01年12月に読んだ本。   ←01年11月分へ 02年01月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「ラグナロクEX. THE OUTSIDERS」安井健太郎[角川スニーカー文庫]648円(01/12/30) →【bk1】

人気シリーズ「ラグナロク」というFF7ティストのファンタジー系バトル小説の番外編で、今回は書き下ろし長編。番外編とはいえ、前作本編最後につながる話です。
人間やめちゃった超人たちがたくさんいる組織《ヴァルハラ》と《闇の種族》でありながら人間との共存を模索している《アインラート》との会談を、腹黒くん・ザントと、虚弱なテーゼのふたりの視点から描かれています。
話自体はドロドロ、派手な展開でなかなかよかっかと。また懐かしい人たちも復活。
今回はかなり本編の謎に絡む話がでてきてました。あー、あの社長まともな人間じゃないとは思っていたけれども。それにしても人間側であるはずのヴァルハラの人たちよりも、闇の種族のアインラートの人たちの方が思考的には「人間らしい」というのはわざとなんだろうなあ。とにかくパワーインフレを起こしてるこの物語ですが、ちゃんと風呂敷は畳めるんでしょうか。


●「マンガと著作権 〜パロディと引用と同人誌と〜」[青林工芸社]1000円(01/12/29) →【bk1】

コミックマーケットで購入。2000年にコミケット主催で行なわれた2回のシンポジウムをまとめたもの。
一回目がマンガ家中心、二回目が弁護士中心という形になっています。タイトルには同人誌は入ってますが、同人誌というよりはプロがマンガを書く上でのパロディの扱いの問題、批評とパロディの話、またパロディされる側という「プロ中心」の話が多くて、同人誌だとどうなるか…という話が少なかったのは残念です。インターネットでの個人サイトでの問題にはほとんど言及なかったし。
フランスのパロディ法の話はまとまった資料があまりないのでありがたかったです。あと、アメリカのフェアユースの概念ですが実質的な判例となるものがないというのは初めて知りました。
それと、ちょっと前までは出版社のプロの編集者でも著作権についてはほとんど知識がないというのは…いや、意外ではないなあ。大手の出版社が著作権侵害をする側として問題になってしまった事例もよく聞きますから。最近はまだ少ないにしても、数年前とはもっと酷かった。
巻末に著作権関係の参考図書なども載ってます。実は「パロディ」と著作権問題について書かれた実質初めての本なので、パロディ同人誌を作成してたり、ネットでファンアートを発表してたりする方には目を通してもらいたい本です。…でもこれ一般書店で販売しているのかなあ? ダメでもbk1のようなオンラインショップで購入できます。
コミックマーケットでは、申し込み書などを売ってるところで売ってます。


●「A君(17)の戦争 1.まもるべきもの」豪屋大介[富士見ファンタジア文庫]620円(01/12/29) →【bk1】

ちんちくりんでイジメられっ子タイプの剛士は、一見気が弱そうで追い詰められると底力を発揮するタイプ。そんな彼が時空を超えて異世界に召還された。人間たちに戦争をしかけられ、滅亡の淵にいる魔界の魔王として…
評価の高い某有名架空戦記作家が別名で書いたという噂もある小説。「戦争」についての骨太な枠組みをライトノベル的なキャラやアイテムなどで包んだような話。ギャグのセンスはもうひとつかもなあ… 感覚がちょっと古いような。でも根本がしっかりしてて、続きを読みたい作品。でもなんだかあまり売れなさそうな気がして心配です。


●「トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons II サイレント・ノイズ」吉田直[角川スニーカー文庫]514円(01/12/28) →【bk1】

「トリニティ・ブラッド」シリーズ新刊。ヘルシングとかトライガンとか、あとはライトノベルでよくある吸血鬼モノのをごった煮にしたような、吸血鬼vs人類(古代文明のロストテクノロジーあり)のカトリック風世界をバックにしたバトルファンタジー。
長編と、その3年前の話である連作短編が交互に出版されていく作品ですが、今回は短編の続編。
読んでいて既視感がある話でありますが、作者自体は筆力のあるからさほどは気にならないです。 今回もこの世界の「謎」に関わる部分がでてきましたが、長編でちらりとでた謎解きのわりとそのまんま延長みたいだったので、やはりアレはフェイクではなくて正解だったってことかなあ。
個人的にはトレスのイラストがもうすこしほしかったです。


●「吹け、南の風 1.星戦の熾天使」秋山完[ソノラマ文庫]476円(01/12/26) →【bk1】

「懐かしき未来」の新シリーズスタート。「ペリペティアの福音」の数年後、あの《連邦》第三息女・ジルーネと、トランクィル廃帝政治体との間に起こる「無邪気な戦争」の話です。シリーズ1冊目ということでストーリー自体はあまり進まず、設定周りの説明という布石だけで終わったような気がします。まあ秋山さんの作品だし、気長に待つつもりですが…
ちなみに「天象儀の星」にでてきたキャラも今回登場していますが、知らなくても読めるかと。
あとがきによるとキャルもいずれ登場するようですが、フレンもでてくるのかなあ。
これ自体は独立した話となってますが、秋山完の最初の話としてはわかりにくいかと… 個人的には「リバティ・ランドの鐘」あたりをオススメしたんですが、ソノラマ自体があまり本屋にはないし、その上少し古い本ですから…


●「真・女神転生II」吉村夜[富士見ミステリー文庫]560円(01/12/25) →【bk1】

「真・女神転生 廃墟の中のジン」に引き続き、ゲームの世界観を元に吉村夜が書き下ろしたオリジナルストーリー。前作の続きとなっています。前作よりはお話がすっきりしてて、少し物足りない部分もありますが、こういう少年が勇気をだしてまっすぐに進む話には心動かされます。
元のゲームに愛情と理解がある方によるノベライズなのでゲーム好きにもオススメですし、ゲームをやってなくても話はわかるかと。(でもあとがきで一部ネタバレしてますけどね…)
ゲームの方は、真の方の1は結構やりこんだんですが、2はやってないのでゲームネタの部分に反応できないのが寂しいなあ。


●「サムライ・レンズマン」古橋秀之[徳間デュアル文庫]733円(01/12/20) →【bk1】

スペース・オペラの金字塔である、E・E・ドク・スミスの「レンズマン」シリーズの世界を舞台に「ブラックロッド」「タツモリ家の食卓」シリーズの古橋秀之が新しい物語を描き出しました。
未来、人が宇宙を縦横無尽にかけまわるようになった頃、宇宙犯罪を取り締まるべく作られた「銀河パトロール」とその中心的存在のレンズマンたちの活躍を描いたヒーロー物語。ストレートでパワフルな完全懲悪モノでありながら、世界の深さも感じさせるお話でした。
原作は1937年、なんと第2次世界大戦前の作品で、今となってはどうしても古さを感じてしまうところがありますが(特に創元社の旧訳は)、古橋さんの手によって新しい酒が注がれて「サムライ・レンズマン」として新たに蘇りました。
とにかく、熱い!! 燃える!! 原作のレンズマンのエッセンスをぎゅっと濃縮しながら、とっつき易さもあり、その上古橋さんのオリジナル要素もうまく加味されていて、プラスの相乗効果を出しています。そう、これなんだ!! 正義を貫くまっすぐさ、熱い魂、途方もないスケール感とスピード感。子供の頃、ワクワクしながら冒険物語を楽しんだ気持ち。そういうのが蘇ってくる、とてもよい話でした。
今回の話は、(原作)3巻の数年後の物語で、古橋オリジナルキャラである日系子孫のサムライの心を持つレンズマン《シン・クザク》を中心に物語が進みます。でも原作メインキャラももちろん登場、その上それぞれのキャラらしい活躍も見せてくれますし、細々とした要素に原作ティストがきちんと残っていて、原作ファンの期待を裏切られない作品。小さくまとまらない、あの物語インフレ感があるあたりこそレンズマンですね。今回の敵の攻撃方法といったら、それゃもう!!
原作を知らない人にもオススメ。特殊用語はさりげなく説明されているので大丈夫。実際、原作を知らない人でも、「おもしろかった」と感想をアップしている人がたくさんいますから。SFは苦手な人でも、「スター・ウォーズ」レベルが大丈夫なら全然平気です。奥は深いですがとっつきやすいので。
原作の旧訳(小西版)では現在絶版となっていますが、もうしばらくすると創元SF文庫にて小隅黎氏の新訳で「レンズマンシリーズ」が刊行されるそうなので楽しみです。「サムライ・レンズマン」を読み終わった後、いてもたってもいられなくて本屋で旧訳の方を探したけども見つからなくてがっかりで。あああ、もう一度読みたい!! 早く刊行してくれないかなあ。
レンズマン思い出話。私が好きなキャラはウォーゼルでした。エピソードでは鉱夫に化けて潜り込む話とか、惑星トレンコの描写、読んだのはあんなに昔なのによく覚えているものですなあ。夢中になって読みふけった記憶があります。
さて、古橋秀之ファンとしてびっくりしたのは、今回の作品の読みやすさとメジャー感。読みやすさについては、あの人は文章や構成、キャラ作成がうまい人だから考えてみれば当たり前ですが、「ブラックロッド」シリーズにしても「タツモリ」にしても読む人をあまりにも選ぶ作品だっただけに、意外な感じがしました。それにこの方の書いた作品って、どうしてもマイナー感があって、これは作風だから仕方ないだろう…と思ってたから今回の「サムライ・レンズマン」にはびっくり。まあ原作ではこの世界においては「悪」は絶対悪で、前向きな物語だから「サムライ・レンズマン」もそういう風にしあがったのかも。…いっそのこと、古橋さんもオリジナルだけではなく、積極的にメジャー作品のノベライズを引き受けて「メジャー作品の書き方」に慣れていったらいいかもしれないなあ、と。すごく好きな作家さんなのに、いかにも売れなさそうな作品ばかり書いているのをみてるのは歯がゆい部分があるので。これだけの実力のある人ですから、専業作家として成功してほしいんです。
微妙にねたばれ感想。→「日本かぶれのアメリカ人がみた勘違いサムライ」そのまんまの描写がなかなかに愉快。あと狂気と悪意の塊の悪人の描写がすばらしいですなあ。それと、今回一番燃えたのは、キニスンが任務解除宣言をするところとそのあとの「QX!!」ですね〜。胸が熱くなりました。そう、こういう物語こそが読みたかったんだ。


●「俺に撃たせろ!」火浦功[徳間デュアル文庫]505円(01/12/18) →【bk1】

昔、SFアドベンチャーにて連載されていたハードボイルドもの。…とはいっても火浦功の作品ですから、コメディであります。
真夏のホテルのプールに浮かんでいた死体はサンタの格好をしていた。最近は物忘れが激しい私立探偵のアルツ・ハマーは事件の解決に乗り出すが…
悪くはないですが、古い作品だなあという感じがしちゃいます。新刊であっても、書かれた年代を見るとすごく古い… 本当にこの人ってどうやって生計たてているのか、不思議。
古い作品を復刻するならば、「スターライト☆」シリーズもやってくれないかなあ。すごく好きだったので。


●「黒と茶の幻想」恩田陸[講談社]2000円(01/12/16) →【bk1】

恩田陸の最新刊。学生時代に親しかった、中年の男女4人で緑豊かな離島に旅に出かける。そこで彼らは不思議な謎を持ち寄ってあれこれ推理を繰り広げるが…とアウトラインだけですとそれほどおもしろそうには思えませんが、これがもう、すばらしくよかった。
ゆらぎの物語。
帯に"華麗にして「美しい謎」"と書かれていますが、ミステリとして読むと肩透かしを食らうかも。強烈な謎や派手な展開はないですから。
ただ、恩田陸の紡ぎ出す言葉に酔い、太古から続く森を共に歩き、自分の中に投げられた「謎」という名の小石が巻き起こす波紋を眺め、湖底にあるものを目を凝らしてみる。思いもがけないものや、忘れたはずのものが浮かび上がってきて。
読んでいる自分にもかすかな波動が伝わってきて、それが少しずつ増幅されて揺さぶられてしまった。泣くような話ではないかもしれないけれども、なぜかずっと泣きたいような気持ちで、読み終わった後泣いてしまいました。
構造的には「木曜組曲」では5人の女とひとりの死者、「ネバーランド」では4人の少年のひとりの死者、そして今回は4人の中年男女とひとりの死者。恩田さんはこういうシチュエーション好きなんでしょうね。どの話も空気が違うものの、キャラクターがみな凛としているところが恩田さんらしいなあ。ちなみに「麦の海に沈む果実」「三月は深き紅の淵を」とは響き合う物語であります。
個人的には恩田さんの中でも1,2を争うくらい好きな本になりました。再読したら初読で得られた大切な何かが磨り減っちゃいそうで、しばらくは読むことができないけれども、40歳くらいになったらまた読んでみたい本です。


●「夢の宮〜蛛糸の王城〜」今野緒雪[集英社コバルト文庫]476円(01/12/14) →【bk1】

「夢の宮」シリーズ最新刊。
ロアン王国の若き王・シュモンは、不幸な身の上に育った従姉のユアイを側室に向かえるつもりだったが、周囲の反対は大きかった。ある日、シュモンのところにユアイの秘密を仄めかす文が届き、それにおびき出されたシュモンは殺されかけ、気がついたときには「夜の舘」に監禁されてしまったが…
中国風の架空の国・ロアンを舞台にした物語ですが、今回はどちらかというと悲劇ですね。悪くはないですが、やはりこういう話になると甘さが目に付いちゃうところがあって。「マリア様がみてる」シリーズのような、たわいのないほのぼの話の方は結構いいんですが。


●「グイン・サーガ82 アウラの選択」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(01/12/12) →【bk1】

「グイン・サーガ」シリーズ最新刊。
あらすじ→レムスと共にクリスタルパレスへ乗りこんだグイン。そこにいたのは、レムスの思いどおりに動く人形のような人たちばかりだった。レムスは息子のアモンをグインにひき合わせる。アモンは生後2か月にしてすでに10歳くらいの美少年に成長していた。アモンの目に強烈なパワーを感じるグイン。その後、レムスはグインを古代機械のところに案内する。転送装置である古代機械は「パスワード」さえあればある程度のところまでは誰でも操作できるという。古代機械は使い手を自ら指名し、それは1代にひとりのみ。物語の発端となった、レムスとリンダがルードの森に飛ばされた件は、実は魔の種子を植えつけられていたリア大臣がどさくさにまぎれてふたりをキタイに送り込むつもりだったが、古代機械が介入してルードの森に飛ばされたという。古代機械の内部にグインがはいった途端、機械が作動しグインに思念が流れ込んでくる。グインは古代機械に「マスター」として迎えられ、「ランドック」や「アウラ・カー」などの言葉やイメージを送られたが、「不適格ゆえに追放された王」ということで部屋から追い出される。レムスの中に潜むヤンダルもグインがそう語るのを聞いていた。
その後、レムスはグインをリンダが幽閉されている塔に連れてゆく。リンダはヤンダルの魔法で眠らされていた。彼女をみたグインはそのまま帰ろうとして、リンダをネタに交渉するつもりだったレムスをはぐらかす。グインはレムスがリンダをどうしようとそれはパロの問題であるとして干渉するつもりはないと言った。レムスはグインにヤンダルの支配に怯える自分を助けてほしいと懇願するが、ヤンダルからもらった力に執着しているレムスをグインは一蹴する。そのとき、リンダが突然現れ、グインに助けを求めた。夢現状態のリンダはグインに予言を行なった。「世界がかわるときが迫っている」「これは、アウラのさだめたまいしこと」と。リンダはレムスに絶縁宣言をし、自分の命を盾にして捕まっていたアドリアンも開放させる。そしてグインとリンダは眠るスニをつれ、アドリアンと共に脱出を測った。果敢に戦ったグインだが、追い詰められ、古代機械で脱出することになった。しかし重量オーバーの関係で全員は移動できず、アドリアンは居残ることに。シュクの町に一瞬でグインとリンダは戻った。

今回はまあまあ。ここしばらくと比べると持ちなおしたかなあ、と。相変わらずベラベラ喋りすぎだとは思いますが、グインがレムスを糾弾しながら、自らのシルヴィアに対する複雑な気持ちに思いを馳せるあたりは結構よかったです。あとアドリアンも健気で。
ただ…古代機械の描写がなあ。OSはWindowsですか?といいたくなるような描写はちょっと。それにセキュリティはあんなレベルでいいんですかねぇ…やはりMicrosoft製なのかも。


●「シックス・ボルト」神野オキナ[電撃文庫]610円(01/12/12) →【bk1】

「管理者」から地球人に押し付けられた戦争。選ばれた少年少女たちに「権利者」から貸与された武器を用いて「権利者」たちの代用存在と一定のルール下で戦わけなればいけない。人類が勝利をおさめれば文明の仲間入りができるが、負けてしまえば滅ぼされてしまう。戦争の開始は2016年から。…そしてイギリス、アメリカで戦争が始まり、ついに日本でも…
ちょっと詰めこみすぎで消化しきれてないところはありますが、極限状態の中で明日を信じきれないけれども必死で戦う少年・少女たちの健気な気持ちが結構ストレートに伝わってきます。あとがきによると、「スターシップトルーパーズ」や「ガンパレードマーチ」に刺激されてできた物語だそうですが、まあそういう雰囲気と言えばわかるでしょうか?
ツッコミどころは多数ありますが(ヒロインが綾波だったり、血液だけで記憶までクローニングできないと思うんだけど…とか)、続きを読んでみたい物語ではあります。


●「殿下の料理番」渡辺誠[小学館文庫]476円(01/12/12) →【bk1】

宮内庁管理部大膳課厨司、いわゆる宮中の料理人で、皇太子殿下に長年つかえた作者の思い出を綴ったエッセイです。
私は「特殊職場モノ」が結構好きで、マンガの「大使閣下の料理人」も好きなんですよ。そういう仕事ぶりを知りたくて読んでみたのですが、どちらかというと殿下の普段の食事の話とか、そういう内向きの話がほとんどでした。皇室ご一家への愛が溢れていて、微笑ましい一冊でした。
思ったこと。自分が心から敬愛できるような人に仕えることができるのは幸せだよなあ、ってこと。もうひとつは、自分で好きなものを選んで食べることさえできない生活というのは大変なんだなあということ。「生まれながらにして特別な存在というのは大変なんだろうなあ…


●「鏡の中は日曜日」殊能将之[講談社ノベルス]820円(01/12/11) →【bk1】

「ハサミ男」「美濃牛」「黒い仏」の作者の最新作。
自称(?)名探偵の石動は、14年前に起こった殺人事件の再調査を依頼された。法螺貝を模した「梵貝荘」で起こった不思議な殺人事件。それは水城の探偵生活の最後を飾る事件でもあった…
またしても人を食ったような話を書く方ですなあ。今回はミステリの枠内で収まっているものの、それなりに濃いミステリファンなら自虐的に楽しめる物語ですが、薄いミステリ読みには何がなにやら…かもしれません。個人的には面白かったですが、オススメかというと微妙なところですなあ…
以下ネタバレ→使い勝手よくするための改造はいかんですがな。ミステリファンの夢(笑)を壊しちゃ。名探偵の引退の仕方にしても。それにしてもあの動機のどうでもよいわりには作り込んであるあたりが愉快といえば愉快ですが。


●「ネガティブハッピーチェーンソーエッヂ」滝本竜彦[角川書店]1500円(01/12/10) →【bk1】

第五回角川学園小説大賞特別賞受賞作。ネットの一部での話題作です。ちょっとスタンスが斜めな青春モノ。一言でいうなら、「わかりやすいブギーポップ」。
高級和牛を万引きした帰り道、陽介は不死身のチェンソー男と戦うセーラー服の少女・絵理と出会った…というイカレた設定の話だとは聞いてたんですが、あれ、この作者ってシラフで書いてるんじゃ。頭もすごくマトモで、計算をきちんとした上で物語を組み立ててる印象を受けました。うまいです、この人。
あとがきをみるとどちらかというと「降りてきた」物語みたいですが、ということはこの作者の無意識が結構論理的なんじゃないかな。
結構おもしろかったです。文庫本ならオススメ。でも単行本だからなあ… 青田買いの好きな人は買って損はないかと。
ただ、個人的には、青春モノは「うまい」作品よりも過剰だったり、割りきれなかったり、そういういびつなものの方が好きなので、この作者の「うまさ」のために逆に物足りないものを感じたり。単なる好みの問題ですが。(ちなみにミステリはきれいに割りきれている作品の方が好きです。)


●「恋愛の取説」岡田斗司夫[現代書刊]1200円(01/12/09) →【bk1】

以前発売された、「人生テスト 人を動かす4つの力」の恋愛特化マニュアル。
人間をその人の欲望の方向性から「王様」「軍人」「学者」「職人」にわけて、それぞれの「幸せ」が感じられるような行動のアドバイスが。前回の本と違うのは、今回が恋愛に特化したのと、各タイプをそれぞれ3つに、合計12タイプにわけての判定だということです。
私は学者寄りの職人で「恋愛修行僧」になりました。説明読んだけどなんか違う…ただあの質問だけでは正しいタイプにはなりえないだろうなあ、とは思います。
本だけでは前作の方がおもしろかったかな。でも、恋愛系の心理テストが好きな人にはかなり楽しい内容だとは思います。


●「30独身女、どうよ!?」岡田斗司夫[現代書刊]1400円(01/12/09) →【bk1】

30歳前後、男に対して夢がなくなって、自分で生活できる根性があるけれどもふと寂しくなってしまう、そういう女性をこの本では「30独身女シンドローム」と読んで、彼女たちの象徴(?)の「うさぎちゃん」と岡田さんとの対談形式で描かれた話です。
まあ主張されていることは「フロン 結婚生活・19の絶対法則」と同じことでして、私はこれは「アーヴ的恋愛のススメ」かなあと前に感想に書いたんですが、今回も受けた印象はそれ。
恋愛の幻想を否定して今の恋愛は「100円ショップで買うような日常消費財でしかない」というような身もフタもないことを言ったり、n対nの恋愛様式のススメだったりとおもしろい話ではあるんですが。
部分的にとても頷けるところはあるんだけど、全体としてはなにか腑に落ちないんですよねぇ。特に「じゃあ、どうすればいいんだ?」という実行編のところ。「パンがなければお菓子を食べればいいのに」というマリー・アントワネットの伝説的なセリフを思い出してしまいました。庶民の実生活レベルでは金銭的に実行が難しいような… 「無理に結婚しなくてもバイトで暮らしていってもいい」って、今のバイト代の安さでは都会のひとり暮らしは難しいし、ましてシングルマザーなんて無理ですよ。かといって田舎は生活費は安くても求人があまりないし。今はよくても、親が老いたらどうするか、また種族としてみると子孫を残さないのはどうよ?になるだろうし。たしかに不本意に結婚しても不幸になるだけなのは確かですが、かといって「自分の幸せを一番に考えればいい」というスタンスもそれはそれでなあ、という感想になってしまいます。かといって自分を犠牲にしてまで…出産・子育ては女性に負担が大き過ぎるんです。一番いいのは、男性も子どもが持てて、アーヴのように子どもはほしい側が育てる…という風潮になることですが、私たちはアーヴではないのですから。
ちなみに平成7年度の国勢調査の結果によると、「25〜29歳の未婚率が最も高いのは,男女とも東京都でそれぞれ75.8%,59.4%となっている。一方,最も低いのは,男子が宮崎県で59.9%,女子が福井県で39.8%となっている。」そうであります。今ならもっと増えてそうだなあ…
個人的には「フロン」の方がオススメですが、30前後で「自分の人生、これでいいのか?」と思ってる女性は一度読んでみてください。プラスにしろマイナスにしろ、何かしらの刺激になると思うので。同じく30前後の独身男性も読んでみる価値はあるかと。
私自身は、今のダンナとうまくいっててラブラブでありますが、やっぱり「結婚して自由がなくなった」と感じることがありますねぇ。それでも結婚してよかったなあ、と。
友達には30過ぎても趣味に仕事に充実した生活を送ってる人たちがたくさんいます。彼女たちがこの本を読めばどう思うかなあ?
あと、30独身男に「ここで書かれているほど男ってバカなものかなあ?」というのは聞いてみたいかも。
なんか歯切れ悪い感想だなあ…


●「うつくしい子ども」石田衣良[文春文庫]448円(01/12/08) →【bk1】

平和で平凡だった町で9才の少女が殺された。そして植物好きでおっとりした「ジャガ」こと中学2年生の幹生の、血が繋がっているとは思えないほど美しい13歳の弟・和枝が犯人として逮捕された。ジャガたち家族の平凡な生活はマスコミや一般人の悪意でズタズタにされ崩壊してしまうが、ジャガは弟がなぜそんな事件を起こしたのかという理由を知るために、転校せずに元の中学に復帰するが…
あの神戸での酒鬼薔薇事件を彷彿とさせるプロットですが、この物語のおもしろいところは一般人には理解しがたい犯人の心理を直接追うのではなく、重い枷をつけられた家族の視点から描いていること。不細工で不器用な少年が、嫌がらせを乗り換え、真の友人を見つけ、強くなっていく様の描き方は見事です。エピソードの見せ方やキャラ配置もうまく、読後に何かを残すようなタイプのエンターティメントとしてオススメの一冊。
…ただ。「池袋ウエストゲートパーク」のときも感じたんですが、何かがひっかかるんですよ。「これは違う」って。うーん、この物語は少年の一人称なんですが、どうしても「カメラマンは大人なんだなあ」という気がしちゃうというか。舞台で中学生を演じている役者さんの実年齢を、舞台見てる途中でふと思い出してしまって、それがそのまま頭に残ってる感じ。どうしてなのかなあ。
…たぶん、私が「少年・少女の物語」に求めているのものが、押さえきれない魂の叫びだからだと思います。過剰で、どうしたらコントロールできるのかわからないけれども溢れるのが押さえられないような。私が好むそういう小説は、荒削りで「ヘタクソ」呼ばわりされることが多いんですけどね。
石田さんの話はうまいけれども、計算がきちんとされてるだけにその計算式が見えるような気がするのがダメなのかなあ。ミステリでは計算式が見えるような話は大好きなのに、青春小説ではなぜこうなっちゃうんだろ?


●「明日の夜明け」時無ゆたか[角川スニーカー文庫]533円(01/12/06) →【bk1】

第6回スニーカー大賞優秀賞受賞作。
学園祭の準備で浮き足立っている山の上の夜見月高校で日が暮れた後、突如地震が起こった。しかも学園の周りを正体不明の霧が取り囲み、残された少年・少女たちは脱出できない。校舎に逃れ込むが、そこには正体不明の殺人鬼がうろついていて…
ミステリぽい設定ですが、あまりミステリしてないし、それを期待しては読まない方がいいかと。一応、切ない系のホラーかな?
表紙をみた印象が「ブギーポップ風」でしたが、たしかに小説自体そういう系統かも。日常からほんの少しだけ逸脱した世界での青い話。
お話自体は平均以上、読んでも損ではないですね。うまくまとまってて読みやすいし。悪くはないんですが…過剰なものが感じられなかったのが残念かも。
キャラ配置やエピソードの展開の詰めが甘く、効果がうまく発揮されてないのが残念。
石田あきらさんのイラストと、本のデザインがすばらしい。スニーカーも「ラグナロク」のヒットからこっち、デザイン面ですごく頑張ってますからねぇ。石田さんのイラストって目に力があって、キャラに魂を感じられるのがいいですね。これからどんどん活躍してほしいイラスト描きさんであります。


●「伝わる・揺さぶる!文章を書く」山田ズーニー[PHP新書]660円(01/12/05) →【bk1】

ほぼ日刊イトイ新聞にて「大人の小論文教室。」の連載を持ってる作者がその連載分を元に役に立つ「日常文章」の書き方をレクチャーした本です。
「うまい文章」といわれると、文豪の書いた小説や、うまい表現を使いこなすエッセイなどを思い出す人が多いのではないでしょうか。かといって一般人がそういう人たちのマネをしても実生活では役に立たない。普通の人にとって大事なことは、「自分の考えをきちんと伝え、状況を自分の望むように動かすこと」。そのために、どうすれば「伝わる・揺さぶる」文章を書けるか?についての話があります。
小手先のテクニックじゃなくて、戦略、いうならば「ポジショニング」の話でして、これはとても重要なことかと。書くだけの問題じゃなくて、どうやって「考えるか」の問題。
非常にオススメ。書くことのみならず、充実した人生のためにどうやって考えて生きていけばいいんだろう?ということにも役に立つかと。
本の方が話としてはまとまってますし、先月出たばかりで手に入りやすいと思いますから、ぜひ本で購入してください。お金がない人はサイトを最初から順番に全部読むのがいいかと。
個人的には、自分のサイトを持っていて、なんらかの形で文章を書いているなら、絶対に読んでほしい一冊であります。


●「月と闇の戦記1 退魔師はがけっぷち。」森岡浩之[角川スニーカー文庫]457円(01/12/04) →【bk1】

「星界の紋章」の森岡浩之の新作は、「月と炎の戦記」からのイレギュラーな続編です。
貧乏な退魔師・陸生は寝床を確保するために幽霊がでると評判のマンション・グリーンハイツの除霊を無理矢理ひきうけ、そこに住みつくことに。グリーンハイツには幽霊がうじゃうじゃいたが、それ以外に美形のどこか不思議な雰囲気の兄妹+ウサギ一匹がいて…
前半はコメディ、終盤(第二部?)だけはハデなバトル。あの「星界の紋章」の森岡さんの作品だということで過剰な期待さえしなければ、そこそこおもしろいライトノベルという感じかなあ。退魔師の除霊の仕方が斬新でおもしろかったです。
イラストは「オーフェン」の草河遊也ってことで角川もかなり力を入れてる様子。この話は雑誌「The Sneaker」に連載中ですから、連載さえ続けばコンスタントにでるのかな。
…ただ正直な気持ちをいえば、「星界の戦旗」の続きの方が…


●「今夜はマのつく大脱走」喬林知[角川ビーンズ文庫]438円(01/12/02) →【bk1】

「今度はマのつく最終兵器!」の続編。シリーズ三作目。
元気が取り柄の平凡な高校生・有利が、水洗便所に流されて辿りついた世界は異世界ファンタジーじみたところ。そこでなんと有利は自分が魔王だと告げられるが…
小説/マンガ/アニメ/ゲームに登場するありがちファンタジー世界を踏まえたバカコメディです。今回も愉快な話でした。テンポいいし、キャラも立ってるし、気楽に読むにはいい一冊かと。
今回でシリーズ三冊目ですが、あとがきに書いてあるような設定さえ飲みこめば別にこの話から読んで支障はないでしょう。ほんの少しボーイズラブの香りはしますが、ホモではないのでご安心を。


●「富士見二丁目交響団シリーズ第4部外伝 その青き男」秋月こお[角川ルビー文庫]552円(01/12/02) →【bk1】

「富士見二丁目交響団シリーズ」の最新刊はいろんな短編を収めたもの。
「その青き男」「ブロンクス便り」「知りすぎたEの悲劇」「モーツァルト日和」あたりが個人的にはおもしろかったです。なんか、圭と悠季のラブラブ話はこっぱすかしくてちょっと…普通の人の普通の話の方が読んでて楽しい。
このシリーズは天才指揮者×バイオリニストの大人気ボーイズラブシリーズですが、音楽好きな人が楽しむためにアマチュアオーケストラで奮戦している「普通の人たち」生き様の描き方が結構好きでした。音楽モノとしても楽しめるかと。ただし男同士のラブシーンは結構激しいですが…


●「流血女神伝 砂の覇王5」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]495円(01/12/01) →【bk1】

「流血女神伝」シリーズ、待望の新刊です。
前回の終わりであんなことになって、どうするんだっ!!…状態で10か月。「キル・ゾーン」シリーズのケリをつけるためや、その他編集部の都合(サイン会合わせ)というのは分かっていても、長かったです。
今回もストーリーはジェットコースター。それにしてもカリエも強くなったよねぇ。過酷な運命に流されず、それを乗り越えて行ける強い魂を持ったヒロインなのがいいなあ。
またしても先の展開が読めない終わりになってしまって、続きが待ち遠しいです。
今回の話の展開からすると、やがて「神」に定められた運命との戦い、とかに話は行くかなあ。宗教がらみの話は扱いが難しいけども、様々な宗教の元での価値観を須賀さんならうまくかきわけてくれると期待しています。
あと、あとがきに物語に必要な時に必要なキャラを出すということを書いてありましたが、私は物語の方が大切なのでこういうのは嬉しいけれども、コバルトの読者なら「キャラクター」中心のところがあるから、なかなか大変かもしれないですね。でも頑張ってほしいものです。
以下、ネタバレ→カリエはまだ「女」にはなってないんだよね?でもこのままいけば…バルアンと結ばれるの? うわー、カリエちゃんの最初は好きな人とであってほしいなあ。それにバルアンにしても、なんか不吉な風が吹いていますし、カリエと生き別れになるようなことになるかもしれない…という不安を感じています。うーむ。
それにしても現段階での腹黒選手権はラクリゼ>サルベーン>バルアン>ドミトリアスという感じでしょうか。バルアンでさえ簡単に手玉にとるサルベーンはとても素敵ですが、ラクリゼがこの物語では最強、でも何を考えてるかわかんないところが… 999番目の花嫁というのが一体何か、少しずつ謎はわかっていくんだろうけども。あと、グラーシカにわかってもらえたようでよかったねぇ。ちゃんと会話することはできなかったけれども。ルトヴィアでドーン兄上とグラーシカも頑張ってはいるものの、ここでもなんか不吉な風を感じますねぇ…
でも王族って大変だなあ…

このシリーズは架空歴史活劇寄りの異世界ファンタジー。疲弊した大国や、そこを虎視眈々と狙っている周辺国に様々な宗教も絡んで大きなうねりのある物語となっています。キャラ、ストーリー、世界観と三拍子揃った一級のエンターティメント。オススメシリーズです。
読むならば「流血女神伝 帝国の娘」から。


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