02年02月に読んだ本。 ←02年01月分へ 02年03月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「図書室の海」恩田陸[新潮社]1400円(02/02/23) →【bk1】
恩田陸のノン・シリーズの短編集。
「春よ、こい」「茶色の小 びん」「イサオ・オサリヴァンを探して」「睡蓮」「ある映画の記憶」「ピクニックの準備」「国境の南」「オデュッセイア」「図書室の海」「ノスタルジア」収録。
「ピクニックの準備」と「図書室の海」は書き下ろし。
「睡蓮」は「麦の海に沈む果実」の理瀬の幼年時代の話、「図書室の海」は「六番目の小夜子」の番外編となる話です。
執筆依頼の関係で、ホラー寄りの作品が多く、ほんの少しSF気味かな「恩田陸ワールド」はたっぷりと味わえる1冊ですが、でもわりとあっさりしているので、恩田陸初心者には物足りない本かもしれません。まとまったお話よりも長編の予告作品の二作の方がイメージの広がり方が好きだったりします。いつか読めるはずの本編を想像してうっとり。楽しみにしています…とはいっても、恩田さんってオーバーワークぎみだからもうすこし執筆ペースを落してほしいものですが。
●「君の鳥は歌を歌える」枡野浩一[角川文庫]590円(02/02/22) →【bk1】
1999年に単行本で出版されたものの文庫版。単行本も持っていたけれども、これはお気に入りの本なので持ち歩き用として購入。
歌人・ 枡野浩一さんが、映画・小説・芝居・マンガなどを元にエッセイを書いて、そのエッセンスを31文字に凝縮。単行本が出た当時、表紙の鮮烈な色に惹かれて手をとったんですが、それが私にとっての枡野さんとの出会いでした。それから本が出るたびに購入している作家さん(歌人ですが)一人となっています。
浸透圧が低くてさらりとこちらに流れてこんでくるけど、味わいのあるきれいな水という感じで。そこが好き。
ちなみに文庫版には「バトル・ロワイアル」の高見広春の解説が載っています。あの作品が世に出るきっかけになったのは、枡野さんが書いた文章だったという縁があるそうで。そういえば、高見さんの新作っていつ出るんでしょうねぇ…
●「大密室」有栖川有栖/恩田陸/北森鴻/倉知淳/西澤保彦/貫井徳郎/法月綸太郎/山口雅也[新潮文庫]667円(02/02/22) →【bk1】
1998年に出版されたミステリーアンソロジーの文庫本化+西澤保彦の書き下ろし。タイトルどおり、「密室」をテーマにした競作。メンバーが豪華だし、私も密室好きなので購入。
おもしろかった。それぞれのメンバーのカラーがうまくでています。密室をテーマにした短編だけではなく、密室についてのエッセイ付き。
恩田陸の「ある映画の記憶」は短編集「図書館の海」に収録されてますが、エッセイの方ははいってません。
ミステリファンには文句なしにオススメの本。
●「オール・スマイル」榎田尤利[太陽図書SHY NOVELS]860円(02/02/18) →【bk1】
リーマン・ボーイズラブもの、アズマリシリーズ、「ソリッド・ラブ」)「レイニー・シーズン」に続く三冊目。
社会人になって三年、付き合いだして2年の吾妻と伊万里。あいかわらずラブラブの二人だったが、吾妻は自分が伊万里と対等ではなく、守られているような感じがして反発を感じていた。ふたりは微妙にすれ違いだしたが、ある日伊万里が原因で吾妻がひどい目にあってしまう。吾妻を傷つけたくない伊万里は別れ話を持ちだして…
ドーベルマン×柴犬なカップルのお話。ボーイズラブで「男同士だから対等でいたいんだ」と思う受と、守ってあげたい攻の間で齟齬があって…というのは定番ネタですが、それに大きな事件もからめてうまく話を盛り上げています。おもしろかった。
メインカップルはともかく、王子沢くん!!! いやもう、今回はなんといっていいか… 彼は私にとってかつて激しく萌えたカップリングの攻と重なる部分もあって、余計に切ないです。王子沢くんの番外編希望!! かわいい彼氏でも彼女でもいいから作って幸せになってほしいものです。
あと、キワ様(♀)も相変わらずカッコよくて素敵。
●「悪魔のミカタ 魔法カメラ」うえお久光[電撃文庫]570円(02/02/17) →【bk1】
第8回電撃ゲーム小説大賞《銀賞》受賞作。
子供の頃「妹が宇宙人に攫われた」せいでどこか微妙になってしまった高校生の堂島コウ。ある日、彼の元にボンテージファッションの少女がやってきて「魂をよこせ」と攻めたてた。彼女は「悪魔」で「知恵の実」を使って望みを叶えた人間の魂をもらいにきたという。その「知恵の実」は様々な形体をとるが、今回のは「生き物をとった写真を傷つけると、その生き物を殺すことができる」魔法のカメラだった。悪魔は契約が履行されたことしかわからないので、その所有者を調べ上げ、知恵比べをして本人に認めさせて初めて魂をとることができるらしい。コウの学校で起こった不可解な事件がそのカメラのせいだとみなして、目星をつけて悪魔の少女はコウの家にやってきたのだが、コウは身に覚えがない。成り行きで少女の手助けをして所有者を見つける手助けをすることになったが…
設定からすると西澤保彦の「チョーモンイン」シリーズ(嗣子ちゃんシリーズ)を彷彿させるものがありますが、「万能に見えるが実はルール限定のゲーム」「謎と解明」「犯人との駆け引き」というミステリ部分は弱い。作者のあとがきによるとミステリとして書き始めたけれども、うまくいかずにミステリじゃないと開き直ったそうですし。
でも、とんでもない事件に巻き込まれて主人公が選び取った道の描写とかは結構いい。あらすじや口絵から受けるコミカルな印象に比べて根元は結構ダークです。
キャラでは舞原妹がいい感じです。
ミステリ的な駆け引き部分、初期設定をどれだけうまく使って物語に起伏をつけるかというのは努力すれば一定の水準になると思うので、次回作を書く時にはプロットの段階で徹底的に検討してくれると面白くなると思うんですが。
今後に期待。
●「ストレイト・ジャケット3 オモイデのスミカ 〜THE REGRET/FIRST HALF〜」榊一郎[富士見ファンタジア文庫]560円(02/02/15) →【bk1】
「ストレイト・ジャケット」シリーズ最新刊。
1899年。グレコ教授によって「魔法」が発見され、原理はよくわからないままではあったが経験則から様々に応用され、夢のエネルギーとして人々の生活を豊かにしていった。それから25年。魔法を使いつづけた人が突然魔族化し、彼らの暴走のために文明はほとんど滅びかけた。その事件から30年たち、魔法は忌み嫌われながらも文明復興のためには欠くことのできない存在となっていた。
無免許の戦術魔法士・レイオットは依頼を受けて田舎町に赴いたが、そこで待っていたのは半魔族の少女・カペルを殺すことと、10年前からいるはずの魔族を倒すということだったが…
3年半前のカペルとレイオットの出会いの話。ただし、前半のみです… 1冊で話が完結しないと知ってたら、下巻が出たときにまとめて読んだのになあ。
今回の話で、今まで疑問に思っていた「30年前の災厄の時にどうやって魔族を止めることができたのか?」の答えがかかれてました。なるほど、物理的な武器でもあるレベルを超えると魔族にも効果があるんですね。都市や人もろとも消失させなければいけないような恐ろしい方法ではありますが…
あの謎のじいさん、そして定説を覆すような魔族がでてくることから、物語の根本をなす謎のかけらは少しはわかるのでしょうか。
とにかく、下巻を楽しみにしています。
●「レディ・ガンナーの大追跡 上/下」茅田砂胡[角川スニーカー文庫]476円/514円(02/02/14) →【bk1(上)】/【bk1(下)】
「デルフィニア戦記」シリーズの茅田砂胡の別シリーズで、「レディ・ガンナーの冒険」の続編。
西部劇的な世界での冒険物語。そこでは人類の他に獣に変身することができる異類人類たちが生息する世界。人間は表面的には異類人類たちと共存していたが、一部では彼らを毛嫌いして排除しようとしている人たちもいた。
ウィンスロウ家の型破りなお嬢様・キャサリンは前回の冒険で出会った用心棒の一人・ベラフォードの姿を美術の授業で絵に書いた。しかし変身できるインシード(人間と異類人類との混血)は「ありえないはず」で、それを知った「人獣撲滅を目指す会」の魔の手が彼らに伸びるが…
前回にもちらりと出てきましたが、今回は「人種差別」のテーマ性が前面にでてますね。うーん、ちょっとですぎかも…
茅田さんは力のある作家さんだけにこの話も前作以上にパワフルにしあがっていますが、でも「デルフィニア戦記」などの圧倒的なパワーに比べると物足りないかも。話の長さのわりにはキャラが多くですぎで、その分一人あたりの印象度が落ちてしまっているし。
主人公のキャサリンは茅田さんのお話にしてはスーパーキャラではないんですが、まっすぐで勇敢なところはいい感じ。あとはボケボケでも生活にどっしりと根をおろしている強さとしたたかさがあるニーナも。
●「グイン・サーガ83 嵐の獅子たち」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(02/02/13) →【bk1】
「グイン・サーガ」シリーズ最新刊。あらすじ→グインはリンダと共に自分の部隊と合流した。グインはリンダをマルガへ送り届けるつもりであったがナリスの味方になるかどうかは流動的だった。イシュトの動きを読んだ上、グインは信用できないイシュトと共闘するつもりは全くなかった。一方イシュトはダーナムに到着してナリス軍の味方に加わって勝利する。そのあとマルガを目指した。イシュトは自分が何者かの罠に誘い込まれてパロの奥深く侵入したことに気がついていたが、ゴーラが時流にのるための賭けに敢えて乗った。またマルガ政府から自分が疎んじられていることもわかっていたが、悪いのはヴァレリウスでナリスは操られているだけだと思っている。マルガ近くまできて、マルコを使者として送りだし、マルガの真意を探ろうとした。イシュトが深酒をして野営した夜、突然スカール軍に襲われた。リー・ファの敵討ちに燃えたスカールとイシュトは一騎打ちをしたが、もみ合ううちに人気のないところに迷い込み、負けそうになってイシュトはひとり逃げ出した。追おうとするスカールの前にヴァレリウスが現れ、国際情勢のためにスカールを止める。激昂したスカールはヴァレリウスおよびナリスとの絶縁宣言をした。
ひとり逃げ延びたイシュトは自由に渇望を覚え、王位を捨ててひとり生きていこうと考えた。そのとき淫魔のユリウスが現れ、イシュトを誘い込んだのはグラチウスの陰謀だったことを教え、ナリスとリンダを誘拐することをイシュトに唆す。しかしイシュトは拒否。そこにヤンダルが憑依したレムスが現れ、自分に協力してもらうようにイシュトに要請。イシュトはヤンダルの術にかけられ、気を失った。ふたりはそのままどこかに消えた。←
今回はわりとよかったです。夢のシーンとか一騎打ちとか。グインがいると話が安定するし、終盤のイシュトには呆れながらもイシュトらしいなあと思ったり。でも悪者がペラペラと事情を喋るのはなあ…
あと… あとがきは毎回同じ話をぐるぐるしているだけだし、しかもアレだし、ない方がいいんじゃないかと思うんですが…
●「探偵ガリレオ」東野圭吾[文春文庫]476円(02/02/12) →【bk1】
1998年に単行本ででた本の文庫本化。楽しみに待ってた1冊です。
不可思議な謎を天才物理学者の湯川学が科学的に解決していくというミステリ短編集。
東野圭吾らしく「科学トリック」の部分がしっかりと描かれていて満足でした。でも、自分の知らない知識でトリックが成立していることが好きじゃない人にはおもしろくないかもしれません。高校で理系程度の知識があれば十分楽しめると思うんですが。
●「陰陽ノ京 巻のニ」渡瀬草一郎[電撃文庫]510円(02/02/10) →【bk1】
第7回電撃ゲーム大賞金賞受賞作「陰陽ノ京」の続編が1年ぶりにでました。平安時代を舞台にした陰陽師モノですが、主役は清明ではなく、彼の幼馴染にして弟子ではあるものの、文官の慶滋保胤。彼は鬼の心すら和ませてしまう不思議な力の持ち主。今回の話は、意識を失った貴族の家に呼ばれた清明の息子で陰陽師修行中の吉平がみたところ、貴族の「魂魄」のうち「魄」が体から離れてどこか遠くに漂っていた。吉平は魄の行方を追いかけてあばら家に迷い込んだが、そこにいたのは…
今回も安心して読めるデキ。イラストとデザインもすばらしい。
術合戦がパワーゲームじゃなくて、精神的駆け引きとして描かれるあたりがおもしろかったです。ただ、「ヒロインの存在意義は?」と思わなくもないけれども。
お子様コンビも微笑ましくてかわいいですが、清明や保憲、道満というようなオヤジキャラが味わい深くていいです。(ただし清明はタヌキっぽい中年オヤジですので、美形じゃないとイヤな人は読むべきでないかと)
前作を読まなくても問題は特にないと思います。
この作者だと、個人的には「パラサイトムーン」のシリーズの方が好きだったり。
●「短歌をよむ」俵万智[岩波新書]780円(02/02/09) →【bk1】
作者が古来から現代までの好きな短歌の魅力を解説したり、自作短歌がどのように推敲されてできあがるか、そしてこの現代に短歌をやりつづけるとはどういうことか…を、綴った本。
「サラダ記念日」がベストセラーになったのが87年、そしてこの本は6年あとの93年に書かれています。
私が俵万智の短歌を知ったのは「詩とメルヘン」という雑誌での短歌特集で、まだブレイク前のことでした。…この短歌特集で「寺山修司」を知ってズブズブにのめり込んだし、石川啄木の「命なき砂の悲しさよ〜」の句が巻頭を飾っていて衝撃を受けたとか、あれは忘れられない1冊でした。で、「サラダ記念日」は発売された当初に買って、今でも愛唱している句もいくつかあったりします。
第二歌集は買ったと思うけれども、それ以降はなんか離れてしまってました。今回この本を読もうと思ったのは、枡野浩一●「君の鳥は歌を歌える」でこの本の話がでてたから。あの「サラダ記念日」の歌にしても、簡単に作られているように見えても一首を完成させるのにどれだけ試行錯誤をしたか書かれている…と読んだので。
リズムや言葉のイメージを整えるためにあれこれ工夫し、どう「表現」するかを追及していくあたりの話はたしかにおもしろかったですが、心にひっかかったのは、表現を続けていく上でぶつかる問題の方で。
大人になり成熟していくならば表現もそれに伴って変わらざるをえない。いつまでも青いままではいられないから。自分の持ち味を損なわずに、どうやって変わっていくか… ジャンルは違いますが、昔に若さゆえの瑞々しさで売り出した作家が平凡な作家になっていくのとか、売れてはいるものの自己の縮小再生産に終始しているだけとか、いつの間にか消えてしまうとか、そういうのもたくさんみてきてるので、ついそれと重ね合わせて考えてしまうんですねぇ。この本を書いてから9年、どう気持ちがかわっていったか知りたいですね。エッセイ集でも探してみるか。
●「永遠の昨日」榎田尤利[笠倉出版社]857円(02/02/08) →【bk1】
というわけで個人的な榎田週間もこれで終わり。
高校生の満と浩一は友達以上恋人未満の微妙な関係を続けていた。ある朝、ふたりで登校していたときに浩一がトラックに撥ねられてしまう。どうみても明らかに死亡したとしか思えない状況で、浩一がひょいと起き上がってきて…
表紙とタイトルと帯から、「泣かせ」の物語かと思ってたら、ティストはどちらかというとコメディ。でも結局は泣かせの物語になるわけですが。
なんとも微妙なお話だなあ… 最後は結構涙腺にきたんですが、オススメするかというと難しいところです。語り口のうまさなどはさすがなんですが。
●「ソリッド・ラブ」榎田尤利[太陽図書]860円(02/02/06) →【bk1】
●「レイニー・シーズン」榎田尤利[太陽図書]860円(02/02/07) →【bk1】
「魚住くんシリーズ」の作者のコミカルなリーマン・ボーイズラブもの。吾妻&伊万里のシリーズの2冊を一気読みしました。
サラリーマンといってもキャラは20代前半、犬に喩えるならドーベルマン×柴犬みたいなカップルです。こういう前向きでアクティブな受というのは榎田さんにしては珍しいキャラかも。
なかなかおもしろかったです。もちろんイヤなこともあるんだけども、仕事を楽しんでるという雰囲気の職場がいいなあ。キャラ的には主役カップルよりも脇の方が私には魅力的でした。王子沢くんのヘラヘラしてるように見えてしたたかで、影がありそうなところとか好み。次の新作では彼の吾妻くんへの思いがもっとはっきりみえるようになるそうで、今から楽しみ。
あとは、なんといってもキワ様(♀)でしょう。あの独特の喋り方や底が見えない強さとか素敵です。キワ様メインの話も読んでみたいものです。
●「ダルリアッド 駆け抜ける蒼き宿命」駒崎優[角川ビーンズ文庫]457円(02/02/05) →【bk1】
「足のない獅子」シリーズの作者の新作。今度は古代スコットランドをモデルにした、気まぐれで残酷な神々が実存する世界でのファンタジーです。
闘神ルーグの寵愛をうけて臨まないのに不死の存在となった青年トゥーレ。彼は盗賊のロクレインに力を与えて、ヴィニコーン族への復讐を果たそうとするが…
……悪くはないんだけども… 物足りない。設定やキャラが物語に生かしきれてないというか。うーん。
この作者は「足のない獅子」のようなホケホケまったりとした話の方があってるかもしれないなあ、とふと思いました。とにかく、次の「現代日本、ホテルを舞台にした始末屋」シリーズに期待しておきます。
●「緑衣の牙」竹本健治[光文社文庫]533円(02/02/03) →【bk1】
北海道にある、緑に囲まれた陸の孤島・星辰女子学園で一人の少女が亡くなった。跋扈する緑衣の人物、そして「罪ハ血デ購ヘ」という血文字の脅し文句。そしてやがて第二の惨劇がおこり…
天才少年棋士・牧場智久と女子高生・武藤類子のシリーズ。竹本さんの作品は「ウロボロス」関係は読んだんですが(トリック芸者は大好きです)、この智久くんのシリーズは未読だったんですよ。でも「入神」を読んでから智久くんのシリーズを読んでみたくなって。…でも「ゲーム殺人事件」も「凶区の爪」「妖霧の舌」ももう手に入らないんですねぇ。図書館か、古本屋で探すしかないのかな。
さて、ミステリとしてみるとこの作品はもうひとつ、という感じがします。トリックは分かりやすいし、動機にしてももうひとつ説得力に欠けるものが。でも閉ざされた美しい世界の描写は見事で、それで十分楽しませてもらいました。あとは棋士としての智久くんの描写とか。桃井という自分とは全然タイプの違う「天才」に出会うことで、相手の碁に魅せられ、自分の碁が打てなくなってしまい苦悩する智久くんの描写を読んで、ヒカルと出会った頃のアキラもこんな感じだったのかなあ、と思ったり。
とにかく、他の話も探してみます。
●「ミステリ・アンソロジーII 殺人鬼の放課後」恩田陸/小林泰三/新津きよみ/乙一[角川スニーカー文庫]500円(02/02/02) →【bk1】
「ミステリ・アンソロジーI 名探偵は、ここにいる」に続く、アンソロジー第二弾。富士見ファンタジアに続いての若者向けレーベルでのミステリ展開ですが、手応えとしてはどうなのかなあ。
さて、前回の「名探偵」のアンソロはもうひとつでしたが、今回のテーマ「殺人鬼」はとてもデキがよかったです。
「水晶の夜、翡翠の朝」恩田陸:萌え死ぬかと思いました。今回の話は、かの名作「麦の海に沈む果実」のラストより少し後の、あの湿原の中にある学園での話。ヨハン視点で物語が進みます。閉ざされた世界での、奇妙なルールに基くゲーム。恩田さんの得意分野のネタで、今回も目に見えない軋みの音が聞こえてくるような感じがすばらしい。ミステリとしてもきれいにまとまっています。
なにより、ヨハンが私の好み過ぎて、もうたまらんかったです。天使のような笑顔の、悪魔。いやもう、どうしてくれよう。この話だけに2000円くらい出しても全然かまわないと思いました。すばらしい。
恩田さん、ヨハンのその後、家督相続の話とかいつか書いてくれないかなあ…
「攫われて」小林泰三:誘拐された3人の少女の物語。小林さんらしい、後味の悪い、どろっとした話にしあがっています。描写がうまい。読んでるこっちにまで痛さが伝わってきて、体がモゾモゾと。
「還って来た少女」新津きよみ:死んだはずの少女が目の前に現れる。普通の話。
「SEVEN ROOMS」乙一:今回のアンソロで一番よかった。少女と10歳の弟が意識を取り戻したときにいたのは、コンクリートに囲まれ閉ざされた部屋。唯一あるのは、汚水を流す溝だけ。やがて二人はこの部屋の「ルール」に気がつくが…
余分なものを徹底的に殺ぎ落とした構造のシンプルさが、怖さを引きたてます。しんしんと迫ってくる恐怖。それに加えて、切なさとやりきれなさのバランスが見事。乙一って書くほどうまくなっていきますね。先がますます楽しみな作家です。
●「放蕩長屋の猫」榎田尤利[SHY NOVELS]860円(02/02/02) →【bk1】
東京下町のボロ長屋に同棲して4年目のまひろと遊真。まひろは売れないイラストレイター、遊真は中堅どころの広告代理店の営業。同棲当初頃の熱さはすでに二人の間にはなく、浮気症の遊真の行動をまひろは見てみぬふりをしていた。しかし、遊真の浮気がバレてしまい…
ボーイズラブ、というには登場人物たちの年齢平均は20代後半だったりしますが。長い春をどうやって乗り越えてゆくか、というボーイズラブではあまりないテーマの話です。
さすが「魚住くんシリーズ」の榎田さん、描写がとにかくうまい。キャラたちの生きてる世界に、リアルな手触りを感じます。切なくていいお話でした。あと、茶会や表具の描写はなかなかに興味深かったです。千鳥や美咲のような女の子キャラにもちゃんと魂が入ってるのがいいねぇ。
それにしても。なんで遊真がいいんだろう、まひろは… 春彦の方が包容力もあっていい男なのにっ!! そういう打算でコントロールのきかないのが恋愛なんでしょうが。
この話の教訓。「ケンカのときに本当のことを言ってはいけない」 心しておきます。
●「ラーメンの誕生」岡田哲[ちくま新書]720円(02/02/01) →【bk1】
日本発世界食となった「ラーメン」の起源や発展の歴史について書かれた本。
それにしても、今当たり前のようにある食べ物は昔からあるわけじゃなく、先人たちがおいしく食べるために苦労を重ねて改良してきた歴史の積み重ねのうえにあるんですよね。ありがたいことです。
当たり前のように食卓に上っている中華料理にしても、普及しだしたのは第2次世界大戦後というのは初めて知りました。
外来文化がどのように変質していくかという話としてもおもしろかったです。ただ「ラーメン」話としては、もっと現代の部分も読みたかったかなあ。
●「流血女神伝 砂の覇王6」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]476円(02/02/01) →【bk1】
「流血女神伝」シリーズ最新刊。
またしても前回とんでもないところで終わりましたが、今回もカリエの運命は流転し、ジェットコースターのような波瀾に満ちた展開。それにしてもこれまでが猟師の娘→王子の影武者→奴隷→小姓→正妃→海賊だもんなあ。それでもメゲずに強くなっていくカリエが魅力的。新キャラもよかったです。特に副長。萌え。
このシリーズは架空歴史活劇寄りの異世界ファンタジー。疲弊した大国や、そこを虎視眈々と狙っている周辺国に様々な宗教も絡んで大きなうねりのある物語となっています。キャラ、ストーリー、世界観と三拍子揃った一級のエンターティメント。オススメシリーズです。
読むならば「流血女神伝 帝国の娘」から。
さて、ネタバレ感想→おお、カリエとバルアンが結構いい雰囲気にっ!! …でもあのラストからすると、二人は離ればなれになっちゃうのかなあ。カリエのお初は一体誰になるのやら…
「自分が諦めて大人しくしているのが世界平和のためには一番」であるときにどうするか。それでも戦うのか。そのあたりを須賀さんならしっかり描いてくれると期待しています。
ザガリア女神のシステムが少しずつ見えてきました。で、その「女神と契約した少年」というのはミュカですよね? ミュカ復活かしら。…でもミュカ復活の代償は一体何になるんでしょうか。命の次に大切なものは… トルーハンの代償にしても、「娘の命」だけで終わるとは思えなくて。海賊団をすべて失ってしまうとか。それとも奥さんと子供たち全員とか…
ラクリゼのキャライメージも今回の話と読むと変わりますね。2chの須賀さんスレッドで「ラクリゼ=女マックス」説が。ああ、たしかにそうかもっ!! 強くて美しくて頭いいのにどっかボケているところとか。
副長の人の悪さや、そのくせ底が浅そうなところが好みのツボを刺激されまくりでした。
イウナも健気でいいキャラですな。あんなことしたけれども。彼女の先行きも心配です。←
この先、どういう展開になるんだか想像がつきませんが、今年は「流血女神伝」がどんどん出るようで楽しみです。でも須賀さんにあんまり無理はしてほしくないんですが…
●「ハードボイルドに触れるな」榎田尤利[SHY NOVELS]860円(02/02/01) →【bk1】
●「ロマンス作家は騙される」榎田尤利[SHY NOVELS]860円(02/02/01) →【bk1】
「夏の塩」/「プラスチックとふたつのキス」/「メッセージ」/「過敏症」という「魚住くんシリーズ」の作者の完全ボーイズラブなシリーズです。
「魚住くんシリーズ」は一般的にもオススメできるセンシティブな話ですが、こっちは完全にボーイズラブレーベルってことでなんとなく敬遠してたんですが、二作目の「ロマンス作家〜」の方が一種のネットモノだと知って読むことに。
かけだし作家の深雪(受)は童顔で貧弱な体格が悩みの27歳。運動不足がたたって、重度の腰痛&肩こり持ち。高校時代からの友人・神楽坂(攻)の紹介で、「伝説の整体師」のところに治療をうけにいったが、そこにいたのは長髪美形の千疋(攻)だった。千疋と深雪の急接近にヤキモキして、十年来の思いを抱える神楽坂もついに行動に移ったが…(一作目)
深雪の処女作は順調に売れていたが、依頼されたラブストーリーを書くのに四苦八苦。そんなとき、深雪を叩くサイトをインターネットをみかけて落ち込んでしまう。サイトでの叩きはエスカレートし、やがて深雪のプライバシーにまで足を踏み入れるようになり…(二作目)
基本路線としては三角関係のラブコメなんですが、作家の魂は表面的には違う作品でも、底で繋がっているんだなあとしみじみ思いました。心の傷と「再生」の物語。コミカルだけども、切ない。
カップリングとしては、主人公たちよりも美空×ひかりの方がお気に入り。二作目のひかりのタンカがよかったです。
あと、どんなに性格が歪んでいようとも、作品さえよければ作家としては許されるというのは同意。でもなあ、実際は作品がダメダメなのに性格がアレレという方が多いからなあ… 特にネットに出没している人では。
困ったこと(?)にボーイズラブレーベルだけあってえっち度が高くて、口絵カラーが… いや、口絵だけならいいけども裏表紙にまでそのイラストがあるので表紙を外しておいておけないのが困ります。一人暮らしなら平気なんだけどねぇ…
|