00年10月に読んだ本。   ←00年9月分へ 00年11月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「生存者、一名」歌野晶午[祥伝社文庫]381円(00/10/31)

またまた祥伝社文庫の「無人島」テーマの書き下ろし中編。
都内でテロ活動を行ったある宗教団体の信者たちは、ほとぼりを冷ますため、無人島に降り立つ。そして幹部の1人が消え去り、孤島に閉じ込めれた真相を知った残りの人たちは、わずかな可能性をかけて生き残るために…
孤島での連続殺人事件。ミステリです。展開自体はわりと先が読めるのが難。でも、値段分は楽しめました。


●「なつこ、孤島に囚われ。」西澤保彦[祥伝社文庫]381円(00/10/31)

これまた祥伝社文庫の書き下ろし中編、「無人島」テーマの作品。
SF設定のミステリでお馴染みの西澤さんですが、今回はバイセクシャルでお笑いレズビアン小説作家の森奈津子が主役のバカミステリ。
奈津子は気がついたら無人島の豪華な別荘の中に一人いた。快適な虜囚生活は、隣にある島での殺人事件で終りを遂げたが…
動機の部分がなんだかなーと思いつつも楽しく読ませてもらいました。でもこの小説には主役の森奈津子をはじめとして、実在の作家さんが出演していますが、みんなあんな感じなんですか?…というか、倉阪さんが黒ネコのぬいぐるみを持ち歩いているのかが知りたいものです。


●「この島で一番高いところ」近藤史恵[祥伝社文庫]381円(00/10/31)

祥伝社文庫の書き下ろし中編小説の「無人島」でテーマ競作をしたもののひとつ。
この方は、「凍える島」での表現が繊細できれいで気に入ったので買ってみました。
夏休み、5人の17歳の少女たちが無人島に定期船で遊びにきた。泳ぎつかれて寝てしまって、帰りの船に乗りすごし、無人島で一晩を過ごすことになってしまう。しかし、その島には彼女たち以外の男がいて…
分類としてはホラー? ミステリとしてはちょっと弱いかも。ホラーとしても展開が物足りないものはありますが、少女から大人に変わる季節にある、様々な少女たちの描き方がうまいですね。透明な美しさを感じる文章も素敵でした。


●「puzzle パズル」恩田陸[祥伝社文庫]381円(00/10/30)

祥伝社文庫の15周年書き下ろしは、豪華なラインナップ。好きな作家さんのが多くて、つい8冊買っちゃいました。
このラインナップは、中編ということで薄いし文字は大きいのでサクサクと読めます。お手軽でいいかも。
恩田陸の書き下ろしは「無人島」というテーマでの競作の1つ。昔はにぎわっていたが今は廃墟と化した無人島。そこで不思議な三つの死体が発見された。彼らはみな手に記事の切り抜きを持っていた。彼らにどんな接点があったのか、島にやってきた二人の検事が探っていくが…
設定はミステリで、展開もミステリなんですが、この作品がかもし出す空気をミステリという枠で収めるのはもったいないような感じ。人の空気は残している廃墟や、嵐の一夜の昏くも美しいイメージが素敵。
今年は恩田陸の小説が山のように読めて幸せだなあ。次は「上と外3」かしら。


●「ファイアストーム 火の星の花嫁」秋山完[ソノラマ文庫]500円(00/10/30)

「ペリペティアの福音 下〜聖還編」で大好評を博した秋山完さんの新刊。それにしても今回の作品も発行ラインナップに入ってから何か月延期されたことか。「ペリペティアの福音」と違って続きものじゃないから待つのはまだ気楽でしたが。
地球から火星に人が移り住んで数百年。地球といつしか連絡がとれなくなった火星では、乏しい資源とさほど高くない科学技術をやりくりしながら、なんとか人々は生きてきた。交易飛行船〔チキサニ〕の連絡機のパイロット・カズマはセーガニア帝国の戦闘機に追われ、二酸化炭素が充満する渓谷に不時着する。そこで彼がであったのは、伝説の魔女だった…
ティストは違うものの、これも「懐かしき未来」シリーズの一作。このシリーズっておとぎ話めいたところがあるけど、今回はSF色が強いです。
いつもながら、イメージがすばらしいです。特に荒野を旅していく庭師のイメージには泣けるものが。その分、カズマやマリナはちょっと描きたりないかなあ、と思うところもあります。
秋山完さんはイメージの美しさと「泣かせ」が見事な、私のごひいき作家さんです。どの話から読んでも大丈夫ですが、「リバティ・ランドの鐘」あたりが初心者向けかと。「ペリペティアの福音」はアイデアの独創性が光作品で傑作ではありますが、ちょっと独自色が強すぎて分かりにくいところがあるからねぇ。


●「星のパイロット4 ブルー・プラネット」笹本祐一[ソノラマ文庫]495円(00/10/27)

「星のパイロット」シリーズ最新刊。これは未来の地球を舞台に、弱小宇宙開発会社を舞台にした、スペースロマン。今の路線の延長にある、リアルな宇宙開発の描写がおもしろいです。
今回は、車椅子の毒舌ミッションディレクターのマリオと、若いながらもJPLのドクターであるスウがメインの、地上での情報戦。地球型惑星を探索するために密かに打ち上げられた観測衛星からのデータを盗みだした二人。そして彼らがみつけたものは…
前作にもまして専門的な濃い話になってましたが、このシリーズを順番に読んでいればそれなりに理解できるレベルではないかと。マリオとスウはお気に入りのコンビだし、個人的には結構おもしろかったです。
このシリーズは最初から読まないとかなり意味不明です。話としては、一作目はちょっと…ですがが、二作目の「星のパイロット2 彗星狩り」が非常におもしろい。宇宙開発だとか多少の専門用語にアレルギーさえないなら、読むだけの価値はある作品です。


●「R.O.D 第二巻」倉田英之[スーパーダッシュ文庫]514円(00/10/26)

「R.O.D」の続編。紙を武器にして戦う、大の本好きのメガネ娘のアクションモノ。バカ設定です。
今回のテーマは「本屋でダイハード」。アクション部分に関しては主人公が相対する状況が危機とはいえない程度のヌルいもので、その意味では物足りないものが。でもまあ、これはバカ設定を楽しむ作品だと思うし、私も本が好きだから許す。
地上40階立て、ホテルまで完備した本屋…いいなあ。


●「銀河郵便は"愛"を運ぶ」大原まり子[徳間デュアル文庫]648円(00/10/26)

1984年に出された作品のリニューアル出版。前から噂には聞いてたシリーズなので気になって。
イルは銀河郵便の配達人。その彼の相棒クラムジーは男女可変タイプの美貌のセクサロイド。女性人格を持った宇宙船のマヤとドタバタ旅行がはじまるが…
女性向けキャラ萌え小説(しかもすこしホモくさい)に近いティストですが、根本はSFの連作短編。読みやすいし、キャラもいいし、結構おもしろかったです。それほど古さも感じられなかったし。でも、イルとクラムジーの微妙な関係はこのままどこに行くんでしょうか。イルにしても、グジグジ悩むよりも行動に移せ、って感じですが。続編もこのラインナップからでるそうで、楽しみ。


●「双色の瞳2 ヘルズガルド戦史」霜越かほる[スーパーダッシュ文庫]495円(00/10/25)

とても楽しみにしていた「双色の瞳 ヘルズガルド戦史」の続編。
未来世紀末的戦史モノ。未来、人類は自分達が撒いた毒の為に滅亡に貧していた。健康な人間がほとんど生まれない世界で、障害を全く持たない人たちは「選ばれし子」として帝国の臣民となり、将来を保証される。ウナは左右の瞳の色が違うという欠陥を色つきレンズをいれて偽ることで「選ばれし子」として帝都に迎え入れられた。保身のために自分のレンズを製作する目的でウナは軍に入隊することに。そして出世した彼女は近衛師団長として戦争に駆り出されるが…
剣も魔法もでてこないファンタジー。前作もわくわくさせる展開でしたが、今回にはマジでしびれました。前半の戦争シーンでの、敵も味方もサクサク(しかも人としての重みを持って)殺されてゆくあたりの描写が見事。主人公たちを甘やかすことなく、容赦なく窮地に立たせるし、作者の視線がベタついてないのがますます好み。
この話は、少女たちの描写がすばらしいんです。それぞれタイプは違うものの、みずからの知力と胆力と身につけた技量で壁を突破していくあたりが爽快です。男性キャラは女の子たちに比べると控えめですが、いい味を出してます。
世界に厚みを感じさせるのもいいしなあ。誉めてばっかりだけど、いいものはいいんだから仕方ない。
読後になんともいえない充実感を得ました。とにかくオススメ!! 未読の方は探してでも、ネットで注文してでも読む価値があります。
続きがますます楽しみですが、しばらくはでないそうで残念。でも新作も楽しみ。


●「イミューン ぼくたちの敵」青木和[徳間デュアル文庫]819円(00/10/24)

第一回日本SF新人賞・佳作入選作を加筆訂正したもの。買うつもりはなかったんですよ。でも緒方剛志さんの表紙イラストにつられて、ついふらふらと…
4月。高校に入学したばかりの祐ははみ出し者の不動と知り合い、友情を育む。しかし幸せな日は長く続かなかった。祐の母親が奇妙な死を迎え、その原因を探っていた二人が辿りついたものは…
人類を「汚染」する「敵」がいる。その敵を倒すための力を授かってしまった少年・少女たち。…このあたりまではありがちライトノベルズな設定ですが、この話のメインは「敵」がいなくなってしまった後の正義のヒーローたちが、人並外れた力とどうやって折り合いをつけていくか?というところ。日本SF新人賞だけども、SFというよりは青春モノという感じ。
タイトルとここまでのあらすじで残りの展開は読めちゃいますが、祐と不動の友情の行く末は切なくて、そのあたりは悪くはなかったと思います。個人的にはじーんときた部分もありました。
でもなあ。この内容でこの長さはちょっと。半分くらいに凝縮した方がよかったのでは? べたっと平べったい印象で、メリハリが感じられない。キャラ描写が浅い。日常生活部分はまだいいけど、非日常部分の描き方が弱すぎ。リジェネーターとのコンタクト場面はしおしおです。
なにより本のデザインが最悪。編集部の狙いは「ブギーポップ」と方向性が被っているからそのファン層にアピールするために緒方剛志さんを起用したのかもしれないけど、あまりにもティストが似たところがあるために、「エセ・ブギーポップ」な印象を与えてしまうんですよ。せめてブギーポップよりもデキがよければ二番煎じの印象を吹き飛ばせたんだろうけど、レベルが違いすぎる。…やはり上遠野浩平さんは稀有なセンスの持ち主なんだなあと実感。
この作者もこの作品は長いこと暖めていたそうで、ブギーポップとネタが被ったのは偶然なんだろうけど、それが不幸だったよね。せめてブギーポップよりも先に世の中にでていれば。…いや、イラストや装丁がブギーポップと逆の方向を向いていればまだ二番煎じの印象が和らいだんだろうけどなあ。緒方さんのイラスト自体はよかったんだけどね。かばんとか、本文と内容が一部食い違ってましたが。そのあたり、編集の方ももうすこしチェックをちゃんとしてほしいものです。


●「キノの旅II the Beautiful World」時雨沢恵一[電撃文庫]530円(00/10/23)

電撃大賞の最終選考に残った作品を加筆して文庫本化した「キノの旅 the Beautiful World」の続編。前作と同じく、子供のキノと話す二輪車エルメスとの不思議な旅を描いた物語。ファンタジーというよりはすこし苦い童話。
話の色合いは悪くはないけども深みがもうひとつ足りないかな。こっちに響いてこないから。総じて前作の方がよかったけれども、今回の中では「優しい国」が一番よかったです。
黒星紅白氏のイラストと、(ブギーポップシリーズなどのデザインも手がけている)鎌部善彦氏によるデザインによる、本のたたずまいが素敵。


●「冬の教室」大塚英志[徳間デュアル文庫]476円(00/10/22)

「多重人格探偵 サイコ」でお馴染みの大塚さんの書き下ろし新作。地球が氷河期に入り、世界中が冬に閉じ込められた世界の「東京」。千野は雪に閉じ込められた図書館でクラスメイトの人魚と会う。静かな死が日常化した世界で、千野は人魚に「夏をみせてやる」と約束するが…
「東京ミカエル」とコインの裏表となるような話。「東京ミカエル」が17歳の「夏の東京」の話だとしたら、この物語は18歳の「冬の東京」の話です。日常にこびりついて離れない死の匂い、連続殺人など血なまぐさいモチーフがでてきても、すべてを雪が覆い隠すかのようにこの話は静謐で詩的です。世界が少しずつズレていくような感じがいいなあ。結構お気に入りかも。
ただし、この話単独で読むと後半部分の展開が意味不明です。先に「東京ミカエル」(マンガ。大塚英志+堤芳貞 角川書店からでています)を読んだ方がいいんじゃないかと。また、「東京ミカエル」を読んだ人はこの本を読むと「17歳の儀式」の裏側がわかります。
大塚英志さんを全く読んだことない人は、角川スニーカー版の「サイコ No.1情緒的な死と再生」から読むことをお勧めします。これが一番デキがいいし、単独でも分かりやすいので。血なまぐさいけれども乾いててスカスカしてて、ひんやり冷たい感じがいいんですよ。
それしても、この作者にしてはあとがきが丸いですね。本が予定どおりでたというのもすごいが。やはり編集者の腕かしら?
あと、鶴田謙ニさんの物語を包み込むような表紙イラストがすばらしい。


●「エンジェル・ハウリング1」秋田禎信[富士見ファンタジア文庫]460円(00/10/22)

「魔術士オーフェン」シリーズでおなじみの秋田禎信の新シリーズスタート。話はシリアス一辺倒。しかも血なまぐさいです。今回の主人公は、「絶対殺人武器」…殺し屋として育てられた女。彼女がひとりの男を追っているが、それは…
一冊が完全にプロローグ。ストーリーの謎がほとんど明かされてないせいか、もうひとつ盛り上がりにかけるかも。悪くはない作品ではありますが、平均的なライトノベルズであって、突き抜けたところがないからね。まだ一冊目だから仕方ないだろうけど。とりあえず、今後に期待ということで。


●「機甲都市 伯林2 パンツァーポリス1939」川上稔[電撃文庫]630円(00/10/20)

都市シリーズの第二部、「機甲都市 伯林2 パンツァーポリス1937」の続編。あの「疾風事件」から2年、独逸は「機構都市化計画」が着実に侵攻しつつあった。一方、ヘイゼルとベルガーは再び伯林で落ち合う。そしてまた新しい「救世主」に関する予言が…
ヘンなお話をたまに出版する、懐が深い電撃文庫でもトンガリ方はまず間違いなくこのシリーズが一番でしょう。名前は現実と同じものの、全く別の存在である都市を舞台に巨大ロボットやら予言やら風水やら自動人形やら、そんな独自設定が炸裂している話。私はシリーズ一作目「パンツァーポリス1935」「閉鎖都市 巴里」しか読んでないせいか、わからない部分がかなりあります。でも戦闘シーンとか、ケレン味があっていいんだな。今回初登場のアルフレートがカッコいいです。血も涙もない美形様で、強くて素敵なの。
終盤に出てくる、「世界」に関する話のスケールが大きく、次作が楽しみであります。
このシリーズはとりあえず順番どおりに読むがいいかと。でも一作目はあんまりおもしろくないよ。あと、「巴里」は傑作であります。


●「【ITバブルの内幕】光通信の天国と地獄」氏家和正[道出版]1400円(00/10/20)

2000年に24万円の値をつけ、そして10月の現在には1/100になっている、光通信の株値。この光通信の凋落を野次馬的に眺めてたんですが、ちょっと実体を調べるとなぜあの程度の力しかない企業があんな高値をつけたのか、どうしても理解できなかったんです。そういうことに興味があったので、この本を買いました。
光通信をメインに、30代後半の「ジュリアナ世代」…バブルのうまみは体験したがバブル崩壊時に責任ある立場にいなかったために挫折感は持ってない、強気の世代…によるベンチャービジネスの光と影。経過や背景をわりとすっきりまとめてくれたのでよくわかりました。でも、なぜあんな高値になったのかは分からないまま。みんな、「実力以上に評価しすぎ」だと思っていても「自分だけはババは引かない」と思って究極のババヌキに参加してたのかな。
感想として「資本主義って汚い」っていうのはあまりにコドモかしら。実体のない企業を偽装して上場させて多額のキャピタルゲインを得て、「売り逃げ」しようとするのは卑怯で汚いと思うけど、それって「資本主義」としては許せる範囲なんでしょうか。…まあ、どこの会社だってあまり大きな声で言えないことはしてるだろうけどさ。
「経済のニュースが面白いほどわかる本 日本経済編」によると、経済の9割を物の売り買いのようなものがない、通貨や株のとりひきのような「マネー経済」が占めているんだとか。そういうとらえどころのないものが命綱を握っているというのが薄ら寒く覚えてしまうんです。モノ作りが根っこにあった方が安心できるなー。「田宮模型の仕事」とかワクワクが伝わってきて楽しかったもの。
この本、5年あとに読んだらどうなるかなあ。おそらくこの本にでてきた企業のうち、生き残っているのはそれほど多くないと思うけど、どうなるかな。


●「グイン・サーガ75 大導師アグリッパ」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(00/10/19)

「グイン・サーガ」シリーズ最新巻。前半は伝説の魔道士アグリッパに会いにいったヴァレリウスの話で、後半がナリスのお話です。このシリーズの謎の根幹にかかわる話に。このあたりはSF。まあ今までも細々とネタバレしてきたのでとりたててサプライズはないんですが、話のスケールがデカくなりすぎると陳腐さを感じてしまうのはどうしてだろう。見せ方の問題?
あと、すこしひっかかるのが、ヴァレリウスがなんだかんだいいつつも話についていったことかな。だって、この世界の文明レベルでは、「惑星」や「宇宙」という概念があること自体が不思議なんですが。そのあたりも魔道がらみで研究が進んでて、一般市民はともかく、魔道士あたりではごくあたり前の知識となっていたのかなあ。
あとがきは何かと話題になりそうですね。栗本さんが「中傷されている」と思ってる会議室ってNIFTYのFSF2の「グイン・サーガ」会議室ですか? あそこ私もずっと読んでるけど、そんな作者の人格批判みたいなことってあったかな… まあ、第三者からみると全然大したことなくても、当事者にはキッついことはよくありますが。
まあ2ちゃんねるは論外としても、Niftyは誰が発言したのか特定できるんだし、あれを匿名というのは違うような… インターネットでは誰の名前を語るのも簡単ですから、名前があれば匿名でないとは言えないですし。個人的には、きちんと確立しているネット人格でメールアドレス明記であれば、記名であると言えると思っていますが。まあこのあたりの話はまた日記ででも。
でもね、あとがきで「ヤオイ」とはしゃぐのはみっともないとか、(笑)(爆)の多用はバカに見えるあたりが元々ヒンシュクかってたわけで。作者の近くで誰か忠告する人いないんだろうか、と思うんですが…


●「青春残酷物語」菅野彰[新書館ディアプラス文庫]560円(00/10/18)

ボーイズラブ、読みきりです。菅野彰さんは好きな作家さんなので、みつけて即ゲット。
大学の美術講師をしている哲朗の元に、10年ぶりに晴親がやってきた。彼はアイドル俳優でダイコン役者だったが、ふたりは高校の同級生で17歳の頃はとても微妙な関係だった。実は晴親は逃亡中で哲朗のもとに逃げ込んだのは、人を刺してしまったせいだという。哲朗は晴親をかくまうハメになってしまったが…
菅野さんの作品には、繊細で傷ついた不器用な子供が、少しずつ世界と折り合いをつけていって愛することができるようになる…というモチーフが繰り返しでてくるんですが、今回は不器用な子供たちが年齢を重ねることで「大人」にはなったけれども、昔の傷をどこか引きずっている…という感じです。最初の展開で今回のはコメディかと思ったんですが、かなり重い話に。でも作者に迷いがあって答えがでてないのかな、読後にもうひとつ割り切れないようなものが残ります。ちょっとすっきりしない。
足元に凍えるような水の冷たさを感じるような、ふたりが17歳の頃の描写が見事。
エミのような、図々しくも憎めない女の子をかかせるとうまいんですよねぇ。添田さんもいい味だしてます。


●「双星記2 世界の彼方の敵」荻野目悠樹[角川スニーカー文庫]600円(00/10/18)

「双星記1 千年に一度の夏」の続編。ちょっと軽めのスペースオペラかな。
今回は攻めてきたベルゼイオン軍がヴェルガスの宇宙基地を占領するあたりまで。
うーん……歯車が全部悪い方向に回ってるような感じ。話自体に新鮮味が感じさせないし。分量のわりにキャラが多いので、ひとりあたりの描写が薄っぺらくなってる。覚えられないし。あんまり意味のないキャラもたくさんいるような(それとも後で全部きちんと噛み合ってくるの?)。
宇宙戦のあたりはおそらくリアルな方向を目指してるんでしょうが、設定まわりの作り込みが甘くてなんかしっくりこない。この作者はSF向いてないんじゃなかろうか。
リュウガサキ提督なんかは荻野目さんらしいキャラでいいですな。
やっぱりこの方には、徹底的にイジめられる主人公と、ひどい扱いを受けるヒロインのでてくるファンタジーを書いてもらいたいな。…っていうか、ぜひぜひ「六人の兇王子」の続きを〜。コバルトではよっぽどの人気作じゃないかぎり、一度中断した話の続きを出すのは難しいだろうけど、読みたいんだよね…


●「ミューズに抱かれて」中井由希恵[集英社コバルト文庫]495円(00/10/14)

2000年度ロマン大賞入選作。音楽モノです。
指揮者を目指す笙は、フランスに留学し、音楽院に在籍することとなった。そこで生意気だが天才ヴァイオリニスト・フランシスと出会い、友情を育むようになる。異国で苦労しながらも才能を開花させつつあった笙だが、フランシスの父親の二人を引き裂こうとする陰謀のせいで…
あらすじと表紙の割にはホモくさくないです。男同士の熱い友情が炸裂してますが、イマイチ色気が足りないせいかも。
よく調べてあって、音楽モノとしてのウンチクは結構楽しめます。ただ、キャラ造詣がなあ…主役が清涼飲料水のようにさわやかでいい人すぎて、歯ごたえがない。親友も、「天才ヴァイオリニスト」で「大企業の御曹司」でその上、天才で経済にも通じているとか…なんですか、少女の典型的妄想にありがちなスーパーマン設定は。まあ、コバルトだから許容範囲ではありますが。
あと、文章では視点の乱れが激しいのが気になりました。
なんだかんだ文句をつけつつ、一気読み。素質は悪くないので、書き続けて慣れると化けるかもしれません。同じシリーズの続編が出たら読んでみるかも。


●「竜が飛ばない日曜日」咲田哲宏[角川スニーカー文庫]514円(00/10/14)

第4回角川学園小説大賞の優秀賞受賞作品。この賞は第一回の大賞と優秀賞の作品があまりのデキだったので、全然読んでませんでした。でもこの作品はネットで評判がよく、あらすじに惹かれるものがあったので購入してみることに。
貴士はある日の夜、見なれないものを空にみた。それは神話にでてくる竜の姿そっくりだった。そして気がつけば、周りの人にとっては竜は当然の存在で、その竜を崇拝し、竜に生贄として捧げられ、食べられることを無情の喜びとしていた。ひとり違和感を抱える貴士は、同じく世界のズレを感じることができる瑞海とこの謎を探っていくが、《捕食の儀式》は次の土曜日に迫っていた…
世界がズレたことを知ってる自体が異端であり、生存を脅かされる恐怖。アイデアもいいし、キャラの描き方もなかなか。世界の閉塞観と学校の息苦しさがうまくリンクされている。
一読の価値はある作品かと。でも、これだけかければ、「角川学園小説大賞」だと大賞受賞できるレベルなんじゃないかな?(少なくとも第一回と比較すると) それが優秀賞にとどまったのは、改稿前の作品によほど破綻があったのか。編集部の手柄でもあるわけですな、改稿して成功したのは。


●「上と外(2) 緑の底」恩田陸[幻冬舎文庫]419円(00/10/12)

「上と外」待望の2巻。文庫書き下ろしの隔月発行のシリーズで、5巻で完結とか。薄い本が少しずつでるのはじらされるようですが、それもそれで楽しいし。
さて、前回とんでもないところで終わってしまいましたが、今回も気になるところで切れちゃったなあ。二か月後が待ち遠しいです。
でもこの小説、どの方向に行くんだろ。リアルから幻想世界へシフトしていくような感じになるのかな。「月の裏側」みたいに。錬と千華子のパートではサバイバル小説としてのおもしろさも。日本待機組の動きが今のところは余分に感じるんですが(エピソードとしてはもちろんおもしろい)、これがまた本筋に合流するんでしょうか。とにかく、これから先の展開が楽しみです。


●「狼と銀の羊 足のない獅子」駒崎優[講談社X文庫ホワイトハート]530円(00/10/11)

発売がとても楽しみだった、「足のない獅子」シリーズの最新刊。今回はなんといっても愛しのジョナサンがメインのお話ですし。
中世のイギリスを舞台に、沈着で頭脳派ながら優しさのあるリチャードと、豪胆で気のいいギルフォードのやんちゃな騎士見習いの二人の青年のささやかな日常の冒険談。剣も魔法もでてこず、かといって歴史ものというほど堅苦しくなく、英雄談でもないお話なんですが、なんか好きなの。
今回は、教会がらみのお話。頭がキレて口がうまくて、腹黒な司祭・ジョナサンの兄がスキャンダルに巻き込まれたため、ジョナサンにまで追求の手が伸び、ジョナサンを追い落とそうとする勢力が…という話なんですが、この程度のことじゃ全然うろたえもしなきゃ弱りもしないあたりがジョナサンらしくて素敵でした。ジョナサン兄は天然ボケ。ジョナサンと兄の仲の悪さもツボっす。でも、そんなジョナサンがなぜヨーク司教にだけは心からの信頼を寄せているのか、それが知りたいですねぇ。単に出世のためにとりいってるだけかとてっきり思ってたので、不思議なの。一体どういうきっかけで、あのジョナサンが懐いたのか。逆に、ヨーク司教もジョナサンがどういう人となりなのかわかった上で気に入っているというのも。このふたりの番外編をぜひぜひ書いてほしいなー。
ハデな部分はない作品ではありますが、続きが楽しみなんですよね、このシリーズ。猛烈にプッシュするほどではないですが、もし気になるようなら読んでみてくださいませ。今のところはどれも一話完結なのでどこから読んでもいいですが、できれば最初から。三冊目はかなりおもしろいです。個人的にはバカウケしました。


●「四月の魚」正岡豊[まろうど社]2000円(00/10/11)

「活字倶楽部」で枡野浩一がオススメしてたので、bk1で注文してしまいました。注文から三か月かかったよー。忘れた頃に届くなあ。
作者が10代後半から10年間作り、そしてやめてしまった短歌集。
透明で硬質なガラスのような、ひんやりとしてキラリと光るものが感じられる作品です。なかなか。

みずいろのつばさのうらをみせていたむしりとられるとはおもわずに


●「炎の背景」天童真[創元推理文庫]720円(00/10/11)

数年前に映画にもなった「大誘拐」がおもしろかったので、機会があれば他の作品も読んでみたかったんです。
1976年に書かれた作品の新装文庫版。家出をしてヒッピー(時代が感じられます)をやっている兵介は、酔いから目を覚ますと見知らぬ山荘にいた。そこには見ず知らずの少女・久留美と、男の死体が。陰謀で殺人犯に祭り上げられてしまった二人は、二人を閉じ込めていた山荘が爆破され、炎に巻かれながら脱出して…
時が経ちすぎたゆえ、古びた感じが受けるのは仕方がないことではありますが、それを差し引けば追われつつの二人の逃避行はなかなかハラハラさせるものがあります。
でも「大誘拐」に比べると見栄えはしないかな。「大誘拐」は同じ創元推理文庫から出てるそうですので、未読の方はぜひ読んでください。痛快な狂言誘拐劇です。


●「回転翼の天使 ジュエルボックス・ナビゲーター」小川一水[ハルキ文庫]720円(00/10/10)

「イカロスの誕生日」と同じように、空の物語です。
フライトアテンドを目指していながらすべての採用試験に落ちてしまった伊吹は、なりゆきから地元の小さなヘリコプター会社「ジュエルボックス・ナビゲーター」社に就職するハメに。そこでは「地ベタ9割・空1割」の泥くさい雑用ばかりだった。希望していた仕事とのあまりの違いに、キレてしまった伊吹だが、ある事件をきっかけに…
熱い。いいですなあ。民間ヘリでの私設レキスュー的な話なんですが、登場人物たちの魂の熱さにシビれます。現実の齟齬や環境問題など話に広がりを見せながらも手堅くまとめていて。
「ちゃらんぽらんに見えて熱血男」のヘリパイロットの巧と、参謀的な頭のキレを見せる総一郎との出会いのエピソードなんか泣けます。惜しむらくは、ライトノベルズ的にはこの二人のキャラ立てをもっと早い段階でくっきりと行う(外見に関する描写や、キャラの性格を端的にあらわすようなエピソードを冒頭で入れるとか)ようにすればもっとふたりの関係に萌えなんですが。伊吹の肝っ玉姉ちゃんぶりもいい感じ。
続編熱烈希望。話としては、この3人は仲間的絆を深めてほしいですな。恋愛関係にはしてほしくないです。今の距離がいい感じなので。


●「火蛾」古泉迦十[講談社ノベルス]880円(00/10/1)

第17回のメフィスト賞受賞作。メフィスト賞ってとんがりすぎちゃって「まず小説としてどうよ?」と言いたくなるような作品もありますが、ここ数回はわりといいのが続いてたので今回も買っちゃいました。
舞台は12世紀のイスラム世界。行者アリーは修行の旅にでかけた途中、導師ハラカーニーに出会い、彼の元で修行生活に入る。今までの信仰を見つめなおす苦しい日々の中、同じ導師の元で修行中の行者が次々と謎の死を遂げるが…
話のほとんどが宗教問答ですが、詳しい説明があるので理解に苦しむことはないです。でもこの手の作品の場合、分かりやすさが必ずしも魅力ではないからなあ。もっとこみいった方が、濃い雰囲気を出せたのに。
ミステリとしては、「HOW」についてはさほど大したことないです。「WHY」の部分と最後のどんでん返しはまあまあかなあ。こういう落ちならば、もっと酩酊感を誘うような文章であってほしかった。何度も書くけど、読みやすいのがある意味問題かと。 メフィスト賞としては、それほど異色でもないし、正統派としてデキがいいわけでもないし、ちょっと中途半端な感じがしました。


●「おもいでエマノン」梶尾真治[徳間デュアル文庫]762円(00/10/1)

1983年に出された作品の新装刊行。「クロノス・ジョウンターの伝説」はおもしろかったし。
「NO NAME」をさかさまに呼んで、「エノマン」と名乗る少女は、地球上に人類が発生した頃からの生き物のすべての記憶を持つ少女。世界中を放浪する彼女とであった人たちのある時切なく、ある時悲しい物語。
よくできてる作品だと思うし、「名作」と呼ばれているのもよくわかるんですが、個人的にはどうもエノマンにもうひとつ共感が持てなくて。男性が思い描く理想のマドンナという印象を持ってしまったせいかも。SFとしてのネタでは、この当時に読むと新鮮な驚きがあったんでしょうが、7年たつと色あせてしまったのはこのジャンルの持つ宿命なんでしょう。
鶴田謙ニさんのイラストはかなりよいです。


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