04年05月に読んだ本。   ←04年04月分へ 04年06月分へ→ ↑Indexへ ↓高永麻弥へのメール
●「屋上の暇人ども5 修学旅行は眠らない 上/下」菅野彰[新書館ウィングス文庫]580/590円(04/05/28) →【bk1】【Amazon】上/

「屋上の暇人ども」シリーズ最新刊。湘南の田舎にある高校での、どこか不器用な4人のナイーブな青春物語。人気ボーイズラブ作家さんですが、このシリーズは非ボーイズラブです。
4泊5日で山口広島奈良京都と回る修学旅行。団体行動が苦手な鴫は行く気がかけらもなかったが、譲に説得され、行き場もないこともあって修学旅行にしぶしぶ参加した。じっとしていられない鴫ゆえに、ゆく先々で問題行動を起こしていたが、天沼の代理で引率となった佐川は問題を必死でもみ消した。そしてあと2日で終わりという時、我慢の限界に達した鴫は夏女と夜にホテルを抜け出す。譲と未来も二人を放っておけなくてついてゆくが、その先でとんでもないトラブルにまきこまれ…
今回の話は、シリーズで一番よかったです。読後のやるせなさと切なさがなんとも。
読みながら、学校は息苦しくて優しい、期間限定の檻だった…ということを思い出していました。私にとって高校の記憶は遠い思い出となっていますが、それでもあのとき感じていた息苦しさは体が覚えています。でも学生だからいうことで許され、守られていたところもあったんですよね、今にして思えば…
ラストでの夏女のセリフ「別々の体なのにずっと一緒にいるのは、無理だから」がとても哀しく響きました。たとえどんなに強い絆であったとしても、それは永遠ではないのですから。
未来が「かわいい」といわれて素直な反応できない気持ちはなんだかとてもよくわかります。未来は強い子だから、彼女が口にした約束を叶えてくれるだろうとは思いますが、道のりは遠いよね…
それにしても佐川先生の貧乏くじぶりがあまりにも気の毒でした…


●「名探偵 木更津悠也」麻耶雄嵩[光文社カッパノベルス]819円(04/05/22) →【bk1】【Amazon】

「木製の王子」以来、4年ぶりに読んだ麻耶雄嵩の新作。(「まほろ市」のシリーズは読んでないので)
「翼ある闇」や「木製の王子」に登場した名探偵・木更津と作家・香月のコンビの作品で、「白い服を着た若い女の幽霊」にまつわる、4つの話が収録されています。
事件そのものは、ミステリとしてはごくまっとうなお話ばかりでした。その中では、3つ目が少々ひねりがきいていておもしろかったです。
この作品の本当に味わいどころは、タイトルにも冠せられた「名探偵」とはどうあるべきものであるか、ということになるのでしょう。(メルカトル鮎は「名探偵」ではなく「銘探偵」ですから)
ミステリの本筋自体はあまり奇抜ではないために、麻耶作品としてはもうひとつ物足りない部分はあります。でも「翼ある闇」からの読者には見える別のものがおもしろかったです。
他の麻耶作品にも言及のあるネタバレ感想→好奇心から一線を踏み越えてしまったがために、「名探偵」という存在に憧れながらも、「名探偵」になれないことが分かっている香月。彼はその憧れである「理想の名探偵」の夢を木更津に重ね合わせて、コントロールしていますが、その微妙な心理が妙に色っぽくてよかったです。
ラストで木更津は「化学反応」を起こさせようとしたのが香月であることに気が付いていますが、よく読むと一つ目の話の時点から、木更津は自分がワトソンの手のひらで踊らされていることに薄々感づいているように思えます。その時点ではさすがに香月のしでかしたこと全部は分かっていなかったでしょうが、最後にああいうことを面と向って言っているということは、ひょっとしたら「翼ある闇」の事件も、木更津はあの裏のからくりに今は気が付いているのかも。それでも今後の二人の付きあいは変わらないのか、変わるのか、それも読んでみたいものです。
(麻耶作品は大体読んだはずですが、記憶が怪しいので、これ以前の作品で木更津がすでに気が付いていることがわかる描写があったらすみません。)


●「そして彼女は神になる」松原真琴[JUMP j BOOKS]762円(04/05/25) →【bk1】【Amazon】

「そして彼女は拳を振るう」の続編。前作は小畑健さんの挿絵目当ての購入でしたが、予想外に(←失礼)まったりとした話で読んでて楽しかったので、続きが出て嬉しかったです。
代々長女に霊媒師として能力が受け継がれてきた園原家。ところが八重にあったのは、「触れ合うと幽霊の気持ちがわかる」「幽霊を自分に憑依させることができる」と中途半端な能力だけ。才能ある霊の能力を借りて儲けてきた祖母と母親にならい、八重が拾ってきたのはAUBEという人気バンドのメンバー・十郎の霊だった。ところがサンドバッグを打ちながらでないと作曲ができないという十郎のために、八重は女子高校生離れした必殺パンチが打てるようになってしまうように。
八重は高校の文化祭、フリフリブラウス着用のクラスの出し物「音楽喫茶」から逃れるために、バスケ部の劇に出演するハメになった。彼女が演じるのは、猫の姿をした「ジャージ神」で…

少しズレたシチュエーションでのコメディです。今回もキャラ同士のやりとりがまったりと楽しく読むことができました。
読んでてハラハラし通しのジェットコースターノベル(例「流血女神伝シリーズ」(須賀しのぶ))はもちろん面白いですが、そんな話ばかり読んでいては疲れます。だからこそ特に大きな事件がおこらず、魅力的なキャラがわいわいやっている姿を楽しむ「まったり本」(例:「マリア様がみてる」(今野緒雪)や「足のない獅子」「黄金の拍車」(駒崎優)シリーズ)でほのぼのした気持ちになりたいこともあるわけで。
小畑さんの書き下ろし挿絵は、カラーが3ページ(表紙+ピンナップ表裏)、モノクロ8ページ。週刊誌連載中なのに働きものです。一つ残念だったのは、小畑さんの絵で八重ちゃんのフリルエプロン姿を見たかった…ということ。小畑さんの描く女の子はかわいいのに、「ヒカルの碁」にしても「DEATH NOTE」にしても女の子あんまりでてきませんからね。


●「R/EVOLUTION 1st Misson 断鎖《Escape》」五條瑛[双葉文庫]945円(04/05/21) →【bk1】【Amazon】

「プラチナ・ビーズ」に登場したあのサーシャが暗躍する、全10冊となる「R/EVOLUTION」シリーズの一冊目がついに単行本化しました。
―――革命を起こさないか、この国に。
両親との折り合いが悪く、家を飛び出した亮司はいつしか中国からの空路密航に関わる組織の手伝いをするようになっていた。亮司の役割は、パスポートの名義貸しをしてくれる人間を見つけ、彼らから申請に必要な書類を借りること。非合法活動の手伝いながらも、実際には淡々とした日常を送る亮司だったが、彼の前に謎の美しい男・サーシャが現れた頃から何かが変わり始めた。サーシャは亮司の望み…自分を束縛する両親をこの世から消すこと…と引き換えに、ある男の密航を手助けしてほしいと持ちかけたが…

アンリ・ルソーの幻想的な絵と重なるように奏でられた、血なまぐさい裏切りと逃れられない絆 の物語。
この作品はフィクションではありますが… この作者の他の作品と同じように、この国の安全保障というものについて考えさせられるものでした。一見享楽的で平和なこの国の底で一体なにが起こっているのか。それらはすでに一般のニュースにも少しずつ現れてきていますが、怖いものは見たくないからつい目をそらしがちになってしまうのです。
おまけ。今日本屋でそのハードカバー版の3冊目をみましたが、背表紙が10冊全部集めたらアンリ・ルソーの「蛇使い女」が完成するようになっているんですね。そういうのを知ると全部ハードカバーで揃えてみたかったなあという気もします。金銭的な問題や、収納場所の問題からそれはムリなのはわかっているのですが。(第一、「断鎖」のハードカバー版は今となっては入手が難しいそうですし)


●「Ave Maria(アヴェマリア)」篠田真由美[講談社ノベルス]880円(04/05/14) →【bk1】【Amazon】

「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズの番外編。「蒼」が自らの過去と向き合うためのお話。
蒼と京介が出会うきっかけとなった事件を描いたシリーズ5作目「原罪の庭」はとても好きな作品です。咲き誇るバラのように華やかで、そして毒々しいまでの濃厚な芳香が漂う、美しくて残酷で切ない物語。彼があんな行いをした真の動機を知った瞬間の胸が締め付けられるような思いは忘れられません。
だからこそ、この作品があの事件に蒼が帳を下ろすための物語と手にしたときに知って、読むのが本当に楽しみだったのですが…
苦いものは苦いまま飲み込み、消化して自分の身の一部としてゆくというようなお話自体はよかったのですが、残念ながら今回は物語に入りこむことができず、醒めた思いで読み終わってしまいました。
作品中に見え隠れする作者自身の思いが引っかかったせいで没頭できませんでした。作者にとっても思い入れ深い作品とキャラクターたちだというのはわかるのですが、でも作品に作者の萌えを過剰に感じると読むのが辛くなります。読んでて作者という黒子さんの姿をつい意識してしまうので…
来月には「建築探偵桜井京介の事件簿」の本編がでるとのこと。そちらは今回感じたひっかかりを覚えずに読めるといいのですが。


●「回転スシ世界一周」玉村豊男[光文社知恵の森文庫]629円(04/05/11) →【bk1】【Amazon】

2000年に出版された本の文庫本化。
日本人にはおなじみの回転寿司。その回転寿司がなんとパリにできて、おしゃれなナイトスポットとして注目されている…そんな噂を聞きつけ、1999年から2000年にかけて、パリ、ロンドン、アムステルダム、ニューヨーク、ロサンゼルスをまわった作者が海外のスシ文化についてまとめた読み物。
現場での取材を熱いままアウトプットしたような、ライブ的なノリがあっておもしろい本でした。
海外のスーパーのテイクアウトコーナーにはサンドイッチと同じように「スシ」が普通に並んでいるとか、海外にでも回転寿司はあるという話は聞いたことがありましたが、どういう形でそれが始まり、そして受け入れられてきたかまでは知らなかったので、興味深く本を読みました。
世界的なグルメ嗜好の流れの中でスシがどこに位置づけられるかという話や、インターネットのサイトからの情報だけでスシの握り方を覚えた店のオーナーがいるというような話が印象的でした。
でも、こうやって世界的にスシが受け入れられて、マグロも世界中の人が食べるようになると、水産資源は持つのかなあ、とふと思ったり。


●「空ノ鐘の響く惑星で 3」渡瀬草一郎[電撃文庫]620円(04/05/09) →【bk1】【Amazon】

今、一番続きが待ち遠しいシリーズ「空ノ鐘の響く惑星で」の三冊目。中世ヨーロッパ風の世界にファンタジックな要素が加わり、それにSFが加味された物語。
「3本の爪跡のあるジャガイモのような」月から年に一度鐘の音が響き、貴重な輝石(セレナイト)を産する「御柱(ピラー)」が宙に浮いている世界での物語。妾腹のため宮廷で無視されているアルセイフ王家の第四王子・フェリオは、フォルナム神殿で「御柱」を通じて異世界からやっていた少女・リセリナと出会い、互いに惹かれていった。ある日、リセリナを追ってきた"来訪者"にアルセイフ王家の王と皇太子が殺害されるという惨劇が起こった。混乱の中、第二王子・レジークは姦計をめぐらせ、自らに対立する有力者を巧妙に葬り、王位への即位を宣言してしまう。第四王子のフェリオは罪をきせられ、追われる身となったが、危険を省みずに人質を助けるべく王都に舞い戻ったが…
前回で大きく転がり始めた話の続き。今回は展開も派手です。命を、大切な人を守るための戦いだけではなく、それより少し大きいところ…国を守るための戦いについても少しずつ見えてきました。ウィータ神殿のきな臭い動き、見え隠れする西の大国・ラトロアの影も気になります。今回は世界の謎に関わる、錬金術と"来訪者"についてはそれほど多くの情報はありませんでしたが、世界の根幹に関わることだけに、いずれ話に深く関わってくるのでしょう。
登場キャラが増えてきて、それぞれの思惑が複雑に絡み合ってきたので、次巻には地図と主要人物紹介をつけてほしいなあと思います。(作者サイトには(2巻時点の)勢力図と登場人物リストが掲載されていますが)
このシリーズは「アルスラーン戦記」が好きだった人には楽しめると思うので、興味があれば手にとってほしいなあと思います。
作者のサイトを読むと、4巻も遠くない先にでるようで、楽しみです。
ネタバレ感想→クラウスがあまりに不憫で…でも彼はニナが生きていることを知れば、レジークの元を離れそうにみえるのですが、レジーク派の最大の砦の彼が陣営から外れるとあっという間に話終わっちゃいそうですから、そう簡単にはいかないのでしょうね。
レジークが本当に望むものも、わかったようなわからないような感じで…
フェリオが北方民族の血を引いているということは、どう影響するのでしょうか。
フェリオを巡るラブバトルについては私はウルク派。でも最後はリセリナとくっつきそうだなあ…


●「小説 鋼の錬金術師3 白い花の舞う谷」井上真[スクウェア・エニックス]857円(04/05/07) →【bk1】【Amazon】

現在アニメが大人気放映中、「鋼の錬金術師」(荒川弘)のノベライズ(オリジナル作品)。「小説 鋼の錬金術師2 囚われの錬金術師」に続く三冊目の長編です。
ロイに町の視察という些細な仕事を押し付けられたエドとアルは、荒野の中にある町・ウィスタリアへ向かった。街を取り仕切る、錬金術師のレイゲンは帰るところを無くした人々を受け入れ、「等価交換」というシンプルなルールを法とすることで「楽園のよう」と言われる町を作り上げた。明るく笑う町の人々と打ち解けるアル。しかしエドの目には「等価交換」に縛られた町の暗い面も見えてきて…
今回のお話も、サクサクと楽しく読むことができました。ノベライズの筆者は原作を愛し、深く理解してくれるので、原作ファンにも違和感なく読めるのがいいです。エドとアル、それぞれの悩みと迷いの、小説なりの表現もよかったですし。
原作の荒川さんの書き下ろしイラストは、表紙と口絵(カラー)、挿絵3枚、あとがき1枚、イラスト1枚でした。


●「ディバイデッド・フロント II 僕らが戦う、その理由」高瀬彼方[角川スニーカー文庫]648円(04/05/06) →【bk1】【Amazon】

1年ぶり、「ディバイデッド・フロント」シリーズの二冊目です。
20世紀末、忽然と現れた人類の敵・憑魔。彼らとの戦いで大きなダメージを受けた人類は、憑魔に一定地区を明け渡すことで脅威をコントロールする「隔離戦区構想」を用いて、かろうじて危うい生活を保っていた。
憑魔に寄生されたため、「北関東隔離地区」に送り込まれ、特殊治安部隊の一員として憑魔との戦いを続けることを強いられた少年・英次。彼は「イコマ小隊」に配属され、過酷な環境の中を戦い続け、生き抜いていた。大量発生した土蜘蛛との激しい戦いで大怪我をし、10日ほど入院していた英次が隊に戻ったときにみた光景は…

前半は一部にラブバトル(?)があるものの、ほのぼのした話ですが、後半はかなり過酷な展開に。圧倒的に不利な状況、未来が見えない中で、ただ仲間と生き延びるために戦い続けてゆく姿に胸がキリキリします。今回の話でグッときたシーンは、「敬礼」の場面と、最期のキス。切ない。
ゲーム「ガンパレード・マーチ」が好きだった人にオススメの作品。


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