04年07月に読んだ本。   ←04年06月分へ 04年08月分へ→ ↑Indexへ ↓高永麻弥へのメール
●「夜のピクニック」恩田陸[新潮社]1680円(04/07/31)  →【bk1】【Amazon】

一昼夜かけて80キロを歩く、北高恒例行事の鍛錬歩行祭。苦しくはあるものの、友達同士夜通し話ながら歩いたり、打ち明け話をしたりと参加者にとっては忘れられない一日となる。
貴子は同じクラスの融を痛いほど意識しながらも、とある事情から言葉を交わすことさえできずにいた。彼女はこの「ピクニック」に一つの望みを賭けていた。そんな時、転校した友人から貴子の下に不思議な手紙が届いた…

ただ、歩いていただけ、でもそれはとても特別な時間だった。奇跡の一夜を描いたさわやかでほんわりと気持ちが暖かくなる素敵な物語でした。
旅という非日常空間で、それぞれが自分の心の中にゆっくり深く沈みこんでゆく。そして交わす言葉で少しずつ色を変える、人と人との関わり。この「旅と人の心の移ろいと不在の存在」を恩田さんは過去に何度もえがいています。「三月は深き紅の淵を」の第二章や「黒と茶の幻想」「まひるの月を追いかけて」あたりがそうですね。
bk1の著者コメントによると、この物語は作者の高校時代の経験が元になっていて、かなり早い段階で構想されていたとか。ということは、逆に恩田さんの旅モノの原体験がこの歩行祭なのかもしれないなあ、と思いました。
短編集「図書室の海」掲載の「ピクニックの準備」はこの話の予告編としてかかれた作品ですが、今読み直してみるとキャラクター名などが少しずつ変わっていますね。この「図書館の海」には他にも長編予告が収録されていますが、それらの長編も楽しみに待っています。


●「運命は剣を差し出す2」駒崎優[中央公論社C★NOVELS]945円(04/07/30)  →【bk1】【Amazon】

魔法がない中世風世界での傭兵さんたちの物語「運命は剣を差し出す」の続編。
1のラストで絶体絶命となったお医者様はおいといて、物語は数年前の傭兵隊・バンダル・アード=ケナードにひとりの仲間が加わった頃の話から始まりました。
一作目よりも二作目の方がおもしろく読めました。
駒崎さんの描く、信頼関係で結ばれた気がおけない仲間同士のやりとりは読んでて楽しいです。最前線で命のやりとりをする傭兵たちだけに、駒崎さんの他作品に比べると状況は厳しいですが、それでも漂うまったり感は駒崎作品ならではという感じで。
白い狼・エルディルの小さい頃も可愛かったですが、その"母親"もいじらしくて… 親子対面ができてよかったなあ、と。
三冊目で一度エピソードは終了するものの、シリーズとしてはまだまだ続くそうです。


●「流血女神伝 暗き神の鎖(中編)」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]495円(04/07/27)  →【bk1】【Amazon】

神々の息吹が感じられる世界での、架空歴史活劇・異世界ファンタジーシリーズ「流血女神伝」最新刊。
大国エティカヤ王の正妃であり、大都市ヨギナの総督にもなったカリエ。彼女は長子アフレイムを出産し、この世で一番幸せな女性として多くの人に羨ましがられていた。しかし実際は、愛しい我が子との対面すらままならない状況に心を痛める日々が続いていた。そして何より自分と子供を連れ去ろうとする黒い影に怯えて…
あっという間に読了。いつもながら、圧倒的な物語力に酔いました。前巻が幸せな状況だったこともあって、余計今回の展開は痛いです。でも、たとえ神の鎖にがんじがらめだったとしても、自らの意志で戦うことを決めたカリエの姿に、目頭が熱くなりました。そういう心震わされる切ないシーンもあれば、一方で大爆笑シーンもあり。おもしろかったです。
後編が発売される11月が今から待ち遠しいです。怖いけれども、早く続きが読みたい…
「流血女神伝」の世界は、科学技術の発達による合理的精神の芽生えがある一方で、残酷で気まぐれな神様が本当に存在している世界です。「人」は「神」に恋焦がれる一方で、「人」は「神」に与えられた運命に必死であがいている、そういう物語。ジェットコースターのように激しく展開する物語に一喜一憂するだけでなく、見事に作りこまれた「世界観」に酔うこともできる、一級のエンターティメントです。オススメシリーズ。方向性は違いますが、「十二国記」シリーズが好きな人は楽しめるのではないでしょうか。
ただし、たとえ人気キャラでも必要なければ出番もないし、物語上優遇されないので、自分の好きキャラが不遇なのが耐えられない人にはオススメできません。
読むのであれば出版順に、「帝国の娘」から。
◇アマゾンのページへのリンク
 本編 帝国の娘:前編 / 後編
 本編 砂の覇王:1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9
 番外編 天気晴朗なれど波高し。:1 / 2
 外伝 女神の花嫁:前編 / 中編 / 後編
 本編 暗き神の鎖:前編 / 中編
◇私の過去の感想へのリンク
 本編 帝国の娘:前編 / 後編
 本編 砂の覇王:1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9
 番外編 天気晴朗なれど波高し。:1 2
 外伝 女神の花嫁:前編 / 中編 / 後編
 本編 暗き神の鎖:前編
ネタバレ感想→いやもう、エドがっ!!エドが!!
カッコいいよ、もう!! しびれました。それでこそ、男だ、エド!! 名前負けしているとか前に感想書いててごめんなさい。名前どおりに、全てに打ち勝って、カリエ争奪戦最終勝者になってほしいなあ。
それに比べてドミトリアスは… なんですか、あのとろけっぷりは。お父ちゃんの一喝で多少は目を覚ましてくれたと思いますが(思いたい)、それでもグラーシカが一体なんのために苦しんでいるのかは全くわかってないんだろうなあ。ああ…

イーダルの再登場、まさかこんなキャラになるとは。一見チャラチャラしたようで、何か深い考えがあるようにみえますが、実のところ感覚だけで動いているような気がしないでもないし… でも、カリエのアフレイム奪還作戦に、彼が関わることになるなんて全く想像すらできませんでした。今回加わりそうなメンツの中では、イーダルは一番非力で女神の加護も受けてませんが、機転は一番ききそうですから、重要なポイントとなるのかもしれません。あと、ミュカも頑張ってほしい。彼が女神の加護を受けているのがこのまま無関係で終わるとは思えませんし。

出発を決心したカリエとラクリゼのシーン、そして守るべき存在だから、カリエを助けるのだと語るエドのシーンに泣きました。エドが特訓中のラクリゼをみつけた後のシーンもよかったなあ…
そうやって泣かされた一方で、レイザンをみたカリエが一瞬ときめいてしまうシーンに大爆笑。カリエはやはりカリエなんだなあ、と。あとは酒場での決闘シーン、なんだか妙に息が揃っているエドとサルベーンに大笑い。
イーダルに翻弄されるミュカもよかったなあ。

ラクリゼ姉さんがとんでもないことに… いや、"女神の花嫁"がまだこの程度で命を失うとも思えませんから、後編での彼女の復活を心待ちにしています。
リウジールは壊れてて怖いキャラでしたが、最後からみると彼は彼なりに愛されなかったことで傷ついているんですね。ただでさえクナムの子は特別ゆえに孤独を味わうものですが、彼の場合は事情が色々と複雑ですから… 小さい頃は出奔した兄と比べられてできそこないとののしられいたようですし。その苦しみから、逆に力ばかりを求めるようになったのでしょうか。彼のすさんだ気持ちも、カリエによって変わってゆくのかなあ…

今回、世界の謎関連の話が出てきました。なるほど、オルもタイアスの一部ですか。それで眠りについている、と。「砂の覇王9」でヒカイがみたエラージャの復活のシーン、あれがザカリアの一部だったというのも正しそうですね。
この世界が「神の定めた運命」にのっとったものであり、個人の意志による選択もすべて定められたことになるようですが、でも「女神の花嫁 後編」のアデルカと女神のやりとりをみてると、女神は分りきった選択を強いながら、別の選択をされることを望んでいるように見えたんです。ひょっとして女神も、定めどおりに自分が復活し、タイアスも復活して世界に大きな影響を及ぼすことを望んでなかったりするんだろうか?と思ったり。
運命が神によって定めされているのにあがいてる人たちをあざ笑っていたリウジールでしたが、その彼もそうやって神の人形でいることに傷つき、絶望しているように思えました。
過酷な運命ではありますが、カリエにはそれを乗り越えてほしいなあと思います。でもあの状況からどうやって乗り越えるのか… 後世の歴史に賢君・アフレイムが記されていることが、彼が助かるという唯一の希望ですが、エティカヤが体面から偽アフレイムを立てたりすることもありえるだけに、不安が残ります。

それにしても、あと一冊でこの状況にカタがつくんでしょうか? 「砂の覇王」のときもそう思ったけれども須賀さんは見事に風呂敷を畳んでくれましたから、今回も期待しています。
とにかく、11月が今から待ち遠しくて仕方ないです。


●「人間の証明」森村誠一[角川文庫]667円(04/07/24)  →【Amazon】

現在ドラマ放映中の原作です。
華やかな東京のホテルのエレベーターの中、ナイフで刺された一人の黒人男性が死を迎えた。「ストーハ」という謎の言葉を残して…
彼と日本を繋ぐ手がかりは、西条八十の詩集。その細い糸から棟居刑事らは事件を調べてゆくが、最後に浮かび上がった容疑者は…

原作が書かれたのは30年前とのことで、今からすると多少古く思える部分はあるものの、おもしろく読めました。作中では同時進行でいくつかのエピソードが描かれていますが、それがやがてひとつに収束してゆくあたりが読み応えありました。多少偶然に頼りすぎているように見えたのが少しひっかかりましたが…
西条八十の詩「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?」に象徴される、子の母を思う心情が切なかったです。
物語の背景となる事情は戦後を引きずっていた30年前と、ドラマ放映中の現在とではかなり違いますが、ドラマは今にあわせてなかなかうまくアレンジしています。後半戦にはいったドラマの方も楽しみ。


●「真・運命のタロット9 《世界》。 上/下」皆川ゆか[講談社X文庫ティーンズハート]1300円(04/07/14)  →【bk1】上/下【Amazon】上/

時間SF作品であり、容赦ない物語であり、大河ラブロマンスでもある「真・運命のタロット」シリーズ、ついに完結。
 たとえ定められた運命だとしても。
 意志を持って、「今」を生きること。
 自分でなした選択の積み重ねの上に、今の自分はあること。
《女教皇》の生き様を見守ってきた「みんな」のひとりである私にも、思いは伝わってきました。
(設定周りの難しさも含めて)あまりにも多くのことが詰め込まれた濃い一冊だっただけに、まだ自分の中で消化しきれていない部分はあります。この「真〜」のシリーズは苦く、過酷な物語でありましたが、物語のラストを飾るシーンがとても素敵で、さわやかな印象が残りました。
あの彼の目に映った青空が、私の目にも焼きついたように、いつまでも脳裏から離れません。

ただ、謎は全て解かれることなく、そればかりか最終巻にいたって初めて仄めかされることも多く、このシリーズの「謎」の部分にも惹かれていただけに、そういう意味では残念な終わり方ではありました。
だからこそ続きを読みたいのですが、商業的に成功を収めているといいがたいシリーズだからこそ第三部は難しいかもしれません。
レーベル的な限界もありそうです… この「真」の方にしても、(ストーリーの必然による)過酷な描写や性的な描写もかなりあるために「ティーンズハート」レーベルでは既にキツい部分はありましたが、第三部にあたる話はあとがきからするとさらに厳しい物語になりそうですし。
それでも、もしできるなら、第三部を読んでみたいです。
おもしろい作品なのですが、無印の方の「運命のタロット」シリーズは現在絶版で、そちらを読まないと「真・運命のタロット」シリーズもよくわからないので、新しい人になかなかオススメしにくいところが辛いところ。
でも、もし古本屋や図書館でまとめてみかける機会があれば、手にとってほしいなあと思います。
「運命のタロット」シリーズでは、3冊目あたりからがグッとおもしろくなります。
ネタバレ感想→まさにエンドレスラブ、ですね。
ずいぶん前から予想されていた大河=《魔法使い》でしたが、私にとっては頭ではわかっていても気持ち的に受け入れがたいものがありました。《魔法使い》は好きなキャラでしたが、大河はそれほどでもなかったので。唯がらみのエピソードで「大河酷い〜」と思ってしまったのと、大河(兄時代)のうじうじして空回りしているところが好みじゃなかったためですが。
あと大河と《魔法使い》の性格の違いのために、両者をイコールで結ぶとしっくりこない感じがしたのもあります。
でも、大河は一番大切な思いだけを持って転写したからこそ、《魔法使い》になったのだなあ…と今回のラストでしっくりきました。逆に大河があれだけ足掻いたからこそ、《魔法使い》はあれだけ大胆で尊大な性格になったのかなあ、とも。

ただ。《魔法使い》は最終巻に出番ないまま、《皇帝》の象徴の力は分らないまま。そういう意味では物足りなかったです。他にも見たかったシーンは色々とありますが… たとえば、
・《女帝》と《皇帝》の結婚式を見たかった。
・《死神》の《愚者》に対するこだわりは? 《死神》=片桐さん説がありますが、あの片桐さんが《死神》になったのだとすれば、一体どんな体験でああいう風に考えが変わるようになったのか…
・《愚者》はなぜ《皇帝》を殺すことになったのか?
・田村さんの昏い願い。彼女のその気持ち、わかる部分もあるだけに、その後の彼女がどんなことをしでかすのか、それも見てみたかったです。
・香港でライコの下半身から回収されのが《世界》ぽいですが…《世界》を生み出すのは《女教皇》なんですよね。どうやって?
・《世界》の誕生による世界の消滅を回避はできないのか。
他にもまだまだわからないことだらけなので、できることなら続きを読みたいです。


●「百器徒然袋―風」京極夏彦[講談社ノベルス]1300円(04/07/09)  →【bk1】【Amazon】

「百器徒然袋 −雨」に続く、探偵神・榎さん主役の、京極堂シリーズ番外編の二冊目。
今回は「五徳猫 〜薔薇十字探偵の憤然〜」「雲外鏡 〜薔薇十字探偵の然疑〜」「面霊気 〜薔薇十字探偵の疑惑〜」の3編が収録されています。
京極堂シリーズ本編が、京極堂による憑き物落としだとすれば、この中篇シリーズは榎さんによる閉塞した状況の粉砕が愉快な作品です。「悪いやつ」がはっきりしているためか、京極堂も本編ほど苦悩せずに生き生きと悪巧み(?)していて。読後感がすっきりしています。
今回収録の三作のうち二作はすでに読んでいました。「五徳猫」に関しては、「メフィスト」で読んだときの感想をメモしていますが、2001年4月… もう3年も前ですか。「雲外鏡」はこれを読むために週刊アスキーを買い続けた記憶が。未読だったのは「面霊気」だけでしたが、昔の作品は記憶があやふやだったこともあって、新鮮な気持ちで楽しむことができました。京極堂シリーズに興味はあるものの、あの分厚さに手を出しかねている人は、このシリーズの前作「百器徒然袋 −雨」から読むことをオススメします。愉快だし、中篇だから読みやすい話ですし。
榎さんが歯止めがきかなくなる原因(?)となった「大磯の事件」こと「邪魅の雫」、早く読みたいものです。いつになるかなあ…
微妙にネタバレ感想→怪盗にゃんこ仮面(違)に爆笑でした。本当に楽しそうだ、榎さん… よくよく考えてみなくても、にゃんこ!!と叫ぶ30男はアレですが、でも榎さんですからすべてが許されます。シリーズが進むに連れてのキャラの壊れ率、一番高いのは益田さんではないかと。最初はあんなキャラではなかったような気がするのですが… すっかり染まってしまった、ということなのかも。
このシリーズおなじみの同音意義語、最初のは"猫"と"寝子"はわかりましたが、後の二つがわかりません。最後のは物理的にかぶるお面と精神的にかぶるお面で字は同じだけれども意味が違う…ということなのでしょうか?


●「トンデモ本? 違う、SFだ!」山本弘[洋泉社]1500円(04/07/08) →【bk1】【Amazon】

「と学会」会長であり、SF作家である山本氏の書いた、おもしろSF紹介本。
SF的要素を持った映画やアニメがヒットしていても、SFと冠すると本は「売れない」と言われているそうです。そこでSFを知らない人にSFのおもしろさを伝えようと、作者にとってのSFの定義「SFとは筋の通ったバカ話である。」を基準に、設定や展開に「ワンダー」の感じられる作品セレクトして紹介。
私にとって紹介作品の大半が未読のためか、「こんな小説があるのか」とわくわくしながら読みました。ただ、この本の問題は紹介文自体がおもしろいために、それを読んだだけで「おもしろいものを読んだ」と満足してしまったところでしょうか… もう一度読み直して、興味を惹かれた本はリストアップしてみようとは思っていますが。


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