00年8月に読んだ本。 ←00年7月分へ 00年9月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「ぼくらは虚空に夜を視る」上遠野浩平[徳間デュアル文庫]590円(00/8/31)
「ブギーポップ」シリーズの上遠野さんの新作。読みきり。現代高校といつともしれぬ時代の宇宙空間での戦闘を舞台にした物語で、SFティストが強いです。
兵吾はケンカっぱやく、クラスから少し浮いているが、平凡な高校生…だったはずだった。ところが気がつくと、広く暗い宇宙に放り出され、よくわからない「敵」と戦わなければならないハメになっていて…
正直いうと、「殺竜事件」と「冥王と獣のダンス」は物足りないものがあったんですが、この作品はいいっ!! ブギーポップの初期の頃の、どこかとんがった感じが残っている。ある意味、「ブギーポップは笑わない」を別の角度から…もっとわかりやすく…描いた話であるかもしれない。
この基本設定自体はアニメや映画にも先行作品はあるし、よく使われるモチーフだけれども、味付けの仕方がいいんですよ。退屈に満ちた、平凡な日常世界も実に危ういバランスの上に成り立っていて、向こうの世界とは薄皮を隔てたようなものですぐにひっくり返りそうな、そんな感じを描き出すのがうまいなあ。元の景瀬が感じたみたいなどうしようもない虚無感、若くて自分を持ち余しがちな頃に持ったことある人だって少なからずいるんじゃないかな。青臭いといえばそれまでだけど、私は今でもそれを引きずっているところあるので、今回の話は魂を直撃、でした。
この作品で、上遠野さんが書いた話で唯一「ブギー」と繋がりのない話だった「冥王と獣のダンス」とも「虚空牙」で接続しましたね。またこの話はブギーとも繋がりがあるし→最後の方の「虚空牙の仲間のひとり」というのがエコーズってことでしょ?←、意識してつなげてるんじゃなくて、書いていくうちに勝手に繋がっていくものなのかも。
でも今回の作品で、また上遠野さんに惚れなおしました。「殺竜事件」がイマイチ気に入らなかった方も、こっちは気に入るかもしれないし読んでみてください。ただ、まだブギーポップの方を読んでないなら、やはり最初は「ブギーポップは笑わない」からはいることをオススメします。
●「リングテイル2 凶運のチャズ」円山夢久[電撃文庫]510円(00/8/30)
第六回電撃ゲーム大賞の大賞受賞作の「リングテイル 勝ち戦の君」の続編。マーニは魔道師見習いの少女の冒険談。正統派ハイ・ファンタジーです。
今度の話はこれ一冊では完結しませんが、ヒキが弱く、「次が読みたい〜」って感じにはならないんですよね。前作に比べても話は全体的に地味な感じがするし。キャラもいまいち押しが足りない。
世界観の作り方や文章など手馴れていて、力量の感じさせる人ではあるんですが、ライトノベルズとしては熱さに欠けちゃうのがなあ。
●「恋愛クロニクル」和泉桂[講談社X文庫ホワイトハート]590円(00/8/29)
「キス」シリーズの和泉桂の新シリーズ(?)。
父子家庭で育った光里は父親を事故で亡くし、ひとりとなってしまう。会ったこともない叔父の康史の家に引き取られることになったが、光里に関心を示さないように見える冷たい康史に次第に光里は惹かれていって…
もちろん、ボーイズラブもの。繊細な少年→冷たいファンドマネージャーと、元気少年→美人で優しい私立探偵というカップリング。基本筆力ある人なので、登場人物がナチュラルにホモという以外は淀みなく読める作品ではありますが、ボーイズラブとしては康史の光里に対する気持ちの移り変わりはもうちょっとあざとくでも描いた方がいいかも。最後の展開は少し唐突に思えました。
圭太はいい子ですな。個人的好みでは圭太×光里なカップリングで読みたかったかも。
●「H.O.P.E.」一条理希[集英社スーパーダッシュ文庫]514円(00/8/26)
「ネットワーク・フォックス・ハンティング」や「サイケデリック・レスキュー」シリーズの一条理希の新シリーズ。今度はすこし未来を舞台にした、お医者さんの話です。
「H.O.P.E.」は医学の英才教育を行なう施設で、勇斗は15才という年齢でそこを優秀な成績で卒業した外科医だった。テクニックはすばらしいが、患者を手術のための道具にしかみえない彼が赴任した病院には、重い心臓病にかかっている少女がいたが…
この人の話って、ライトノベルズらしい「魂の熱さ」を感じさせてくれるところが好きなんですが、今回も熱のこもった話でした。おそらくシリーズものになるのかな? 勇斗の人間的に成長していく姿が楽しみです。
●「ダブルブリッドIII」中村恵里加[電撃文庫]530円(00/8/25)
特殊な遺伝子を持ち、強力な能力を持つ生き物「怪(あやかし)」が存在する世界。日本では怪に人権を認める一方、問題を起こした怪の事件を捜査する組織「捜査六課」が存在した。優樹は外見はか弱い少女ではあるが、怪と人間との混血で、それゆえに孤独を抱えていた。そんな彼女に元に猪突猛進な山崎太一朗が派遣され、最初は反発していたふたりも気持ちが通じ合ってきたが…というのが前回までの話。今回の敵は中国大陸からやってきた、人造兵器のナタク。人造人間ってネタ的にツボだし、その上ナタクは外見は少年だから設定だけからするともっと萌えられるはずだったのになあ…
シリーズも冊数を重ねるごとに固さがとれてきたなあとは思うけど、局地的なエピソードはともかく、大きな枠組みの部分が薄っぺらくて、今回の件が全体にどう影響するかとかがわかりにくくて。主人公に特に思いいれがない以上、どうなっても別にいいやって感じちゃうんです。
やっぱりライトノベルズはキャラ萌えできないと辛い部分があるなあ。
●「ハイスクール・オーラバスター ヘヴンズ・クライン」若木未生[集英社コバルト文庫]419円(00/8/25)
「ハイスクール・オーラバスター」シリーズ新刊。今回は番外編が二つ入っています。ひとつは十九郎メインで、もうひとつは亮介と諒メイン。両方ともに希沙良の出番、多いです。十九郎の親友の西条さんはユカイな人ですが、ちょっと榎木津ぽい感じ。
だからどうした、って思ったけどまあ番外編だから。
イズミも長いことでてませんが、それよりもグラスハートの続き書いてくれないかなあ…
●「占い師はお昼寝中」倉知淳[創元推理文庫]600円(00/8/24)
「猫丸先輩」シリーズの倉知淳のもうひとつのシリーズ。安楽椅子探偵モノの連作短編集です。
霊的なものをまったく信じてなく、ぐうたらでなにより昼寝が好きな占い師・辰寅と、助手をつとめる姪の美衣子の元に訪れるのは、怪奇現象に悩まされている人たち。辰寅は彼らの話を聞いただけで、事件を解決に導くが…
小粒かなあ。設定や雰囲気は悪くないと思うけど、謎の解決にもうひとつ意外性が足りなくて。「外出中」のアレはイカンと思いますが。
安楽椅子探偵の連作短編という形式はよくあるパターンですが、特に同じシチュエーションを繰り返すタイプのものは読んでて飽きやすいんですから、繰り返すことによる効果をうまく使ってほしかったです。そのあたり、この前読んだ井上夢人の「風が吹いたら桶屋がもうかる」なんて、うまさが際立ってましたからね。
あとは謎をもう少し練りこんでほしかったなあ。
●「ピニェルの振り子 銀河博物誌1」野尻抱介[ソノラマ文庫]495円(00/8/23)
女子高校生が宇宙飛行士になる、「ロケットガール」シリーズシリーズが面白かったので新シリーズももちろん購入。
17世紀〜19世紀に住んでいた人々が、ある日気がついたらまったく知らない惑星の上にいた。人々は以前の文明を思い出しながら復興していったが、磁場を加えると推力を生み出すシャフトと呼ばれる奇妙な装置が発見されて、相対性理論も知らない、蒸気機関の文明レベルのまま、宇宙航海時代が始まる。それから190年。美しい蝶を算出する惑星・ピニェルに博物商のラスコーと画工(写真機はモノクロでかさ高いので記録をとるために重宝されていた)のモニカを乗せた交易船がやってくる。ピニェル惑星の採取人・スランはモニカに人目ボレし、彼女を助けようと(思い込んで)交易船に乗り込んだが、密航は見つかれば命を取られるような重罪であった…
宇宙を舞台にした、大航海時代の物語。文字通りのセンス・オブ・ワンダーに満ちた、わくわくする物語でした。細部までしっかりと作られていますが、非常に読みやすい物語です。
冷血・無感動なヒロインも、ちょっとイッちゃってる伯爵も、なかなかいいキャラですな。星間飛行はできてもコンピュータのない時代ですから、宇宙船のクルーに計算士が何人もいて手計算をして航路を割り出したりとか、通信機もないから光信号でやりとりするしかないとか、そういう描写が楽しい。
これはシリーズものになるんですよね? 続きがとにかく楽しみです。「プレイヤー」の謎もいつかはわかるんでしょうか?
コクはあるけどさっぱりして喉ごしのよい物語。かなりオススメ。
●「創竜伝12 竜王風雲録」田中芳樹[講談社ノベルス]780円(00/8/22)
久々の「創竜伝」の新刊。でも前作に引き続き、外伝でした。今度は宋の時代を舞台にしたチャイナファンタジー。始さんと終くんが活躍です。作者の中国好きはよく伝わってきますが、だからといって話がおもしろいかというと…つまんなくはないけど。テンポのよい兄弟の会話は楽しかったです。あまりに本編から間が空きすぎたので、もうストーリーを覚えていません。この本のラストにあったようなこと(東京壊滅とか)もでてたっけ?
次は21世紀初頭の予定だそうですが、遅れるだろうなあ、やっぱり。
●「グイン・サーガ74 試練のルノリア」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(00/8/21)
「グイン・サーガ」シリーズ最新刊。ジェニュアに入ったナリスの動向と、アグリッパを探しにいったヴァレリウスのエピソード。いつものごとく話はほとんど進みません。…最近、「ヒカルの碁」にハマるあまり、何かにつけて「…これをほったさん(「ヒカルの碁」原作者)が話を作れば…」と考えてしまうクセがついたんですが、ほったさんがグインを書いたら、この話なんて10ページもかからないかもしれないよねぇ…
ナリスって今までヒトを駒のように扱ってきて、散々悪いこともしてきたくせに、今になって被害者ぶるのはちょっと興冷め。「キル・ゾーン」のユージィン様みたいに悪なら悪の破滅の道を分かっていて貫いてほしかったのにな。
今はホモ度が高すぎてなあ…とにかく、はやくグインの話にならないかしらん。
●「大地物語 逃亡血路」荻野目悠樹[ファミ通文庫]650円(00/8/17)
「暗殺者(アサシン)」シリーズや「六人の兇王子」シリーズはなかなかよくて作家買いしちゃってたんですが、最近の「魔術貴族」シリーズはヌルくなってイマイチ感が続いてた荻野目悠樹ですが、この話は冒頭の「これは、負け戦だ。」で始まる書き出しをみた瞬間に、「復活だっー」と思いました。今回の話は、小国のラルークが大国ゼーテディマに侵攻され、壊滅寸前までいってる状態で話はスタート。腕に覚えのある武人・グレイは王の勅命で特異な力を持つ王女・ルナを同盟国まで護衛しろという命令を受ける。そして、過酷な逃亡生活が始まる…
剣と魔法(というより超能力?)のファンタジー世界で、その世界〔大地〕を管理している上位者がいるという、SF的設定も入ってます。この作者のいいところは、徹底的な主人公イジメとヒロインの扱いのひどさですが、今回の主人公はまあまあいたぶられてるかなー。でもギヴァやメムやジュネウに比べたらまだまだ。続きもののようですが、続編ではもっとひどいことになるといいんだけど。ふふふ。
ヒロインは最初は可愛げのない性格だけども、少しずつ優しさも見えてくるという感じで、この人の書くヒロインにしては真っ当ですな。でも悪くないかも。
イラストが美樹本晴彦さんってことは、結構力を入れてもらってるのかしら。とにかく頑張って、いつか「六人の兇王子」の続きを出してくれないかしら。
●「メデゥサ、鏡をごらん」井上夢人[講談社ノベルス]900円(00/8/11)
97年にハードカバーででた作品のノベルズ化。ホラーです。
作家の藤井陽造は自らをセメントで固めるという不思議な方法で自らの命を絶った。「メデゥサを見た」という言葉を残して…彼の娘とその婚約者は藤井の死んだ理由をみつけるために、彼の遺作の原稿を探すが、それが原因で…
巧い。澱みなく流れて、別の世界へ連れ去る技巧は見事。「クラインの壷」を思い出させる井上夢人らしい展開ですな。怖さはもうひとつだったけど、ノンストップでイッキ読みでした。おもしろかった。
●「遠日奇談」椹野道流[講談社X文庫ホワイトハート]680円(00/8/10)
「奇談」シリーズ最新作。本業は小説家、裏稼業が霊障を扱う「組織」に属する追儺師(ついなし)の美形・天本森と、人間と植物の精霊のハーフの美少年・琴平敏生による、ゴーストバスターもののシリーズですが、最近は湯煙紀行グルメ怨霊退治モノになりつつあります。
今回は、天本さんと龍村さんの高校の頃の話で、短編・中編・長編がひとつずつ。それにしてもこの本の分厚さに比べて内容の薄さってば。もうすこし話を濃くしてほしいものであります。
●「ハニームーン・ゴースト」上領彩[ティーンズルビー文庫]419円(00/8/9)
おおや和美さんの男二人が寄り添っている表紙イラストからボーイズラブものかと思ってしまいますが、ティーンズルビーは少女小説の新ラインナップなのでそうではありません。…すこしホモくさかったですが。「トラベルオカルトコメディー」だそうです。
高校生の真理は、ドタキャンの穴埋めで格安のアメリカ旅行に行くことに。しかしそれが新婚さんのツアーで、もうひとりの同行人は性格悪そうな光一郎。しかも、落ち込みつつも到着したアメリカではなんと幽霊に会ってしまって…
サクサク読めます。旅行のルートはロサンゼルス、ハリウッド、グランドキャニオン、ラスベガスでしたが、なんか楽しそうでいいな。食べ物もおいしそう。マコちゃんは素直でかわいいな。
作者のホームページはこちら。
●「ゲームフリーク」とみさわ昭仁[メディアファクトリー]1300円(00/8/9)
サブタイトルは「遊びの世界標準を塗り替えるクリエイティブ集団」となっています。ゲームの「ポケモン」を作成したので有名なゲームフリークについてのドキュメント。
表紙のピカチュウにつられてフラフラと買ってしまいました。こういう裏話というのは好きだし。話はゲーム「ポケモン」のアイデアができてから、紆余曲折をへて完成するまで。あとはゲームフリークの歴史と、社長の田尻智さんの子供の頃から会社が軌道にのるまで。私はどちからというと、プロモーション方面のやり方や、メディア展開の経緯などを読んでみたかったけど、そのあたりは薄いかな。
書いたのが元ゲームフリークの社員ということで、仲間の視線の優しさを感じる話です。あとはゲーム黎明期の懐かしさと。
それにしても、田尻さんの名前って「さとし」だったんですね。今までそういう読み方をするとは知らなかったです。そっか、ポケモンの主人公の名前「サトシ」はここからきたんだ。
●「木製の王子」麻耶雄嵩[講談社ノベルズ]900円(00/8/9)
「鴉」に続く、久々のメルカトル鮎シリーズということで楽しみにしてたら、あの系列の作品ではあるものの、「翼ある闇」より後の話なので、メルはでてこないのねぇ。かわりといってはなんですが、烏有さんはでできます。あと、「翼ある闇」にでてきた探偵と作家先生も。
京都の山奥に不思議な姿の豪邸を構える、有名芸術家とその一族。雪に包まれた夜、切断された首がピアノの鍵盤の上に置かれるという惨劇が起こる。しかし、関係者は全員アリバイが成立していた…
最初のうちはサクサク読めるし、アリバイ一覧表とかでてきて、「おおー、まっとうなミステリぽい!!」と思ってたけどやはり麻耶作品でありました。こういうような動機は個人的には好きではありますが、でもあんまり人には勧められない作品かも。独特ですから。
1度目に読んだときには意味不明だったことが、二度目に読むと「事件の黒幕」が浮かび上がる構図となっています。なるほど。
この作家さんは、クセがありすぎるために一般的にオススメはできないけれども、ハマる人はとことんハマるような吸引力を持っています。美しすぎる造花のような、作り物めいた美が好きな人にはいいかもしれません。話は独立していますのでこの作品からでも大丈夫ですが、やはり順番は守った方がいいかも。
結婚って、ご本人がですよねぇ? おめでとうございます。でも結婚後第一作がこれって奥さん読んでどう思うんだろ…
●「冥王と獣のダンス」上遠野浩平[電撃文庫]570円(00/8/5)
「ブギーポップ」シリーズでお馴染みの上遠野浩平の新刊。未来を舞台にしたSF設定でのボーイ・ミーツ・ガール物語。珍しくブギーの世界との繋がりはないけれども、話としては未来設定にした「VSイマジネーター」
に近いかも。
遠い未来、謎の生命体との争いに敗れ、人類の技術力は退化し、地上はいくつも勢力に別れて争っていた。そのうち、「奇跡」を使う「軌跡軍」とかつての超科学文明の残滓にすがる「枢機軍」との二大勢力に別れていった。枢機軍のトモルが、奇跡軍の「戦略兵器」である夢幻と出会ってから話が始まる…
文明が退化した世界での超科学とか、超能力(ここでは奇跡ですが)とか、ライトノベルズにありがち設定ですが味付けの仕方はさすがにさじ加減がわかっているというか。あとキャラ立ちはいつもながらうまいですね。リスキイ兄妹がいいです。特に兄萌え。いいヒトなんだか困ったヒトなんだかわかりにくいところがなんとも。ヒロインは織機綾とキャラかぶってます。
この話自体は最初の「ブギーポップは笑わない」以前に作成したのを書きなおしたそうですが、そのせいか洗練度がブギーよりも低くなってます。
なんだかんだいいつつ、やはりその後の話も読んでみたいかなー。
イラストは緒方剛志さんで、本のデザインは鎌部さんというブギーと同じトリオ。イラストは今回はリアル系で、ブギーとは雰囲気がかなり近いますね。口絵の色使いが素晴らしい。鎌部さんのデザインもソツがなくていいなあ。
●「異端者シェン 1」三浦真奈美[エンターブレイン A-NOVELS]850円(00/8/4)
「風のケアル」シリーズや「女王陛下の薔薇」シリーズの三浦真奈美の新シリーズ。出版社聞いた覚えがなかったんだけど、ファミ通系列だそうな。ファンタジーって売れなさそうなだけに、頑張ってほしいものですが。
教会が権力を持ち、「異端」と烙印を押されると破滅するような世界で、ハイデラバード藩主が異端の罪で処刑された。次の藩主を決めるため「聖なる矢」がある家に突き刺さるが(手違いのためか)その家には男の子はいなかった。いたのは、自分を男だと思い込んでいる少女・シェン。村は災いを避けるためにシェンを男だと偽って、彼女の幼馴染のダートと共に藩都へと送り出すが…
さて、今回も「のし上がり」系のお話ですが、今までのシリーズと比べて主人公の線が太く、力強いですな。そして、大きな弱みも抱えているので、ハラハラ感は今回が一番。
キャラもいい感じですね。個人的にはダートは結構好みっす。
今後の展開はかなり期待できそう。読んで損はないです。わりとオススメ。船戸明里さんのイラストも素敵。
●「上と外 (1)素晴らしき休日」恩田陸[幻冬舎文庫]419円(00/8/3)
こんなに立て続けに恩田陸の本を読むことが出きてもいいんでしょうか? しかも文庫書き下ろし。ああ、幸せすぎる〜。
●「トップラン 第1話 ここが最前線」清涼院流水と同じラインナップで、かの「グリーン・マイル」と同じ形式で、薄い文庫が定期的にでて話が続くという形式。今回は隔月で、全5巻。
中学生の練には義母の千鶴子、妹の千華子、父親の賢がいるが両親は離婚して離れて暮らしている。しかも父親は考古学者でほとんど海外に赴任したまま。年に1度、夏休みはその家族が一同に揃う。今年は父親がいる中南米に旅行しにいったが、その先で…
話としてはサスペンスかな? でも冒頭の文章からするとSF展開になる可能性もあるのかしら?
舞台が中南米のせいか、今回は世界がリアルに傾いているせいか、文章が乾いていて非常にクリア。個人的にはこの人の朝霧のような、幻想を含んだ、向こうが透けてみえるようなみえないような微妙な色合いとうるおいのある文章が好きなんですが、こういうのも悪くないですねぇ。情景描写がやはりうまい。太陽が突き刺さってくるような感じがして。
また話は発端ですが、かなり気になる終わり方をしてて、続きが楽しみです〜。
●「風が吹いたら桶屋がもうかる」井上夢人[集英社文庫]533円(00/8/3)
97年にハードカバーででた作品の文庫本化。7話の連作短編。美人の依頼人が牛丼屋でアルバイトをしているシュンペイの元を訪ねて、彼の同居人1の超能力者(でも役立たず)であるヨーノスケに事件の解決を頼む。ヨーノスケが奮闘しているところでミステリファンで理屈っぽいイッカクが論理的な推理をするが……発端もオチも毎回一緒で、シチュエーションコメディって感じですが、そのなかでもうまくバリエーションをみせてるなあ。テクニシャンです。お気楽に楽しむのにはいい作品かと。
●「ウィーン薔薇の騎士物語3 虚王の歌劇」高野史緒[中央公論社C★NOVELS]857円(00/8/2)
「ウィーン薔薇の騎士物語」のシリーズ三作目。舞台は世紀末のウィーン。ジルバーマン楽団のバイオリニスト・フランツとその仲間たちの物語。やっとメンバーも揃い、弦楽四重奏ができるようになりましたが、かれら「薔薇の騎士四重奏団」はバイエルン王・ルードヴィッヒ二世の御前演奏会のオーディションを受けることに。そこには若き日のルードヴィッヒ二世にそっくりな歌手が現れて…
今回はワーグナー、オペラ、ご落胤騒動、の話に。最初は一作目と同じコメディタッチになるかと思いましたが、ちょっと違った方向に。うーん、もう少し話に華やかさがほしかったかも。
新キャラとして登場した口絵の彼女、髪型や服のセンスが大昔の少女マンガのライバル少女ぽくてすごいですが、昔のウィーンだとこれが普通のカッコなのかなあ。
演奏しているシーンが、音と戯れる楽しさが伝わってきてよかったです。
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