03年09月に読んだ本。 ←03年08月分へ 03年10月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「昏迷の都エウルコ アグラファ6」三浦真奈美[中央公論社C★NOVELS]900円(03/09/28)→【bk1】【Amazon】
「アグラファ」シリーズ6冊目、魔法なしの架空歴史ものです。
父親の処刑が決まったというニュースを聞いて、慌ててエウルコに舞い戻ったミオ。助命を求めて奔走するミオだったが、アティスの権力を一手に握ったレグルス執政官を前になすすべがなかった。一方、アインたちはミオが首都に戻ったというニュースを聞き、テサリア攻略の計画を練るのだが…
今回の話は読んでてストレスが溜まりました。正面の敵よりも後方のアホの方が嫌なものだといわれたりしますが、あまりにも「後方の敵」がアホすぎて… いくらなんでもそこまでアホアホだと国が立ち行かないのでは…
ミオにとって一番の敵であろうレグルス執政官も、悪としてはあまりの小物ぷりでうっとおしいです。
あと一冊で終わりとのことですが、どういうオチに持っていくのでしょうか。「風のケアル」も「女王陛下の薔薇」も終わり方としてはきれいにまとまっていたので、このシリーズも残った謎もうまく片付けて、ミオにもアインにも納得のいくような終わり方をもたらしてくれると思いますが…
微妙にネタバレ→ミオはもう国に忠義を果たさなければいけない義理はなさそうですが、かといってしがらみで国を捨てることもできないだろうし… ミオとアインがそれぞれの国の旧悪を切り捨ててトップに立ち、アティスとリグリアの間で講和を結ぶ、というのが一番いい結末だとは思いますが、どうなるんでしょうか。←
●「小説 鋼の錬金術師2 囚われの錬金術師」井上真[スクウェア・エニックス]857円(03/09/26)→【bk1】【Amazon】
10月よりアニメがスタートする、「ガンガン」連載中のマンガ「鋼の錬金術師」(荒川弘)のノベライズ「小説 鋼の錬金術師 砂礫の大地」に続く二冊目。オリジナル番外編(長編)。
怪我人は一切出さない、鉄道をばかりを狙ったテロ事件。そのため交通は寸断され、犯人を捕まえられない軍への市民の感情は悪化していた。その頃、ロイはテロに関連すると思われる誘拐事件を調べていたが何も手がかりを得ることはできなかった。しかし、偶然その誘拐事件にエドワードとアルフォンス兄弟が巻き込まれてしまって…
サクサク読めて、おもしろかったです。原作好きな人にはオススメなノベライズではないかと。作者が原作を好きなことが伝わってくるし、原作の世界観やキャラを大切にしてイメージを壊さずに物語を作ってくれるし。表紙&口絵&挿絵&後書き1ページマンガは荒川さんの書き下ろしです。
アニメ、来週にはスタート、楽しみです。
●「プレシャス・ライアー」菅浩江[カッパ・ノベルス]819円(03/09/23)→【bk1】【Amazon】
次世代コンピュータの研究者であるいとこの禎一郎に頼まれ、詳子はオリジナリティのある表現を求めてバーチャルリアリティの世界にもぐった。詳子はそこで「アリス」と名乗る少女に出会った。名前どおりの外見をした「アリス」は、その外見に反して底知れない悪意を見せ、詳子の個人情報を抜き取った後、「ソルト」と名乗って消えた。そして現実世界に戻った詳子の前で「ペッパー」と名乗るピエロが突然目の前から消え失せてしまい…
バーチャル・リアリティもの。雑誌「週刊アスキー」で連載されていた作品だそうです。
バーチャルリアリティやユビキタスが当たり前となった世界の描写はうまいなあと思いつつも、正直読んでてあまりワクワクした気持ちにはなりませんでした。たぶん私が今まで読んだバーチャル・リアリティものとか、現在でも実現できることとか、そういう土台があることもあって、帯に書いてある「すべての想像を凌駕する!」という言葉ほどには私の想像から飛躍したものではなかったせいかもしれません。
でも、終わりの部分は個人的なツボを直撃でした。しみじみと切ない味わいでよかったです。以前読んだ菅さんの他のSF作品に通じるものがありました。
●「イリヤの空 UFOの夏 その4」秋山瑞人[電撃文庫]570円(03/09/17)→【bk1】【Amazon】
「イリヤの空 UFOの夏」シリーズ完結編。
発売から一か月以上経って、やっと読了。発売日に購入はしていたのですが、雑誌「電撃hp」でほとんど読んでいたために「エピローグ」だけ読んで、全部読み通すのは夏の終わりを感じてからにしようと思って、おいていたのでした。
(ちなみに読んでてつい悲鳴を上げてしまったのはあとがき…次の作品はEG Finalじゃないんですか?)
綾波な少女inUFOと普通の少年のボーイ・ミーツ・ガールな物語、死に逝く夏とシンクロするような、最後の逃避行のお話。
浅羽の感じる自分のふがいなく思う気持ちと無力感の描き方や、非日常がマヒして日常化していく描写、容赦のない展開はやはり"秋山瑞人"でいいなあと思いましたが、でも何か物足りない…最後の最後で甘く終わりすぎたというか。秋山瑞人のお話だけに、読み終わったあとに体中から力抜けそうな絶望感を求めていたのかもしれない。まあ、その部分はEG Finalに期待すればいいか。
キャラで個人的に一番気に入ったのは榎本。全部背負っていく覚悟がある、大人なんだけれども、どこか子供な部分も残っているところが、素敵だなあ。
ネタバレ感想→物語世界の説明、あっさりなのがなんだかもったいない。それにテクノロジーまわりや敵対関係などわからないまま終わった部分はあって物足りないです。
水前寺が生きて帰ってきたのは何よりですが、彼が見たものについて何も説明がないまま終わるのは… 水前寺は実は全部覚えていて、忘れたふりをしているだけなのかも。その方がいいなあ。
あと、個人的に一番しっくりこないのは、なぜイリヤが浅羽に惚れたのか、だったりします。まあ恋には理屈など通用しないものですが… イリヤ視点での描写がないから、理解できないだけかも。
最後のブラックマンタの発進シーンが素敵。秋山さんのあの手の描写が好きなんですよね。←
●「第六大陸2」小川一水[ハヤカワ文庫JA]680円(03/09/12)→【bk1】【Amazon】
「第六大陸」の待望の完結編です。
「月に人が住む」。2025年より日本の民間会社が主体で月に50人もの人が滞在できる施設を作るプロジェクト「第六大陸」がスタートした。技術的な難題を乗り越え、「第六大陸」計画は月にロボットを送り込んで本格的な工事を行い始めた。そこにNASAが月面都市計画を発表、「第六大陸」は大国との開発競争に追い込まれた。また「第六大陸」は国際法上の問題を持ち上げられ、窮地に追い込まれる。そして月に資材と人員を送り込むためのミッションで悲劇が起こり…
おもしろかったです。たった二冊で完結するのが勿体ない、濃い話で。この一冊を書くために、膨大な取材と背景設定をしただろうに、そのうちの一部しか読めないのはなんだかもったいない気分。
宇宙開発小説…というより宇宙土木工事小説から、物語の終盤では別の展開をみせてゆくのですが、そのあたりの展開は少し急すぎるなあという印象は受けました。でもそれも含めて、読んでてワクワクして、胸が熱くなる作品でした。
1ではガテン系や技術者の描き方は魅力的だったものの、妙というキャラは「スーパーヒロイン」みたいに思えてあまり好きにはなれませんでした。でも2では彼女のズルさ、頑なさ、寂しさなども見えてきてのがよかったです。それでもやはりオヤジが最高!! 料理長、素敵すぎです。
科学技術、人の知識欲、まっすぐな情熱のもたらす素敵な夢。「今」になんとなく閉塞感を感じている人に、特にオススメな作品です。
●「終の神話・天泣の章 封殺鬼シリーズ26」霜島ケイ[小学館キャンパス文庫]543円(03/09/07)→【bk1】【Amazon】
霜島ケイ●「玉響に散りて 封殺鬼シリーズ25」
千年を超えて生きる鬼たちを主人公にした、(広い意味での)陰陽師モノです。
災禍を防ぐ方法が少しずつ判明してきました。ただし、それには大きな代償が必要に。ラゴウ編は元々不穏な空気が漂っていましたが、このままでは弓生が〜。
まさかこのまま運命は避けられないまま終わったりしないですよね? 今までも大変な戦いが続いてきましたが、今回は「敵」のスケールがとにかく大きいですから…
心配な気持ちのまま、次作の発売を待ちます。でもこれ、あと一冊では「ラゴウ編」は終わらないと思う…
●「風雅の虎の巻」橋本治[ちくま文庫]780円(03/09/04) →【bk1】【Amazon】
「枕草紙」の現代語訳や「窯変源氏物語」で有名な橋本治が、日本の伝統的な美の感覚…風雅、幽玄、花鳥風月…を「解体」して「解説」した本です。
その解体の仕方が、結構実も蓋もなかったりしますが… 茶道は「豪華な貧乏ごっこ」であるとか。でもそう考えると、うやしやしく飾られていた文化財をみて「これのどこがすばらしいんだろう?」とよくわからなかったことが、腑に落ちる部分があるのも確か。
内容が一部古い?と思った部分もありましたが、最初に作品が出たのが1988年とのこと。なるほど。
内容的には一部「これで古典がよくわかる」とかぶっている部分もありましたが、理解が難しい「古典」の世界の感覚を味わうための手引書として、おもしろい一冊でした。
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