙な色合いが見事。モノクロイラストがさらに美しい。個人的にはイラストとデザインだけでも買いです、このシリーズは。(ちなみにデザインはブギーポップシリーズでお馴染みの鎌部善彦氏です) 電撃ってイラストレイターをどこでみつけてくるんでしょうね。ブギーポップでと緒方剛志さんといい、これ以外に動かしようのないほどハマってて、デザイン的にスキがなくて。でもイラストレイターの黒星紅白氏のサイトをみる限りでは、際立った色彩センスという感じではないんだけどなあ…(絵はもちろんかわいいですが) イラストレーターさんから力を引き出すのがデザインの仕事なのかしらん。


●「DADDY FACE 冬海の人魚」伊達将範[電撃文庫]690円(01/01/18)

「DADDY FACE」シリーズ三冊目。バカ爆裂アクションコメディ。どんな設定かというと、二十歳の大学生に12歳の娘…超天才で、世界的な企業のオーナーで、怪しげな組織「ミュージアム」と闘う凄腕のトレジャーハンターがいまして。その娘が過激で、マシンガンをブッ放すのは序の口、キラー衛星を使って建物を崩壊させちゃったり。話自体も、オーパーツとか「ちょー」な方向に特化。今回は八百比丘尼伝説、人魚の肉です。
この三作目はわりとシリアスで泣かせの方向に。その分、話のいつものパワーは落ちてます。なんか美沙もやられっぱなしだしなあ。もうひとつ爽快感にかける。分厚いけども前半部分はタルいかも。もうすこし話を圧縮してほしいな。泣かせストーリーは悪くはないんだけども、シリアスをやると世界観のメッキがはがれてきちゃって、薄っぺらく見えるのが残念。バカな設定を勢いでふっとばすのがこのシリーズの魅力だと思うんですが。
美貴はどうもすかん。行動原理が気持ち悪くて。あと、「天才少女」がたかが中学の数学ごときにてこずるのには違和感を覚えるんですが。


●「御手洗潔のメロディ」島田荘司[講談社ノベルス]820円(01/01/17)

名探偵・御手洗潔モノの短編集。3年前にハードカバーででた作品の文庫本化です。収録作品は4つですが、ミステリーがふたつ、あとの二つはキャラクターエピソードもの。ミステリーの方はむちゃくちゃな状況を強引に事件にまとめあげる剛腕がいかにも島田荘司という感じで楽しめました。
御手洗モノは、12,3年前にはハマってました。この人の作品が新本格を読みだすきっかけで。それから色々と読んだなあ。好きなのは、長編では「斜め屋敷の犯罪」で短編では「数字錠」「ギリシャの犬」です。でもなんか御手洗さんがスーパーマン化していって、水晶のピラミッドあたりからついていけなくなってしまって。それでも御手洗モノの長編がでたら読んじゃうと思うけど。
好きだっただけに、今の島田さんのあり方には複雑なものを感じます。…せめて作者自ら同人誌に関わるのはなんとかしてくれ。


●「ラグナロクEX. COLD BLOOD〔失われた絆〕」安井健太郎[角川スニーカー文庫]571円(01/01/16)

「ラグナロク」シリーズ番外編ですが、今回は書き下ろし長編。レナとリロイの出会いの話です。話自体はよかったです。手負いのリロイの慟哭や、小国ゆえのやるせなさだとか、がんじがらめの友情、友と笑いあえた少年時代の眩しさ、そのあたり切なくて。ただ視点の頻繁な変更は読みづらい。あと、氷のような美貌の暗殺者・レナの視点からの物語りは、レナの神秘性が損なわれるようで少し残念でした。


●「平成お徒歩日記」宮部みゆき[新潮文庫]476円(01/01/13)

3年前にハードカバーででた作品の文庫本化。宮部さんが江戸時代のできごとに関連した場所を歩いてまわるというエッセイです。
宮部さんのエッセイは初めて読みましたが、語り口が優しくてほのぼのしていい感じですね。楽しさが伝わってくる。東京に住んでたら、この本を片手に散歩してみるのもいいかも。
宮部さんは幕末は苦手だそうですが、同様の企画の幕末編を誰かやってくれないかなあ。


●「黒い仏」殊能将之[講談社ノベルス]760円(01/01/12)

「ハサミ男」の作者の新刊なのでゲット。今回は「美濃牛」に出てくる探偵・石動戯作がまたでてくるということで期待して読んだんですが……うーん、今回はスカかも。前作でギリギリの線で成立していたものが、今回は向こうに行きすぎちゃってバランスを崩した感じ。
以下微妙にネタバレ→アンチミステリでサイキックもの。あとはすこしラヴクラフトであります。やりたかったことはわかるんですが、そのオカルト部分の書き込み方があまりに薄っぺらくてかきわりめいてたので、しおしお。名探偵の扱いの方向性は悪くはないけれども、うまく生かし切れてない感じ。日常部分のエピソードはおもしろいんですが、非日常はあまりうまくないのかな、この作者って。


●「タツモリ家の食卓3 対エイリアン部隊」古橋秀之[電撃文庫]550円(01/01/11)

「タツモリ家の食卓」シリーズ三作目。なんとなく三冊目で終わりかと思い込んでいたけどもまだ続くようです。のんびりした兄としっかりものの妹の二人暮らしの家に、宇宙人が押しかけ同居するというホームコメディですが、宇宙人はアニメ作品にありがちな美少女ではなく、鉄拳皇女・怪獣幼児・大佐猫という奇妙なキャラクターばかりが異様に濃い話を繰り広げるヘンな小説だったりします。…マニアックなので一般受けはしづらそうだけど私は好きだぞ。
今回は前作に比べると動きはハデ。それにしても事態を客観的にみると複数の勢力による複雑なパワーゲームが展開し、地球は一歩間違えれば滅亡しかねない未曾有の危機に立たされてるわけです。忠介がほけほけしてるせいもあって、バカ話な空気になってるんですよね。そういうバランス感覚は好みだなあ。グロウダインの人々が楽しいです。ジェダダスターツがカッコいいよ〜。


●「「神」に迫るサイエンス ―BRAIN VALLEY研究序説―」監修:瀬名秀明[角川文庫]619円(01/01/10)

小説「BRAIN VALLEY」の副読本。3年前にハードカバーでた本の文庫本化です。文庫本化にあたり一部加筆されています。
「BRAIN VALLEY」はサイエンスにかなり傾いた一級のエンターティメントですが、よくできたお話だけにどこまでが本当でどこからが上手な嘘なのか知りたい気分になります。そういう小説の背景になった科学の話を優しく解説してくれた本。脳科学、遺伝子、人工生命からUFO、臨死体験まで小説にでてきた幅広いジャンルを含んでいます。結構読みやすかった。…ただ私は理系出身なので、理系が苦手な方にはこれでも苦しいかもなあ。また小説のストーリーやテーマ、展開の一部ネタバレも含んでいるので必ず小説読了後に読むべし。


●「BRAIN VALLEY 下」瀬名秀明[角川文庫]619円(01/01/07)

さて、下巻。脳と心と神様を科学で切るかと思えば、オカルトめいた方向に動いたりする向こうとこっちのぎりぎりの境界を歩いている感じがわくわくする物語でした。そして物語の最後1/3のクライマックスで話が爆発。アレについていけなくなる人もでそうですが、個人的には結構おもしろかったです。満足。
「パラサイト・イブ」で途中からしおしおになった人も今回は大丈夫ではないかと。ただ今回は科学がテーマの中心となっているせいで、科学知識がない人にはかなり辛い話かもしれません。でも作中でかなり丁寧に説明しているし、できればトライしてもらいたいものです。


●「BRAIN VALLEY 上」瀬名秀明[角川文庫]619円(01/01/02)

「パラサイト・イヴ」で角川ホラー大賞をとって、一躍メジャーとなった瀬名さんの二作目。3年前にハードカバーででたときに評判が高くて、ずっと読みたかったんです。待望の文庫本化。
山奥にある最新脳科学総合研究所「ブレインテック」に赴任してきた孝岡は、地元の不思議な女性と接触したことで信じられないような超常現象を体験するようになるが…
まさしく「サイエンス・フィクション」。「脳」と「心」と「神様」をつなぐ壮大なスケールのお話。(3年前の)最先端科学の知識をリアルに考証してゆき、それをエンターティメントまで高める様は見事としか言いようがない。オカルトと科学の間を揺れ動きつつ、振幅を大きくしてゆく様にワクワクします。さて、着地点はどっちになるんだろう。
とにかく、途中から夢中で読みふけってしまいました。もう、おもしろい、おもしろいよ。ただ、ある程度科学知識があるか、分からなくても気にせずに読めるタイプじゃないと辛いかも。せめて「ニューロン」「シナプス」位は知ってないとキツいかなあ。
さて、次は下巻を読まなきゃ。


●「デュアル・ムーン ―月光少年―」友谷蒼[角川ティーンズルビー文庫]438円(01/01/01)

「若草一家でいこう!」がわりとよかったので、新作も読んでみました。
サイキック・ファンタジーで、設定はライトノベルズにありがちなものではありますが、つくりは悪くはないけれども。ただ展開は予測範囲に収まっていて、ジャンルの枠から飛び出すほどのものではなかったです。


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