04年06月に読んだ本。   ←04年05月分へ 04年07月分へ→ ↑Indexへ ↓高永麻弥へのメール
●「ささら さや」加納朋子[幻冬舎文庫]571円(04/06/29) →【bk1】【Amazon】

生まれたばかりの赤ん坊を残して、夫は交通事故で亡くなってしまった。引っ込み思案で気弱なさやは、子供を引き取ろうと画策する義姉たちから逃げるように、子供を連れて田舎町の佐良に引っ越した。知り合いもいない町で、戸惑いながらもひとりで赤ん坊の世話をするさや。彼女が不思議な事件に遭遇して困ったときに、なんと彼女の前に、他人に一時的に憑依した幽霊となった夫が現れ、事件解決のための助言をしてくれた。夫の霊に見守られながら、さやは親しい友達も作り、街になじんでゆくが、ある日赤ん坊がさらわれてしまい…
加納朋子が描く、「日常の謎」系の連作短篇ミステリ。8つの切なくて暖かい素敵なお話でした。
人見知りで臆病なさやが、周りの人たちにも助けられ、少しずつ母として強くなってゆく。人が人を思いやる気持ち、その優しさと強さに癒されました。オススメ本です。


●「将棋殺人事件」竹本健治[創元推理文庫]660円(04/06/25) →【bk1】【Amazon】

「囲碁殺人事件」に続く、囲碁の天才少年・牧場智久くんを探偵とする20年前に出版されたシリーズの新装復刊(?)二作目。
六本木界隈では奇妙な噂が流れていた。墓地に落ちていた1枚の紙を拾った男が、そこに書かれていた謎々に取り付かれ、おかしくなってゆく。そして…… その噂を思わせる死体が見つかったことがきっかけで、天才囲碁少年・牧場智久と姉の典子は、大脳生理学者の須藤を巻き込んでその噂の調査を行う。噂の震源地は予想外にも…
今回は詰め将棋をモチーフに、一見バラバラなモチーフを並列して描きながら、それが最後に収束してゆく構造に、パズル的な美しさがありました。ただ、細部の不自然さに、読んでて少々引っかかるものが。


●「Hyper Hybrid Organization 00-01 訪問者」高畑京一郎[電撃文庫]570円(04/06/18) →【bk1】【Amazon】

ビターな"仮面ライダー"モノ、「Hyper Hybrid Organization」シリーズの外伝。舞台は本編の数年前、秘密組織・ユニコーンの成立過程を描いた作品です。
すっかり萌え全開となった電撃文庫の中ではかなり浮いている、男くさい作品です。血なまぐさく、また生ぐさい事情を描きながらも、どこかさわやかで純粋な部分があって、ヤクザ青春もの(?)という感じでした。
この外伝は現在も電撃hpで連載中ですが、連載の第7回くらいまでは読んでたのですが、HHOの休載があまりに多いのと、電撃hpで読む作品が少なくなっていることもあって、ここしばらくの電撃hpは未読でした。でもこの本を読んで、今どうなっているのか気になって、つい第9回が掲載されている電撃hp 29号を買ってしまいました… おもしろかったです。
つい本編3冊も読み返したくなって、ざっと読んでみました。よくわからなかった部分が少しずつ見えてきたような。本編も外伝連載も両方続きが楽しみなのですが、どちらもなかなか続きがでないのがもどかしいです。
本編および外伝の第9回まで含めたネタバレ感想。→なるほど、こういう経緯でユニコーンは設立されたのですか。目的としては、斜道組対抗組織の勢力を削ぐこと、資金調達、そして佐々木の研究の材料集め(?)あたりかな?
藤岡にメールを送っているのは佐々木ではないかと思います。藤岡を使ってユニコーンのハイブリッドの数を定期的に減らすことで、組織内での自らの必要性を高めるためではないかと。
本編を読み返してみると、速水さんや玲奈先生もハイブリッド化されているように見えますが、幹部の人たちは全員ハイブリッドなのかも。あと、阿部が本編に出てくる様子がないのは気になりますが、彼がいないとユニコーン内でのパワーバランスが崩れるので、ユニコーンには表向きは参加してなくても、手駒は送り込んでいるという感じなのでしょうか。
作者が01-03であとがきで書いていた、「お気に入りキャラ」は宮内のことなんでしょうね。私も彼の豪快で刹那的なところ好きなので、本編での活躍もみたいものですが、最後においしいところを…って、物語がそこにたどり着くのはいつになるやら。


●「神のふたつの貌」貫井徳郎[文春文庫]590円(04/06/17) →【bk1】【Amazon】

「神様が人間を愛しているのなら、なぜこの世は不幸に満ちているのか」
田舎の牧師の息子として生まれながら、神の愛を感じることができない少年・早乙女。彼はその原因は、自分が無痛覚症のため、痛みを感じることができないからではないかと疑っていた。早乙女と牧師である父、そして父から心が離れつつあった母親の3人の単調な生活は、ヤクザに追われて教会に助けを求めた美しい男・朝倉の登場によって変わってしまうのだった…

重いテーマを扱っていますが、作者の筆力があるためか、一気読みでした。でも作者のデビュー作「慟哭」には激しく魂を揺さぶられましたが、この作品にはあまり… 私自身、信心あまりない人間なためか、正直主人公があそこまで思いつめてしまうことが感覚的に理解できないためなのかもしれません。
作品にミステリ的な仕掛けもありますが、それは「慟哭」に比べるとわかりやすいのではないでしょうか。もちろん、仕掛けが分ったからといって物語の味わいが損なわれるようなものではないですが。


●「復活の地I」小川一水[ハヤカワ文庫]720円(04/06/12) →【bk1】【Amazon】

強国レンカ帝国の首都トレンカを襲った未曾有の災害。夕刻の大地震は、数十万の死者を生み出し、国家としての機能をズタボロにした。大事な会議のために集まっていた政府の中枢を担う政治家たちは軒並み死亡、古い建物は倒壊し、通信すらままならない状況。幸運にもケガもなく生き延びた植民地総督府の官僚のセイオは、自らの死を悟った植民地総督である上司・シマークに総督位を委譲され、「帝国を頼む」と後事を託された。セイオは目の前で死にゆく人々を救えないひとりの人間としての自分に無力感を覚えるが、組織を束ねる人間としてひとりでも多くの人を救うために力のすべてを注ぎこみだした…
大地震とそれによる被害、救助活動への指令の不手際により無常に失われてゆく命、それらの描写が真に迫っているだけに、読むのが辛い部分はあります。でもそれ以上に、その困難にどうやって立ち向かってゆくか…という危機管理の描写に読んでて引きずり込まれました。
宇宙大規模土木小説の「第六大陸」「第六大陸2」と同じく、今回のシリーズもプロジェクトX好きな人にオススメ。
この「崩壊した国家の再生を描く壮大なる群像劇」は三部作で、二作目は8月刊行だとか。生命に関わる緊急事態は乗り切っても、本当に大変になるのはこれからの建て直しなわけで。破綻した組織やライフラインだけでなく、融通がきかない官僚、不穏な動きをする軍部、暗躍するスパイたち、そういう数多くの苦難をセイオたちがどうやって乗り切るか、続きを楽しみにしています。


●「Q&A」恩田陸[幻冬舎]1700円(04/06/11) →【bk1】【Amazon】

ごく平穏な日曜のお昼、都内郊外のショッピングセンターに突然起こった大惨事。パニックになった買い物客がエスカレーターや階段に殺到、身動きとれずに子供やお年寄り が圧迫死した。多くの死傷者がでてしまったが、この事件の奇妙なところは、その惨事は何が原因で、どういう経緯で起こったのか、まるでわからなかったところだった…
そのとき現場にいた人々、かかわりのあった人々への問いかけとその答えで綴られてゆく物語。
物語から漂う、華やかな「都市」に透けてみえる漠然とした不安、死のにおい、秘密のにおい、得体の知れないものに対する怯え、それらの描写がみごとでした。堪能しました。
恩田陸さんは、「予感」を書かせたら抜群な魅力を発揮するかわりに、オチが尻すぼみというか、しおしおになることがしばしばあります。やはりオチらしいオチはこの物語にもありませんでしたが、今回の場合はそういうオチなさがこの作品に漂う不条理な不安をうまく増幅させています。
一見平和なこの世界、でも一皮剥くとその下には光も差さない深い闇がある。今の世界は、かろうじてバランスを保っているだけで、「誰か」の気まぐれでこの世界は次の瞬間には潰れてしまうのかもしれない。「クレオパトラの夢」に出てきた冷凍みかんにつながる数々のイメージの奔流、堪能しました。
クタクタに疲れて帰ってきた週末の夜、ひとりで一気読みするのが吉。ひとけのないところで読んだ方がじわーときていいですよ。


●「失楽の街 建築探偵桜井京介の事件簿」篠田真由美[講談社ノベルス]1000円(04/06/11) →【bk1】【Amazon】

建築探偵・桜井京介シリーズの本編第10作目。今回は、「東京」に"絵"を描こうとする無差別爆弾魔、役割を終えた戦前の住宅、故郷を失った漂泊の詩人が絡み合った物語でした。
―――この年の桜が散り終えるより前に、享楽の都は失楽の街へと名を変えるだろう。
 覚えておくがいい、我々の名を。

《火刑法廷》の名でネットに書き込まれた、爆弾テロの予告。成り行きで犯人解明に協力することになった京介らも、爆弾魔につけ狙われるようになったが…

今回の作品は、もうひとつ私の心には響きませんでした。篠田さんの作品の登場人物は、どこか芝居がかった言動をする人が多いですが、作品舞台が浮世離れしているとそれが作品の雰囲気を高める効果をあらわします。でも、今回のように「東京」を舞台にした場合は、現在(作中では2001年4月)のリアルな都市に生きる人たちと、作中登場人物の芝居がかった古めかしい言動とのズレが引っかかってしまうので… また、現代の東京の空気や毒も私にはあまり伝わってきませんでした。
犯人が描こうとしていた「絵」も、作者が前書きであえてバラしている「探偵=犯人」のあり方も個人的にはあまり新鮮味を感じなかったのが残念。
直接は関係ありませんが、作者が後書きで触れている、この作品に書く上でインスパイアされた「EDGE」シリーズ(とみなが貴和 ホワイトハート)は私も大好きな作品なので、紹介として発刊当時の感想にリンクしておきます。あるべき日常からほんのすこし逸脱した犯人たちの心理が見事に描かれている作品なので、ミステリ好きな人にはぜひ読んでほしいのですが、本屋で見つけることは難しいかも。ネット書店にはまだあるようなので、興味がありましたらどうぞ。
 とみなが貴和●「EDGE〜エッジ〜」 →【Amazon】
 とみなが貴和●「EDGE2 〜三月の誘拐者〜」 →【Amazon】
 とみなが貴和●「EDGE3 〜毒の夏〜」 →【Amazon】


●「実践!日本語ドリル」斎藤孝[宝島社]1048円(04/06/08) →【Amazon】

「実践!!日本語ドリル」(宝島社)を立ち読みしたら面白かったので購入。名前に覚えがあるなあと思ったら、筆者はあの三色ボールペンの人でした。
ブレのない情報を確実に伝えるための、最低限の技術としての国語力の話。
思考力・表現力の土台となる基本的な「日本語力」とはどういうものか、またその訓練方法について書かれています。その「日本語力」として以下の5つがあげられていました。
 (1)基本構文力 :ねじれのない日本語を使える能力
 (2)要約力:客観的にまとめる能力
 (3)言葉の時間感覚:密度を意識して調整する能力
 (4)図化・文章化の往復力:構造的に読み解く能力
 (5)モードチェンジ力:相手との距離に応じて言葉を使い分ける能力
この本に掲載されている例題を解くことで、自分のこれらの力がどの程度なのかを試すことができます。
問題に挑戦してみて、自分の国語力は思ってた以上に怪しいことがはっきりとわかってしまいました。図を文章化するのはうまくないし、モードチェンジ力は相当弱い。それ以前に、意識していれば大丈夫なのですが、無意識に書いていると文章がねじれてしまいます…
でも、こういう"感性"によらない基本的な力は、意識して訓練すれば力がついてくるそうなので、まずは意識しなくてもねじれない文章を書けるようにしなくては…
問題を解いている時に感じたのは「学校での国語のテストは本来はこういう力を測ることを意図していたのか」ということでした。学生時代、私にとって国語はどちらかといえば得意科目でしたが、本来は読む人によって受け取り方がかわるような作品を題材にした問題で「作者の言いたいことを次から選びなさい」と用意された選択肢から一つの答えを選ばされることが多かったためか、「国語は本来は答えのないものに無理矢理答えらしきものを作りあげるもの」という不信感が未だに残っていたりします。
そんな印象があるのは、私が国語の先生にはあまり恵まれていなかったせいなのかもしれません。私を教えてくれた先生は、今にして思えば教える側の目的意識…どのような力をつけさせたいか…がはっきりしていない人が多かったような気がします。だから国語という科目の重要さがもうひとつわかっていなかったのかも。
さて、この本は情報を右から左にスムーズに伝えるための技術についての話ですが、それができたら次は自分の中から言葉を引きずり出す技術の話でしょうか。それについては山田ズーニーさんの「伝わる・揺さぶる!文章を書く」「あなたの話はなぜ「通じない」のか」がオススメです。


●「流血女神伝 暗き神の鎖(前編)」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]476円(04/06/03) →【bk1】【Amazon】

神々の息吹が感じられる世界での、架空歴史活劇・異世界ファンタジーシリーズ「流血女神伝」の待望の本編の再開です。
「砂の覇王」のラストから1年、マヤライ・ヤガとなったバルアンは、正式にマヤラータとなったカリエを誘ってオル教の聖なる山オラエン・ヤムに登っていた。頂上でカリエはバルアンから思いもかけない申し出を受ける。なんとカリエをヨギナの新総督に据えようというのだ… 「おまえはおまえにしかできぬことをやれ」とバルアンに言われたカリエは…
あっという間に読了。ぎっしり詰まった濃い物語を堪能しました。
今回はカリエの激動の人生の中では比較的平穏な日々ということもあって、カリエ関係のエピソードはほのぼのとした気持ちで読むことができました。でも今回できごとは、カリエの人生には決定的な変化をもたらすわけで… あのラストといい、次の巻がどんな展開になるのか、今から怖く、そして同じだけ楽しみです。とにかく、続きが早く読みたいです。ああ、でも須賀さんがこれ以上働きすぎて体を悪くしたら困るし…
「流血女神伝」の世界は、科学技術の発達による合理的精神の芽生えがある一方で、残酷で気まぐれな神様が本当に存在している世界です。「人」は「神」に恋焦がれる一方で、「人」は「神」に与えられた運命に必死であがいている、そういう物語。ジェットコースターのように激しく展開する物語に一喜一憂するだけでなく、見事に作りこまれた「世界観」に酔うこともできる、一級のエンターティメントです。オススメシリーズ。方向性は違いますが、「十二国記」シリーズが好きな人は楽しめるのではないでしょうか。
読むのであれば出版順に、「帝国の娘」から。
◇アマゾンのページへのリンク
 本編 帝国の娘:前編 / 後編
 本編 砂の覇王:1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9
 番外編 天気晴朗なれど波高し。:1 / 2
 外伝 女神の花嫁:前編 / 中編 / 後編
 本編 暗き神の鎖:前編
◇私の過去の感想へのリンク
 本編 帝国の娘:前編 / 後編
 本編 砂の覇王:1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9
 番外編 天気晴朗なれど波高し。:1 2
 外伝 女神の花嫁:前編 / 中編 後編
ネタバレ感想→バルアンって、今まではカリエを好きでいても「道具」として好きに扱っているような感じがして、カリエがバルアンのものになるのはもうひとつ納得いかなかったんですが、今回の話でバルアンはバルアンなりにカリエのことを大切に思っていて、彼女にといって一番よい道を歩かせてあげたいと思っているんだなあ…というのが伝わってきました。ふたりのラブっぷりが素敵でしたが、でもカリエの過酷な運命からすると、二人で最後まで添い遂げるというのは無理なのかなあ…
久々のエドの見せ場、親衛隊長としてマヤラータに忠誠を誓うシーン、カッコよかったです。頭の中にまるで映画をみているかのような映像と音が浮かびました。船戸さんが忙しくてイラストがなかったのがつくづく残念でした。
侍女たちの話を読んでて、ひょっとしてあの世界ではカリエはまるで「王家の紋章」のキャロルであるのような、運命の恋に翻弄された、恋多き女のように語られてたりしますか? 全く違うわけではないのですが、実際のカリエとのギャップがおもしろいですね。
登場を待ちかねていたラクリゼ弟、「女神伝」中最強を誇っていたラクリゼよりもはるかに強いというのは予想外でした。「キル・ゾーン」シリーズのサリエルを彷彿させる屈折した冷酷なキャラのようです。サリエルは好きキャラだったので、今後のラクリゼ弟は私的には期待大ですが、彼の行動がカリエにもたらすものを考えると… ラクリゼの方を応援したくなります。ラクリゼにはエドも鍛え上げて、カリエを守りきってほしい!!とは思うものの、「カリエは無事に守られました」というような安易な話を須賀さんが書くわけないんですよねぇ。次が出るのが楽しみだけれども、どんな過酷な展開になるのか、怖い部分もあります。アフレイムは「砂の覇王」のラストからすると長じて「賢帝」と呼ばれることになりますから、あの子供が犠牲としてささげられることはないと思うのですが… 史書で描かれていることが事実と一致するとは限らないわけで、"アフレイム"が賢帝と呼ばれるのは事実でも、今回生まれた子供が史実でのアフレイムとは限らないかもしれないという不安が残ります。
ルトヴィアの雲行きはますます怪しいことに。グラーシカは強そうに見えるけれども、ぽっきり折れそうな脆さもあるから、心配です… でも彼女は誇り高いから、ドーンの前でその弱さを見せないのでしょう。だからドーンはグラーシカを信頼して、彼女なら大丈夫だと思ってしまうから。悪循環…
施政者が正しい心と高い能力を持っていたとしても、腐り果てた国家の命を救うことができない。何をやっても手の施しようがない。それはあまりに切なく辛い。ただ、「天気晴朗なれど波高し。2」からすると、ルトヴィアという国家が瀬戸際までいっても滅亡はしなさそうに思えるのですが… 少しでもいい方向に行ってくれるといいのに。


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